神狩 秀遥:陸
草薙特佐からの連絡で、私は資料を広げた。
「後で詳細を連絡するが、問題無い」
「そうですか」
受話器を置き、資料を読み返す。
彼に資料を送るつもりは無い。
この話は、此処で止めておくべきだ。
廃墟の贋作――話を聞いた者の精神に寄生し、これを捕える。被害は出ているが、体験した者から聞かなければ伝染しない。話す者が無くなれば姿を消すだろう。
見ザルと一緒に。
言わザルとの共鳴で精神が崩壊した見ザルは、響子によって確保――護送の途中で行方不明になった。彼女は護送車の運転手と、見慣れない廃墟について言葉を交わしたらしい。
数日後、護送車の運転手も廃墟を見たと同僚に話した。その同僚も廃墟を見たと、今度は複数の人間に話した。
其処から話は広まった。
何れも共通した目撃談が有る。
テープで巻かれた女が居たそうだ。
響子からの話で、私は思い当たった。
言わザル用にしか拘束具を用意して無かったので、仕方無く、その場に在ったガムテープでグルグル巻きにしたそうだ……見ザルを。
見ザルは、ゴーグルをリミッターとする、見つめ合った者を石に変える能力者だ。
拘束する段階で目を損傷してしまい、能力は失われている。
杖も失くしている。
ふらふらと、その廃墟を彷徨っているのだろう。
仲間――言わザルと聞かザルが、同じ廃墟に居るのだと信じて。
「哀れな」
私は、ゆっくりと資料を閉じた。
しかし、特佐は気になる事を言っていたな。
どうやら、オリジナルの中に『斑』という人物が居るらしい。それが『創り出したのかもしれない』とも。
待て、斑だと?
神崩の生き残りで見た名だな。
現在は行方不明だ。
贋作を創るとは、源典回帰め。
何処に居る。
神皇との喧嘩で後から話したが、小夜子君は、黒嵐の参謀から情報を引き出せなかったそうだ。それどころか詳細を聞こうとしても、「言えません」の一点張りだ。軍属とは言え一般人だから、参謀相手では荷が重かったのだろう。何より、あの強さに責めれる私では無い。
と、其処で再び受話器が音を立てた。
「はい」
「ああ、神狩博士ですか? 桔梗ですけど」
「さ、小夜子君、どうしたんだ?」
当人からの連絡で、私の声は少し上ずった。
「お願いがあるんですよ」
「何だね?」
「写真を撮って下さい」
「写真?」
「集合写真です、撮って下さい」
「そんな物、一体どうするんだ?」
「記念ですよ、記念」




