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第一話 目覚め

「ぎゃ――――――――――――――――っ」


突然、聞いたもの誰しも背筋が凍ってしまうような甲高い悲鳴が長く続くとやがて教室中に響きわたる。


悲鳴をあげたものは20代前半の学生、その髪は短く切りそろえ、清潔感があり、服装もきちんとしていて、夏の日焼けのせいか、少し褐色な肌色をしている。


「星野!正気か?いきなりこんな大声あげて」


教壇に立っている肌白な、顔が小ぢんまりしているきれいな女性がデジタルペンを持ちながら星野に怒りつけた。丸い眼鏡を通して、その吊り目は怒りでさらに鋭く吊り上がり、白いシャツと黒いハーフパンツと相まってさらに凛々しく見えた。


その星野と呼ばれる男子生徒はいつの間にか口を閉ざしたが、依然として目は大きく見開き、息遣いも荒い。その恐ろしい顔つきにあるのはぼんやりと、戸惑いと絶望だけである。


その視界にあるのは血の赤さと、永遠に続くような暗闇。


――と言った具合で、星野にはもう赤と黒の二色しか見えなくなったようで、すこし経つと、赤と黒は突然切り離され、彼の意識もやっと体に連れ戻され、ぼんやりとして濁った目にもやっと光が見えるようになった。


「星野、一体なんの真似だ?」


きれいな教室、きれいな窓、きれいな日差し、きれいな机、きれいな紙とペン、きれいな人々、きれいな服、きれいな顔…

すべてが幻のようにきれいだった。


こ…これはなんだ…

どうしてこんな…

ここはどこだ?


どこからともなく吹いてくる風が草の匂いを星野の鼻腔に運び込み、彼は笑っているような泣いているような不思議な表情で、何度も貪欲にそれを吸い込んだ。


世界の終わりが来る前であれば、このような学校の教室の光景はもちろん普通のことだ。


しかし、世界が終わりを迎えた20年後に、どうしてそのような光景が存在するのか。

ここは天国なのか?

それとも、ただの美しい夢なのか。


「星野!」


鮮明な声が再び鳴り響いたが、ただこの時、例の美人教師はもう演壇には立っておらず、怒ったようにダダダと星野の前を歩いている。


星野?

あ!思い出した!俺の名は星野(ほしの)(わたる)だったんだ!でもここはなんだ?俺に何が起こった?

俺は死んだはずじゃなかったのか?

覚えてるぞ…あの化け物が、あの化け物が俺を引き裂いたのだ。

しかし、ここは一体どこなのか?


星野の思考はまだ混乱しており、現実と記憶との大きな矛盾によって、しばらくの間彼は完全に目覚めることができなかった。


「授業を聞きたくないなら出て行け!今すぐ!」


星野が自分の叱責を無視しているのを見て、美人教師の顔は怒りでさらに真っ赤になり、細長くて白い指を立て、彼の額を突っつこうとした。


しかし、星野の目つきは突然鋭くなり、軽いサイドステップで、その指をかわすように動いた。


「あーっ」と美人教師が悲鳴を上げたとき、指をかわされたせいで、彼女は思わず体が前に傾いて机にぶつかりそうになった。


すると教室内は騒然となり、星野の隣に座っていたぽっちゃりした男の子に至っては、もともと薄目だった2つの小さな目をボールのように丸くしてしまったほど驚いている。


「う…うそっ…あたたっ!」


そのぽっちゃりした男は字を書いていたが、手が震えて指にペン先が刺さったのだ。

まもなく、その指から一滴の血が流れ出す。

このちょっとした血の色を見て、星野の体は突然震え、目もふとはっきりと見えるようになり、どうやらこれで彼はようやく完全に正気を取り戻したのである。


「ちょっばっ!手っ手を離さんか!」


星野の心は揺れ動き、長い間ほこりをかぶって埋もれていた記憶が心の中から溢れ出て、徐々に現実と重なっていった。


教室、机、きれいな先生…

ここは…ここを覚えているぞ!ここはN市、東林学園都市、S大学だ!

「このドアホが!よくもかわしてくれたな?」

「白雪先生!?」


星野は、自分に押さえられた美人教師が誰であるかをようやく思い出し、顔をしかめて一歩下がった。


白雪は机に手をついて立ち上がり、振り返り真っ白な歯を食いしばって怒りを込めて彼を睨み、そして手を上げて「ドアホ!」とひっぱたこうとした。


パチンッ!


