第二話 恐喝
学生にとって退学は重大な問題であることは間違いないが、星野にとっては何でもないことである。 結局、世界が終わりを迎えた後は、勉強も学業もすべて、浮雲のようにどうでもよくなり、ある意味で彼はもはや学生ですらなくなっていた。
この時、星野の頭の中は将来の計画で一杯で、その計画の第一段階は――復讐と、金であった。
まずは、復讐。
なぜならそれは心の中に後悔と執着があるからだ。
数年前の交通事故で、重傷を負い、両親も亡くなったが、今も逃走中の真犯人の顔をこの目で見たにも関わらず、星野は様々な理由で陪審員に証言を却下された。
その理由は、彼が未成年であることと、事故による脳震盪、せん妄、精神的幻覚が見られたことにあった。
敵の名前もいつも覚えている――神崎万次、典型的なプレイボーイで金持ちの子供。
前世では、文明時代であれ、終末世界の真っ只中であれ、復讐する機会がなかったので、復讐の件はいまでも彼の悩みの種となっている。
だから、生まれ変わって最初に思いついたのは「復讐」だったのだ。
親の敵は不倶戴天の讐であり、彼を討たなければ、あの世にいる父や母に合わせる顔もないのだろう。
そして、この計画にはもう1つの重要な要素が必須だった――お金、それも大量のお金を、できるだけ短い時間で手に入れる必要があった。
世界が終わりを迎えた後、お金は無価値になり、今まで印刷されたお金はただの紙くずにすぎなくなるだろう。
しかし、世界の終わりを前にした今、お金は資源と交換することができるので、まだ価値はあった。
大量の資源を持っていることは、終末期においては間違いなく大きなアドバンテージになることを、星野は誰よりもよく知っている。
見慣れていながらもやや馴染みがないように感じる教室を後にした彼は、まずは寮に行って何かを手に入れようとしていたが、その途中で突然3人のごろつきに呼び止められたのは予想外だった。
「おっ!星野じゃねえか。
今日の授業さぼったのか?」
長い髪を頬になびかせた若いごろつきが言った。
若いごろつきの身長は約180センチくらい、骨太で容姿は一応整ってはいるが、全身からただならぬ悪人オーラを漂わせていれば、時々かっこつけるようにふ~って息を前髪に吹き掛けてもいる。
他の2人については、シャツのボタンを2、3個しか留めておらず、胸の肌には小さな刺青をちらつかせるなど、如何にもチンピラって感じでとりわけ特別といえるほどの特徴はない。
明らかに悪意を持ってやってきたこの3人を見て、星野は眉をひそめた――彼はどうしてもこの3人が誰なのか思い出せなかったのだ。
「誰だよお前ら、
俺になんか用?」
「はー?」
「てめえ何言ってんだ?
このシン様も知らねえとか馬鹿にしてんのかごらぁ!
それとも薬でもキメて錯乱になったのか?あ?なんか言ってみろよ!」
シン様って?
あの高山信のこと?
シンという響きを耳にすると、星野は目を輝かせては頭の中にある名前を浮かべ、昔の記憶も少しだけ蘇った。
高山信といえば、学校を早くも中退した無学な男で、そこら辺のごろつきどもに紛れ込んでしまった、いわば典型的な落ちこぼれである。
「ちょっと屋上まで同行してもらおうか…
うん?
てめえに拒否権はねえんだよ!」
3人は一斉にズボンのポケットから棒らしきものを取り出す。
この時、星野はますます多くの記憶を思い浮かべ、その顔もよい一層冷たくなっていた。
このシンというやつは近所でも悪名高い不良で、弱者いじめだけは得意という。
星野も何度か彼に恐喝されたことがあり、ここで彼と出くわしたのは本当に運がわるかった――しかしそれは、この場にいるのが20年前の星野だったらの話だ。
20年前の彼であれば、今頃は怖気づいていただろうが、生まれ変わってからの彼は全くの別人であり、終末世界を生き抜いた20年間の闘争の中で数えきれないほどの危険を間近に経験してきた彼にとっては、このような光景は温いほど大したことではなかった。
だから星野は何も言わず、三人に囲まれたまま、大人しく一緒に屋上までついて行った。
バタンッ。
片足で鉄の扉を閉めた後、シンは再び髪を揺らし、斜めに口角を上げて息を吹きかけ――
「俺ら付き合いも浅かぁねえからさ、
率直に言うと、最近少し金に困ってるんだ。
それで少し、貸してはくれねえかな?
10万!10万くれりゃあ今度のことは見逃してやるよ」
「俺に10万も持ってると思うか?」
「しらばっくれてんじゃねえよ!てめえ学生ローン借りてるの知ってんだからこっちは。
それにお前ら学校の連中はみんなクレジットカード持ってんだしそこから金出せよ!
そんなことも知らねえほどこの俺様が馬鹿だと思ってんのか?あ?」
「大人しく金をよこしたらいいんだよてめえはよ、なんなら銀行に同行してやってもいいぜ?もしいやというなら…ふんふん…」
恐れることもなく、星野は穏やかな顔でシンを直視する。
「お金はないけど命はあるから、ほしけりゃくれてやる、もちろん、その度胸があればの話だがな」
「ほぉー?」
シンは首を伸ばしたまま彼を上下に見て、目を吊り上げて鼻で笑った。
「数年ぶりだけど随分度胸ついてきたものだな。
まさかてめえ一人で俺ら三人をどうにかできると思ってんのか?」
「今帰ってくれれば、何もなかったことにしてやるよ」
星野は目くじらを立て、怒りを抑えるのに必死だった。
「けっ、何だお前は?
調子乗りやがって、
てめえ如きがこの俺様に命令してんじゃねえよ」
「警告はしたはずだ」
「ぶっひゃっひゃ!」
シンは突然笑い出し、星野を指さして
「何言ってんだ?
俺に手でも出すつもりか?」
「明日雪でも降るかな、今夏だけど。
シンさん、こいつ明らかに俺らのこと馬鹿にしてるよ、ちゃんと懲らしめないともっと調子に乗っちまうぜ!」
顔を前に伸ばし、シンは右手をあげて自分の顔を指差す。
「ほれほれ!やってみろよ!絶対に手加減とかしねえでくれよ」
「馬鹿が!」
突然目つきを尖らせ、星野は動き始める――。




