↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
生きた人々
48/59

無名:弐

 百鬼夜行(ひゃっきやぎょう)――初めて発動した『それ』は凄(すさ)まじかった。

 触れた神崩(かみなだ)と俺を、オリジナルで有るにも関わらず、一年間も贋作(がんさく)の世界に監禁した。

 戻ると、既(すで)に草薙(くさか) 総一郎(そういちろう)の戸籍は行方不明で固定されており、配属される隊まで決まっていた。黒嵐(こくらん)の隊長は、余程(よほど)の事が発生しない限り外出を許されない。本部の部屋に閉じ篭(こも)って、神皇(しんのう)からの命(めい)を待つ。響子(きょうこ)のスカウトは、かなりの賭けだったのだ。


 混乱しながら、神皇と謁見(えっけん)した。


「無名(むみょう)と、お呼び下さい」

「名無しか」


 一年間、休み無く戦い過ぎた後遺症だった。贋作なのか草薙 総一郎なのか、名乗る事も出来ない。自分が何者なのか、完全に判断が付かなくなっていた。こんな者は、名無しで十分だと思った。


「何ゆえ面を着けておる」

「顔を見ても、自身の区別が付かないので意味が無いかと」

「面白い。貴様の隊は、仮面を被らせる事にしよう」


 最近になって、草薙だった自分と神崩で白刃(はくじん)を交(か)わした人物が、自らの未来だと知った。

 贋作の発端(ほったん)を知る為(ため)に、過去の神崩へ何度か飛んだ。そして、仮面を付ける前の自分と出くわした。俺はやがて自覚する自身への目印として、わざと刀を抜き、刃を向けた。

 俺は更(さら)なる過去へ飛び、確証を得(え)た。

 過去を変えていようが、書き込む姿を目(ま)の当たりにすれば、自(おの)ずと真実は見つかる。


 神崩の息子――綴(つづり)。


 が、過去を変える事は叶わなかった。運命は変えられなかった。

 自分の居(い)る場所に飛ぶと、その時間軸に干渉(かんしょう)出来ない。

 当然だ。

 飛んだ自分は過去を元に成(な)り立っているのだから、その自分は過去を変えれ無い。


 世界は残酷(ざんこく)で、斯(か)くも厳しい。


 運命を変える可能性が有るとすれば一つだけ――自身の存在を、別の者に変えれば良い。


 成功例は在る、世輪傍(せりか)だ。


 あの女は、俺が百鬼夜行に囚(とら)われている間、逸(いち)早く源典を二(ふた)つ名(な)の試験に使うべきだと、神皇に進言していた。源典回帰の手から離し、二度目の投影を防いだ。更に、神皇を通じ源典回帰を軍の学長に収(おさ)め、奴に余計(よけい)なモノを書く時間を封じた。結果的に二つ名を得ようとする者の犠牲は増えたが、世界は護られた。


 だからこそ、彼女を参謀に選んだ。


 そう、彼女を参謀に選んだのは俺だ。


 それだけが、黒嵐と言う檻に閉じ込められた、唯一の抵抗だった。



「今こうして制御している俺の贋作を、君に託(たく)す。時間を操るのが能力だが、副作用として身体の時間も止められる」


 軍服を開き、抉(えぐ)れた脇腹を見せながら、小夜子(さよこ)に言った。


「そんなことすれば、傷を負(お)った隊長さんは死んでしまいますよ」

「気にするな。元より死んでいたようなモノだ。それに、こんな事は君にしか出来ない。思考を読む贋作は、オリジナルのような思考に混濁(こんだく)している贋作へと共感し、有耶無耶(うやむや)にして取り込める筈(はず)だ。弱っている今なら尚(なお)のこと――何より、俺は、自分の生きた証が欲しい。頼む。誰かを救い、死にたいのだ」


