行平 康太:捌
資料整理部の奥で、また慎吾は手帳を開いていた。
「また手帳眺めて、どうした?」
「そろそろ……その時だと思いまして、ね」
反射した眼鏡で隠された瞳は、何を考えているのか分からない。
「先代の黒嵐隊長が亡くなって、もう何年になりますっけ?」
「名無しか? 十年前になると思うが」
二人で話していると、姫桜が顔を出した。
「おやおや、わたしにかくれて……なかよしさんめ」
そんな姫桜の後ろには、黒衣の軍服が立っている。無表情な仮面を着け、背の高い女だ。
この女、黒嵐か?
「誰ですか?」
「くさかさんにお客、きょうこさんが来ましたよ」
「くさか?」
問いに信悟が右手を上げた。左手では髪を崩し、眼鏡を外す。
「御名模 慎吾、もとい草薙 零です」
「草薙って……お前、大佐の忘れ形見……」
考えると、信悟を呼ぶ姫桜を見ていない。偽名だったのか。
確かに、オリジナルしか任意に百鬼夜行へ出入り出来ない。先日、双子の時に言っていた――康太の時は、私用で抜けた、と。あれは、オリジナルで無い限り不可能なんだ。
「きょうこさんはね、わたしのマブダチなんですよ」
胸を張る姫桜をすり抜け、件の『きょうこさん』が前に出る。
「黒嵐隊長の梔子 世輪傍だ。テメーが新人だな」
手を差し出したので、握手を交わす。
「ゆ、行平 康太であります」
「自分から姫桜の護衛に入るヤツが現れるナンて、こりゃますます時が来たってワケだな」
何を言っているんだ?
「待たせたな零、合流だ」
「本当、資料を睨んでたよ」
「オメー、康太とか言ったな。姫桜……桔梗 小夜子を頼んだぞ」
「何を……」
「護りてえンだろ?」
「康太、後は頼む」
「信悟……」
「行ってくる」
「……何をするかは分からないけど、頑張れよ」
「零だっつったろ?」
「自分には、信悟は信悟だし姫桜は姫桜です」
「……オメー、いいヤツだな」
「ありがとう、康太。それなら零で無く、今は信悟だな」
彼は笑顔を絶やさず、部屋の入り口に立つ。
「さあ、狂い咲きの始末をつけよう」




