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これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
生きる人々
36/59

桔梗 小夜子:陸

 (あか)い世界を、街路樹に沿()って歩く。

 いつもの帰り道。景色を(なが)めながら歩いていると、見慣れない建物が目に入った。他の建物より抜きん出て背が高く、ぼろぼろのコンクリートが、夕日に照らされている。


 おや?

 あんな建物、あったかな?


小夜子(さよこ)先生……良かった、追い付いた」


 振り返ると、特佐が後ろに立っていた。


「あれ? どうしました?」

「小夜子先生こそ、道に突っ立って、何をしていたんですか?」

「ああ、なんだか……変な建物がありまして」

「え? どれです?」


 私が指を差すと、特佐が横に顔を出した。


「ひゃあ!」


 ち、ちちちち、近い!


「あ、ああ、ああああ、あれです」

「あれです、ね……()(ほど)、話を聞いていれば、一緒に見れるのか」


 な、何が何やら。


「小夜子先生、お送りしますよ」

「ほ、本当ですか?」

「ええ。建物を見た(プレビュー)と言う事は、じきに……」


 言いながら、彼はわたしの手を握った。


「ほ、ほあああああ!」

「な、何ですか?」


 わたしは、その場にへたり込んでしまった。


「あああああああ」


 声を上げるわたしの、目に見える風景が反転する。


「あ? れ?」



「……小夜子先生、大丈夫ですか?」

「へあ?」


 気が付くと、特佐の顔が目の前に。


「ふぎゃあ!」


 飛び退()いて正座で着地。 


「お、落ち着いて」


 あれ?


 正座した足に、砂利(じゃり)の感覚が刺さった。


「ここは?」


 もう日は暮れていて、周囲を月光が照らしている。

 ()ちたコンクリートに、散乱するガラス――窓の無い枠から、月の明かりが差していた。


「手を(つな)いで良かった、一緒に廃墟へ来れましたよ」

「それって……」

「訓練生の話です。あれは、聞いた者に伝染する贋作(がんさく)ですよ」

「そうだったんですか」

「いや、しかしこれは……(まだら)(つく)ったのか?」

「ま、まだら?」

「あれを見て下さい」


 彼の指差す所には、現在の階層が書かれていた。


 ――6/6――


「六階建てになっています。どうやら、一階増えましたね」

「うーん」

伝染(クライミング)する(ごと)に、一階ずつ増えていくようです」


 と言うことは。


「すいません。巻き込んでしまったみたいで」

「いえいえ、お気になさらず。いずれにせよ、無事で良かった」


 彼は笑顔で返した。わたしは、彼が敬愛する神皇陛下に暴力を振るってしまったのに。

 もう……そんな対応されたら、()れてしまいます。


其処(そこ)に階段が有ります。早く出ましょう」


 二人で階段を下りる。


 ――5/6――

 ――4/6――


 ふと、三階の踊り場に奇妙な影を見つけた。

 うずくまって顔を()せた、真っ白いワンピースに長い髪の女性。例えて言うなら、死んでしまった王子様に悲しんでいる白雪姫。小人は一人も()ないけど。


「あ、貴女(あなた)……大丈夫ですか?」


 きっと、わたしたちと同じように迷い込んだ人だろう。

 刺激しないよう、ゆっくりと近付く。


「小夜子先生! 駄目です!」


 後ろから特佐が叫んだ。


「えっ?」

「それが、襲ってくる化け物です!」


 目の前の人が立ち上がる。


「貴女も、一緒に居ましょう?」


 化け物――確かに、その通りだ。

 皮膚(ひふ)が……ワンピースと口以外の部分は、全身テープでグルグル巻きにされている。


「あ、ああ」


 女は両手で、わたしの頭を(つか)もうと手を伸ばした。


止めろ(シィット)


 目の前に、特佐の背中が(すべ)り込んだ。

 二、三度腕を動かす動作が見えた後、()ぐ振り返る。


「逃げましょう」

「え?」


 わたしを()()()()()()した。


「ええぇ……?」


 返事を聞かず、彼は走リ出す。


 ――2/6――

 ――1/6――


 一瞬で一階に辿(たど)り着き、目の前のドアを蹴り飛ばした。



 建物から出ると、夕暮れの道だった。


「あ、あれ? 今のは夢ですか?」

「違いますよ」


 まだ、特佐はわたしを(かか)えている。


「で、ですよねえ」


 ゆっくりと優しく下ろし、二人で歩き出す。 


「あれは贋作ですかね」

「建物はどうか(わか)りませんが、いずれにしろ異空間です」

「建物?」

「あの女性も(とら)われているだけです。攻撃が()きました」

「なら、どうして……」


 一緒に助けなかったのだろう。


「あの口ぶりですよ? 彼女は、望んで牢獄(あそこ)に居るんです」

「そう……ですか……」


 彼女は何者で、何があったのだろう。

 わたしには、分かるはずもない。

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