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鴉
部屋には男女がいた。
四畳程度の室内には何本かの蝋燭が焚かれ、薄暗く照らしている。床には幾何学的な円が描かれており、中心に黒衣の男が立っていた。そして円から外れ、男性と向かい合って女性が立っている。
「本当に、良いんだね?」
女の言葉に男が頷く。音の無い返事をどうにか呑み込もうと、女は喉に手を触れた。
「……いくよ」
暫しの無言に続き、女は奇妙な言葉を紡ぎ始める。
「さようなら」
円から光が溢れ出す。
「さようなら、師匠」
女は構わず言葉を続ける。
「お元気で」
言葉を終えた女は、唇を噛む。
「もう喋らないで」
男が咆哮した。だが、その声は光の壁に遮断され、女に届かない。
そのまま光は集束し、男と共に消えた。
男が消えた後、女は呟く。
「もう帰って来れないのに」
彼女の頬を、一筋の涙が伝った。
「バカ……」
女は蝋燭を吹き消し、その場に蹲る。
「帰って来いよお……」




