桔梗 小夜子:参
わたしは特佐と二人、教官室に座っていた。
「友人を訪ねて欲しいのです」
「ご友人ですか?」
先の学長の話しかり、さりげなく助け舟を出そうとしたところ、彼から先手を打たれてしまった。
「最近、同じ黒嵐に配属されたらしいのですが、生憎会いに行く訳にはいかないので」
「何故ですか?」
「違う行動すると、窮地に立たされる人が居るので、ね。」
「は?」
「信じて頂けますか?」
これはもしかして、謀らずも補佐なのかな。
「良い、ですよ」
わたしは考えながら首肯した。
「ありがとうございます」
彼は満面の笑みで返す。
うーむ、可愛い。
特佐は落ち着いているようでいて、幼い顔を見せる時が有る。元々幼くも年を取っている訳でも無く、男性とも女性とも違う中性的な顔出ちをしている。例えて言うなら、綺麗なお子様がそのまま成長しちゃいました!みたいな。
わたしにとっては可愛くて可愛くて、いつか思い切り抱きしめてやろうと画策している次第です。
「それで……私は誰の元に行って、何をすれば宜しいのでしょう?」
「響子の家に行って、隊長の話を聞いて来て欲しいんです」
「……今、何ておっしゃいました?」
「ですから、響子の家に行って」
「お断りします」
「なんで!」
「神狩 響子でしょう? 人嫌いで有名じゃないですか!」
気性だって激しい人物と聞く。そんな人に会えば、わたしはまたしてもクタクタだ。
「駄目、ですかね?」
上目遣いで、わたしの顔を覗き込む。
「う、わ……」
火照った顔を背けた。多分、顔は真っ赤に染まっている。
「わ?」
「わ、かりました」
何だか、最近のわたしは他人に振り回されてばかり。
先ほどから部屋の呼び鈴を鳴らしているが、一向に返事なし。
「あの」
せっかく特佐の頼みだから、わざわざ出向いて来たってのに。
もどかしさに背中を押され、ドアノブに手を掛けた。
「あのおー!」
予想に反して鍵は掛かっておらず、ドアは簡単に開く。
「は、入りますよぉ?」
この場合、不在で無ければ洒落にならない。
二つ名を持つ人間に、勝てる実力なんて持ってないっす。
「けほっ」
部屋の中は、わたしの嫌いな煙草の煙が充満していた。
もう、いっそ帰っちゃおうかなぁ。
「響子さん、居ますかあ?」
緊張も重なって、大きくなった声が裏返る。
『……か!』
「えっ? えっ? 何?」
誰かの『声』が聞こえる。
『誰か、開けやがれ!』
直ぐ辺りに目を配った。所狭しと家具が押し込まれている。
……あれは?
古い三面鏡が、燻った煙草と共に放置されていた。
『声』は、此処から聞こえているのかな?
観音開きの鏡を少し開くと、途端に『声』が大きくなった。
『オイ時計屋、開いたぞ!』
時計屋?
『マジだっての! 走れよ!』
少し開いて合わせ鏡になった部分に、黒い影が動いている。特佐と同じような軍服を着た二つの影が、猛烈な勢いで向かって来た。
「わっ!」
足音を響かせ激走。例えて言うなら、銅鑼を囃し立てて大行進する異国のお祭り。二人だけの。
『ちょっ、待てよ時計屋! 置いてくな! マジで! マジで!』
仮面を付けた怪しい二人組が、凄い速度で鏡から飛び出した。
「ゼェ……遠いンだよ」
肩で息をする『声』の持ち主を、横で全身に時計を散りばめた人物が眺めている。
何だろう、この二人は。
ふと、肩を上下させている黒服がこちらを見た。
「……アンタ誰?」
「いやあ……は、はは……お邪魔してます」




