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これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
生きる人々
18/59

草薙 零:参

 夕暮れに染まる教官室で、訪ねて来た双子は丁寧(ていねい)に頭を下げた。


「先日は」「どうも」「ありがとう」「ございました」


 小夜子(さよこ)先生は、まだ担当する訓練から戻っていない。


「気にしないで下さい」

「まさか」「草薙(くさか)特佐」「だったとは」


 やっぱり面白いな。

 双子であるにしても、この(しゃべ)り方は不可能(いじょう)だ。移植された贋作(がんさく)が影響しているに違いない。


「お名前を」「教えて頂けますか?」

「ああ、改めて『れい』です。ゼロと書く零」

「零」

「ええ」

「どのような」「意味ですか?」


 まだ十代の為か、二人は好奇心に目を輝かせながら聞いてくる。


「字のままですよ、ゼロなだけ」

「なるほど」「眼前の」「敵を」「ゼロにする」「という」「意味なのですね」


 何やら()()()しているようだが、聞かれていないので否定はしなかった。そもそも言葉を完全に習得している訳じゃないので、基本的に聞かれた事しか返さない。会話にも支障(ししょう)無いので、直そうとも思わない。大体、必要以上話(ラッピング)しても、相手は振りだけで聞いてもいないだろう。


「今度はこちらの番、君達の名前を聞いても良いかな?」

山葵(やまえ) 一葉(かずは)」「二葉(ふたば)と申します」


 雑談を終えると、二人は教官室から出て行った。



 数分後、小夜子先生が戻って来たので、双子について聞いてみた。


「双子ですか?」

「ええ」

()ますね。今日だって、先ほどまで訓練に出ていましたよ」

「え?」


 二人は先ほどまで此処(ここ)に居た。訓練に出れる(はず)が無い。


荷物の中身(データファイル)、見せて頂けませんか?」

「良いですよ……ええっと、この二人ですね」

「……本当に、この二人だと?」

「双子と言えば、この二人しか居ませんが……何か?」

「いえ」


 その後も、双子は教官室を訪れた。決まって一人の時だけ(シークレットガーデン)に。



 二人の情報を訓練生に聞いてみる。

 何人か触れ回ると、同じクラスに在席しているという者達に話を聞けた。


「その双子は、どんな人だい?」

「どんなって、何処(どこ)にでも居るような二人ですけど」

「何か特徴は有るかな?」

 ――特徴? 特に何も――

 ――特徴ですか? 無いですね――


 なるほど、ね。



 ある日の午後、双子は今日も教官室を訪れた。


「この時間」「楽しいです」「とても」

「それは良かった」


 小夜子先生は、相変わらず訓練で席を(はず)している。


「一つ良いかな?」

「はい」

「何でしょう?」

「……君達は何者だい?」


 その質問に、二人は押し黙って顔を見合わせた。


「訓練生ではないよね?」


 小夜子先生に見せて貰った箱庭(めいぼ)には、この二人の草や根(データ)など無かった。しかも彼女は、顔も名前も全く違う生徒を「双子です」と指差したのだ。

 同じクラスの訓練生にしても、反応がおかしい。(せっ)している人間の感想を聞かれて、「何も無い」などと答える人間は居ない。これほど露骨(ろこつ)な特徴があるのに、だ。


 認識しているのに、印象を話そうとすれば曖昧(あいまい)になる――とすれば。


「洗脳ほど強力でなく、催眠のような拒否反応が無い。暗示だね? 君達は出会った人に、自分達が訓練生だと思い込ませている」

「……よく」「分かりましたね」

「昔、そんな贋作に会った事が有ります」

「経験済みとは」「思いませんでした」

「さて、と。暗示を聞かせるかい?」


 問い掛けに二人が口を開いた。

 二人の発する言葉が一つとなり、うねり、渦巻(うずま)き、(おお)(かぶ)さってくる。何と言って良いか(わか)らないが、その言葉は記号に近い。呪詛(じゅそ)(たぐい)だ。意味を理解しなくとも、(じか)に脳へ作用する。


「……もう止めたらどうだい? ()かないよ」


 そう、効かない。

 だから任務を受けた。

 二つの舌を持つ贋作を生け捕りし、神狩(かがり)に引き渡した。

 その後、恐らく彼女達は移植さ(のろわ)れたのだろう。


「なぜ」「効かないのです」

「身体の中に、もう一つ神器(じんぎ)が埋め込まれているんだ」

「もう一つ」「神器が?」

「肉体に起こる、全ての変化を無効化(ゼロに)するんだよ」

「神速は」「神器を」「三つも」「持っているからですか」

「あらゆる事象制約(ほうそく)崩壊(ダメージ)も……随時(ずっと)、ね」

「そんな」「勝てない」

「神器で『S』の化け物(オリジナル)とは、そういうものなんですよ」


 項垂(うなだ)れる二人に、優しく声を掛ける。


「……何がしたかったんだい?」

「学長の」「暗殺を」


 彼女達が暗殺犯?

 いや、彼女達では贋作喰い(オリジナル)に勝てない。調査がせいぜいだ。ならば、他に首謀者が居る。


「誰に命令されたのかな?」


 二人は身体を強張(こわば)らせた。余程(よほど)強い恐怖を感じているのだろう。


「言ったら」「殺されます」

「それは、(そば)神速陣(しんそくじん)が居ても?」


 言った瞬間、双子は(すが)るような視線を向けてきた。


 ふむ。


 頼れるなら、彼女達から見て相手と強さは拮抗(きっこう)しているようだ。

 Sを倒せるのはSしか居ない。

 ならば、相手はSか?

 いや、神崩の家族(オリジナル)は互いに他の兄妹を狙わないだろう。

 待て、兄さんはどうだ?

 彼なら()()

 正義の(ため)ならば、他の全てを曲げる。

 だが、どうする。

 兄さんとは決着が付かない。双方とも神器『滅却(めっきゃく)』を埋め込まれ、不侵不老不死(ノーライフキング)なのだから倒すのは至難(しなん)だ。彼が考えを改める姿など、見た事が無い。一度決めたら、絶対にやり()げる人間だ。しかも戦うとすれば、参謀(たそうかいろ)も一緒だろう。彼女は(ふた)()だ。近い実力(イコール)に参謀を足されては、明らかに()が悪い。何より黒嵐(こくらん)内部で戦いを起こしては、神皇陛下の顔に泥を塗る。


 いずれにせよ、今更(いまさら)ながら兄さんの正体を深読みしなかった()()が回ってきたな。


「あの」「私達は」「どうすれば」

「申し訳無いけれど、()()を続けてくれませんか? 出来るだけ(すみ)やかに対処しますが、少し時間を稼ぎたいのです」

「は」「はい」


 双子は、変わらず教官室を出入りする事となった。

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