しかし、そのビンタは星野の顔には当たらなかった。なぜなら彼は手を伸ばして暴力教室の手首を掴んだからだ。


「この!よくもまあ――来い!一緒に職員室にきてもらう!」

白雪は懸命にもがいたが、星野の手を振りほどくことはできず、急に苛立ちを増して叫んだ。


教室の中の雑音もさらに大きくなり、時々口笛が聞こえたり、時折、星野という二文字を呼ぶ声が鳴り響き、特に多くの男子生徒は今にもテーブルを叩いて拍手をしたり、叫んだりとせんばかりにしている。


平和時代に生まれた大学生にとって、目の前のこの光景は映画に勝るとも劣らないものである。


しかし、星野は周りの状況を気にしなければ人の話にも耳を貸さない、ただ無表情で不機嫌そうに、先生の手首にある腕時計に注目していた。


2018年9月19日午前9時21分。


星野は、ここがかつて――もっと精確にいえば、20年前に自分が通っていた大学であることを完全に思い出した。


これは幻じゃないよな?ひょっとすると俺、生まれ変わった?


そして大きく息を吐く。

「そうだ、俺は、生まれ変わったのだ!」


しかし、明らかに死んだはずの自分が、なぜ生き返ったのか?

それも、20年前に逆戻りという形で。


そう思いながら星野は全身を一通りチェックした。手足は健全で、心臓にも大きな穴はなかった。あの怪物は自分の体をバラバラにして、目の前で自分の心臓をもぎ取ったはずだ。


しかし、今は死んでいないだけでなく、全身に傷が一つもないことがはっきりと感じられる。


それもそうだ。傷はあるわけがないのだ。

何せこれは20年前の世界、まだ終焉を迎えていない平和の世界なんだから。


生まれ変わっただろうが何だろうが、目の前にあるものが幻ではないのだから、一番大事なのは自分が生きていることだ。


今もこれからも当然、生きることが一番大切なのだ。


生きるために必死になったこの20年間は、すでに星野の心を鉄と鋼のように鍛え上げていた。そして彼はすぐに心を落ち着かせ、頭の中の記憶を整理し、再び時計に目をやると、今は2018年9月19日の午前9時22分で、終末の時の27日前、つまり自分に残された時間は1ヶ月弱しかないのだ。


あと1ヶ月もしないうちに、地球は壊滅的な災害を迎え、すべての文明、すべての技術が壊滅し、そして人間は、この災害劇で最も悲惨な登場人物となるのだ。


星野の脳は急速に回転し始め、20年分の記憶が花火のように飛び出し、頭の中で何かを計算し続け、わずか2分で頭の中に仮計画が出来上がった。


「こら!手を放しなさい!」


思考が引き戻されたとき、星野は白雪の手が血流不足で色が変わっているのを見て、淡々と手を離し、やはり何も言わずに突然振り向いて教室のドアに向かって歩きだす。


白雪は痛々しい傷のついた手首をさすりながら、教室から出て行こうとする星野を、脳がショートしたような呆然とした表情で見ていた。


彼女は教師になってまだ日が浅いが、学校で過ごした時間も加えてみると、この20有余年間、学生時代でも、教師になってからの2年間でも、このようなこと、このような生徒に出会ったことはなかった。


しかし、すぐに我に返った彼女は、教室のドアに駆け寄り、すでに教室を出ていた星野に向かって――

「こら!そこで止まれ!星野、何をしているんだ!退学処分になってもいいの?」


「退学?」


星野は立ち止まって振り返り、白雪にかすかな視線を送ると、口角を曲げて何とも言えない笑みを浮かべた。


「退学でもなんでも勝手にしろ!」


すると白雪の心に突然の衝撃が走った。しかしそれは星野の言葉によるものではなく、そのかすかな視線のせいだった。


その視線には、冷たさと滄桑を閲したような複雑な感情と、さらには深い憐憫の情が込められていた。


一体何が起こったのか?

大学生の目にどうしてそんな色が出てくるのか、その哀れみの眼差しは何なのか?


女性、特に美しい女性は、終末を迎えた世界では特に悲惨な目に遭っていた。


この時、白雪はこの視線に込められていた哀れみが理解できず、彼女が正気に戻った時には、星野の姿はすでに廊下の角を曲がったところに消えていて、忘れられない後ろ姿だけが彼女の心に残っていた。


世界の終わりが本格的にやってくるまで、残りわずか27日しかなかった。

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