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これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
生きる人々
19/59

神狩 響子:参

 部屋に相棒を自称する変人――時計屋(とけいや)がやって来た。


「こりゃナンだ?」

「見ての通り、三面鏡ですが何か?……チッ」


 少しばかり親睦を深めてやろうと招待したら、コイツは酒や肴(さかな)を持って来るどころか、古ぼけた三面鏡を持って来やがった。


「ンなコト聞いてネェよ! ソレ渡して、オレにどうしろっつーンだよ!」

「察(さっ)しなさい……チッ……ワタクシからのプレゼントです」

「コレが?」


 改めて、両手に持った三面鏡を見る。大きさはおおよそ四十センチ四方で観音開き。変色してくすんだ木に、ザラザラに曇(くも)った鏡。


 こんなモン渡されて、親愛ナンて生まれるかよ。


「無論(むろん)冗談ですが……チッ」

「テメェー!?」

「この三面鏡、夜になれば贋作(がんさく)が出てくるのです……チッ」

「ゴミか、さあ燃やそう」

「燃やせないのですよ……チッ……この三面鏡、神皇(しんのう)陛下が大切にしている物ですから」

「ハッハッハ、さあ燃やそう」


 神皇かよ……ホントどうでもいい。


「そんなモン大切にしてるなんて、趣味ワリイ女」

「チッ……言い過ぎですよ。大体(だいたい)、そういう話では有りません」

「ナァニィ~?」


 ナンだか言いなりもイヤなので、ワザと面倒臭さを前面に出した言い方をしてみた。


「チッ!」

「オイ、今のはマジな舌打ちだろ」


 ヤツのマジな舌打ちが聞けただけでもヨシとして、内容聞くか。我ながら、ハナシぜんぜん進まネェし。


「チッ……初めから、この三面鏡に宿(やど)っていた訳では無いのです」

「ナンだと?」

「元々……チッ……この三面鏡は陛下の一族に伝わる物なのですが」

「先祖伝来ってヤツか?」

「ある日、いきなり贋作が出て侍女(じじょ)を引きずり込んだ……チッ」

「引きずり込むだァ?」

「チッ……鏡をご覧なさい」


 鏡を見ると、一本の毛が付いている。イヤ、髪の毛が生(・)え(・)て(・)い(・)る(・)。毛の端が、鏡面に埋まっていた。


「引きずり込まれた跡か」

「調査したところ、似た事例が幾(いく)つか確認されました……チッ……姿は全く同じ贋作が、別の場所で別の鏡から」

「鏡を移動してるってコトだな。でも、それじゃ倒せネェじゃん」

「チッ……移動する切っ掛けがあるのですよ」

「もしかして、それこそ燃やすな、とか?」

「その通り……チッ……珍しく勘(かん)が働いてますね」


 珍しくはヨケーだ、この変人め。


「チッ……破損が生(しょう)じると、別の鏡に移動してしまうようです」

「出自もさるコトながら、鏡にはキズ付けんなってコトだろ?」

「そうです……チッ」


 面倒クセェ任務。


「とりあえず、出て来るのを待ちましょう……チッ」

「つーか休ませろ。ずっと任務で、ほとんど休んでネェじゃん」

「チッ……今日は貴女(あなた)の部屋ですから、鏡に向けなければ火を吹いても良いですよ」

「聞けぃ!」


 せっかく用意した酒をガマンする結果になり、夜も更(ふ)けたっつーのに贋作は現れネェ。


 つーか考えてみりゃ、黒嵐(こくらん)に入ってからロクに酒呑(の)めてネェぞ。

 ナンだそりゃ。


 イ! ラ! つ! く! ン! で! す! け! ど!


 半面を被(かぶ)り、タバコに火を灯(とも)した。


「チッ……煙(けむ)いですね」

「ココはオレの部屋だ、好きにさせろ」


 言いながら、さりげなくタバコの火を時計屋の側に持ち替える。


「嫌がらせですか……チッ」


 コレぐらいのストレス解消は許されンだろ。


 ヤツの言葉をムシして三面鏡を開く。古いせいで独特な雰囲気を放(はな)ってはいるが、ナンの変哲(へんてつ)も無い鏡だ。大体ナンも出てこネェ。

 火を揉(も)み消し、二本目に火を点ける。


 ……ン?


 閉じようとして、合わせ鏡になった奥(・)が目に入った。果てしなく続く空間のずっと向こうに、藻(も)のような黒い塊(かたまり)が蠢(うごめ)いてやがる。


「アレ、ナンですかね?」

「チッ……四十秒で攻撃が来ますよ」


 佇(たたず)む塊から手が伸び、鏡に写る床に突き立った。


「オイオイオイ、アレ髪の毛かよ!」


 黒い塊は突き出た腕を使い、異常なスピードで鏡の手(・)前(・)へと這(は)いずって来た。


「時計屋、リミッター外しとけや!」


 咄嗟(とっさ)に三面鏡を閉じて投げ捨てる。


「……あ?」


 青白い手が、ゆっくりと内(・)側(・)か(・)ら(・)鏡を開けていく。


「ナンだか自分で開けちゃってますよ、時計屋さん」

「チッ……合わせ鏡ですね」


 ナルホドな。

 開けるか閉じるか、鏡が向かい合った時だけ現れやがる。

 開ききった鏡に腕を立て、贋作が鏡のプールから出て来た。


「ああああぁぁぁ」


 盛り上がった毛の束(たば)からは外れたアゴが垂(た)れ下がり、声とも判(わか)んネェ音が響く。


「このバケモンがぁ!」


 蹴り飛ばそうと足を上げた。

 だが、地に着いた軸足を掴(つか)まれる。


「なっ!」


 バランスを崩し床に倒れたオレを、細い腕とは思えない異常な力が引きずった。


「ヤベ!」


 不意(ふい)に、視界に入った時計屋の足を掴む。


「チッ……何す……」



 目を覚ますと、自分の部屋に時計屋と倒れていた。


「オイ、時計屋」

「チッ……」


 お互いアタマを振りながら、身を起こす。


「アレからどうなった?」

「確か、貴女が咥(くわ)えていた煙草を贋作の手に押しつけて……チッ」


 『根性焼(こんじょうや)き』した後が、どうにも思い出せネェ。


「だから、リミッター外しとけって」

「……チッ……」


 腕を見て時計屋の動きが止まった。そのままキョロキョロと、身体中の時計を見渡す。


「オイどうした、いよいよ末期か?」

「貴女(あなた)と一緒にしないで頂きたい……チッ……それより、火を吹けますか?」

「火?」


 息を吸い込み、身体ン中のエネルギーを口に集束するイメージを思い描いた。


 魔法陣が……出ネェ。


「ナンだ、どうなってやがる」

「どうやら、ワタクシも見ていた時計しか正常に動いていないようなのです……チッ」

「能力が使えネェぞ」

「チッ……ワタクシを見て、何か気付きませんか?」


 縫(ぬ)い込まれたヤツの時計は、何個かを除(のぞ)き数字が反転してる。


「クソったれ、ヤツの領域かよ」

「その通り……チッ……恐らく、既(すで)に三面鏡は閉じられています」

「誰かが開かなきゃ、オレ達は出れネェのか……チッ」

「わざと真似(まね)しないように……チッ」


 オレと時計屋は、鏡の中に引きずり込まれたらしい。

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