 彼女は渋々(しぶしぶ)ながらも、俺の要望を受け入れてくれた。父に会って用事を済ませると言ったので、その後、神皇に保護を頼めと言った。


「良いか……事を済ませたら、病を患(わずら)う前まで若返るんだ。しかしいずれは何らかが起き、病となるだろう」

「運命ですか」

「先延(さきの)ばしにはなる、負けるなよ」

「負けん気なら、誰にも譲らないところですよ」

「頼もしい限りだ」


 小夜子がリミッターを外した。

 思考から、『何か』がズルズルと引き出されていく。


「ぐ……」


 失っていくのと平行して、傷口からは血が溢(あふ)れた。


「隊長さん!」

「構うな、集中しろ」


 やがて、俺の中から殆(ほとん)どが失われた。


「俺は此処(ここ)に居る。他の者を呼んできてくれ」


 僅(わず)かな余力(よりょく)で、彼女を見送った。



 響子を送り、どれ程時間が経(た)ったのか――世輪傍と零(れい)が現れた。


「悪かったな、零……『滅却(めっきゃく)』などは存在しない。あれは、お前を巻き込まない為の嘘だ」

「こちらこそ、一人で戦っていたとは思いませんでした。何だか、申し訳ありません」


 彼は笑顔だ。

 その笑顔を見る度(たび)、俺は自分の無力さを痛感させられた。

 初めに出会った時、死人のような目をしていた。治ったかと思えば、今度は常に笑顔になった。研究所で誰が死のうと、地獄の戦場から帰ろうと、彼はずっと笑顔を貼り付かせていた。


 もう、治らないだろう。


「血は繋(つな)がっていなくとも、お前は俺の息子だからな」

「それはありがたい」


 俺には救えなかった。


「先程(さきほど)、自分でも理解しましたよ。年を取らず、攻撃を受け付けない理由を」

「神速(しんそく)と同じ事だ。様々な視点……つまり観測点の集まり。攻撃を受けても、死角に居る他者の視点から、攻撃を受けない可能性を抽出し投影している。年齢は更に単純。視点は正に夢の塊(かたまり)なのだから、年を取らないだけだ」

「人外ですか」


 彼は、ハハハと寂しそうに笑った。 


「……兎(と)も角(かく)、答えは出たようだな」

「しかし分(ぶ)は悪い。向こうは、好きに(どうにでも)世界を変えれますから、ね」

「もう時間の進行は変わってる。ナンとかなるかもしンねえが」

「変わっているか……貴様の口調も、随分(ずいぶん)と変わったな」

「ほっとけ」

「だが、また後手(ごて)だ。先程軍を通じて居場所を確認したが、源典回帰は行方を眩(くら)ませた」

「マジか!」

「斑(まだら)は友人が逃げる陽動と、我々を潰す双方を担(にな)ったのだ」

「クソッたれ」

「しかし余裕(よゆう)は出ただろう。源典は我々の手元だ。奴も直(す)ぐには動けまい。今の内に、手間取ってでも良いから戦力を育てるべきだ」

「大佐(とうさん)は?」

「俺は駄目(だめ)だ、他を当たれ」

「ナンだ? 弱気だな」

「下を見ろ」

「下?」


 俺の足元には、血溜まりが広がっていた。


「オイ!」

「……酷(ひど)い出血だ」

「済まんな」

「そんな……謝らないで下さい」


 声は悲愴(ひそう)ながらも、その笑顔は変わらない。


「悪いな。少し一人にしてくれ」


 二人の背を見ながら、その場に膝(ひざ)を折った。


 危なかった。

 もう少しで崩(くず)れ落ちる処(ところ)だった。


 ふふ。

 腐っても親か。

 息子の前では、矢張(やは)り弱さを見せられん。


「疲れた」


 俺は、誰かを救えただろうか。

 昔から皆(みな)を救おうと刀を振り続け、誰も救えず、それでも歩いてきた。

 振り下ろす腕は、ずっと空(くう)を切ったままだった。

 それでも、誰かを救えただろうか。


「はぁ……」


 ゆっくりと、吐く息が細くなっていく。


 零、源典回帰を倒せるとすれば、その分身(わけみ)たるお前だけだ。


「あとは、頼んだ、ぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。