表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
序章
2/59

草薙 総一郎

 ()()は、()()()()()()戦場に立っていた。

 周りの仲間は(すで)息絶(いきた)え、何も言わずに横たわっている。


 静かだ。


 刀から(したた)る紅い(しずく)すら、肉片に(おお)われた地面に()まれ、物言わず消えていく。


「助けて」


 響いた声に振り向く。


「助けて」


 友軍の一人が、震えた身体でこちらを見ている。


「大丈夫か?」


 生き残りは()ないと思っていた。


「助けて」


 相手は同じ言葉を繰り返すばかりで、問いに答える気配は無い。


「助けて」


 刀を(にぎ)()め、ゆっくりと近付く。


「助けて」


 懇願(こんがん)を無視し、首を斬り落とした。切断された断面から、一向に血は()き出さない。


「くそ」


 その代わり、指の太さも有る節足が()い出てきた。


矢張(やは)り寄生か」


 人の中に入り込み、臓腑を喰らう。知能が低く、宿主の断末魔しか繰り返せない。


「――すまん」


 仲間に祈りつつ、振り上げた刀で真っ二つに切り裂いた。

 

 いつからだろう。 

 いつから、このような世界になってしまったのだろう。


 化物が出現し、人々は戦いに明け暮れている。

 それらは人、虫、動物――様々な姿をしているが、全く別の性質を持つことから、神の創り出した物に対する『贋作(がんさく)』と呼ばれている。


「ああ……」


 辺りに転がる、部下達の遺体を(なが)めた。喰い千切(ちぎ)られたり、押し潰されたり、遺体すら残っていない者も居る。

 まるで悪夢だ。

 戦地に(おもむ)いても、死体が増えるだけ。今までの兵器がろくに通用しない相手に、足止めの餌を与えているに過ぎない。全滅と敗走の日々を重ねてきた。

 だが今回の戦闘で、自身に宿った力が有効である事は(わか)った。

 先日、目が覚めると、心の中に違和感を覚えた。明らかに自分とは違う者が、身体に巣食っている。贋作かと思ったが、生活に支障は無かったので放置した。有るとすれば一つ、『自分』と言う区別が徐々に出来なくなっていった事だ。

 我々(など)と名乗るようになり、明確に自分を認識出来ない。診断を受けたが寄生された兆候は無かった。症例は医師も初めてで、『自己同一性障害』と名付けられた。


 自分など良い、贋作でも構わん。


 むしろ自分が異形ならば、奴等と同じ存在ならば、有効な攻撃を与えられるのではないか、そう思った。

 結果は予想通りだった。

 どうやら自分に宿っているモノは、対象の時間を操れるらしい。攻撃した相手の時間を、存在しない時まで一瞬で進め消滅させる。不思議な事に、手に持っている刀まで能力を発動する事が出来た。

 身体の時間は止まっている。

 時間軸の違う物は干渉(かんしょう)出来ない。攻撃を無効化する事が出来た。


 これからだ。

 我々の存在が、反撃の狼煙(のろし)だ。



 一月(ひとつき)後、友人が運営する神崩(かみなだ)研究所を訪ねた。国から援助を受け、贋作を研究している。


「久しぶりじゃないか」

「前線ばかり出ていたからな」


 神崩とは、士官学校からの付き合いだ。彼の家族は、妻・息子・娘・助手に至るまで、我々と同じ特異な能力が発現した。


(れい)はどうだ?」

「彼は()えず前線だ」


 義息の零は、研究所の前に立っているのを発見された。

 何処(どこ)の誰かは(わか)らない。そもそも、話している言語が違っていた。

 剣を腰に差していたが(さや)の中で砕け散っていたので、打ち直し我々の刀に変えた。言葉を話せるようになり、何処から来たのか聞こうとした時に贋作が出現。それどころでは無くなってしまった。

 ――やがて彼にも能力が発現し、正式に軍属とする為に養子にした。


「新しい事象を観測したぞ」

「何だ?」

「贋作には、教会や寺院などを襲わない習性が有ると言ったよな?」

「ああ」

「十字架を溶かして弾丸に変えた物を撃ち込んでみたら、ダメージが有った」

「本当か?」

眉唾(まゆつば)だったが、試してみるものだ」


 神崩と別れた後、奇妙な()()ちの人物を見掛(みか)けた。

 真っ黒な軍服を身に(まと)い、それと反して白い仮面を付けている。仮面は口元が耳まで裂け、腰に差した刀と合わせて異様な雰囲気を漂わせていた。


「貴様、何者だ」


 今まで、研究所で出くわした事の無い人物だ。明らかに怪しい。


「…………」


 相手は答えようとしない。


「何者だと聞いている」


 不意(ふい)に、仮面の人物は刀を抜いた。


「良い度胸だ」


 こちらも刀を抜き、目の前に構える。


「……」


 奴は無言のまま、刀を振り下ろした。

 咄嗟(とっさ)に受けた白刃からは火花が飛び散り、仮面の奥に光る眼光と視線がぶつかる。

 刀を倒し、相手の刀を受け流す。そのまま腰を捻り回転、一周して首に刀を()える。


「くっ」


 我々の首にも刀が突き付けられていた。


「貴様」


 仮面の人物は言葉を無視し、刀を収めた。こちらも刀を仕舞(しま)う。

 相手は、そのまま去って行った。



 仮面の人物について、神崩に聞いてみる。


「ああ、名無しに会ったのか」

「名無し?」

「名乗らないから、名無しと呼ばれている。仮面を付け、自由気ままに研究所を闊歩(かっぽ)している。滅多(めった)に会えないんだ、運が良かったな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