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これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
生きる人々
13/59

草薙 零:弐

 部屋に入ると、同じ黒ずくめの軍服を着た、仮面の男が座っていた。


「兄さん」

(れい)か」

「久しぶり、だね」

()()()のお前には、外部派遣ばかり任せているからな」


 この男は、いつの間にか研究所に()た。養父(ちち)神崩(かみなだ)博士も、詳しくは説明してくれなかった。けれど深く聞こうとも思わなかった。あの場所も状況も、そんな事より味方を増やす方が大切に思えた。だから常に笑っていた。そんな笑顔も、今は貼り付いてしまったが。


「どうだ?」

「今は、まだ上演(パフォーマンス)中だよ。兄さんは?」

「命ぜられた事を遂行するのみ」


 彼の神託(しんたく)は『(うそぶ)く鳥』――(つづり)は兄さんを、どう感じたのだろう。


「報告にもならんが、用件はそれだけか?」

「まあ、顔を見に来ただけさ」


 神狩の動向を伝えに来たが、これでは意に(かい)さないだろうな。


 部屋を出ると、参謀の多層回路(マクスウェル)に声を掛けられた。


「何を遊んでいるのです」

「良いじゃないですか」

「その笑顔、流石は面無(おもてな)しと言っておきましょうか」

「どうも」


 十中八九、()()しと掛けた皮肉なのだろうが、知らぬ顔で返す。


「気を付けて下さい。好きに場を離れて何かあれば、隊長の評価が下がります」

貴女(あなた)は本当に、兄さんが大事なんですね」


 仮面も手伝い名前すら分からないが、この女も正体が知れない。神狩(かがり)で最初の成功例となっているが、()()()()()()()()()()()()()()()


「そう言えば、アナタの友人が黒嵐(こくらん)に入りましたよ」


 笑顔の勘繰り(ファントム)に感づいたのか、彼女は話題を変えた。


「友人?」

響子(きょうこ)です」

「響子が?」


 響子とは、百鬼夜行(ひゃっきやぎょう)の助っ人で知り合った。それ以来、憎まれ口を叩かれてはいるが、何かと気に掛けてくれている。


「彼女は何処(どこ)に?」

「別の任務へ()いているアナタに、教える訳にはいきません」

「つれないですね」

「友達ゴッコなら、ココではなくヨソでやって下さい」

「……ごっこ?」

「馴れ合いは不要」


 彼女はいつもこうだ。普段は自分を隠しているが、兄に関すれば直ぐ感情的になる――依存型人間(パラサイト)、か。


「友達に、遊び(ごっこ)なんて在りませんよ」

「心にも無いコトを」

「いつも本気です。今も昔も、ね」


 多層回路と別れ本部の廊下を歩く。広すぎる長方形の廊下は研究所を思わせ、言い知れぬ圧迫感を与えられる。兄と会うのは別に良いが、(あま)り好きにはなれない場所だ。

 黒嵐とは、神皇陛下が設立した私設(マシンナリー)部隊(チルドレン)――日常的問題(プライベート)(いた)るまで、陛下の多岐に渡る指令のみを遂行する。どの(めい)より優先される特権も与えられているので、当然ながら他の隊から(けむ)たがられている。


 『ゴミ捨て係』などとも(ささや)かれているが、全く(もっ)て下らない。


 人には、戯言(ざれごと)を言いたい時が有るのかもしれない。だが、()け口として他人を攻撃するのは間違っている。弱い人間のする事だ。その状況は、自ら(くだ)した行動の結果だろうに。


 あの人のせいで。

 時間が無いから。

 家庭が有るから。


 何を言っている。負け犬の遠吠え(あわれんでほしい)か?

 いつまでも子供じゃあるまいし。

 それを処理(カバー)出来ない、(おの)が無力を(さら)しているのだと気付け。


 接する人が嫌いなら、その状況を作るな。時間を作れない自分が無能なだけで、時は誰にも(ひと)しく与えられている。家庭を失うのが怖いなら、弱いままで作るな。全て言い訳だ。責任転嫁する前に、もっと自分を責めるべきだ。


 ――やれやれ、他者を攻撃するなと言っておきながら、こうして自分も卑下(ひげ)している。口にしていないだけ良いが、苛立(いらだ)ってきた証拠だ。早く捜査対象である犯人を見つけ出し、八つ当たりしたい。


 いやいや、待て待て。

 暗い、暗いぞ。

 犯人次第だが、陛下の助けとなるならば徴兵(スカウト)しなければ。


 神皇陛下、か。


 機会が有るならば、また会いたいな。


 陛下の為に功績を上げ、才能の無かった神崩に手を貸した。そもそも研究記録など在る訳が無い。彼には、記録を(のこ)せるほどの実力も無かったのだ。神崩の強化は()()()()()()モノであり、彼は成功した振りをしただけ。しかしながら、神器は彼の功績だ。使える物は使わせて(もら)う。何せ、()()()()()()()()()()()()、な。

 


 本部から戻り校舎に入ると、何か()()()()()感じがした。


 何処かで、何かが起きている。

 出掛けるに際し、百合(ゆり)さんに(つづり)の護衛を頼んでおいた。

 だがそれは、あくまで目的が綴の場合のみに適応される。彼女は他で何が起こっても、()()の綴だけ守るだろう。

 彼女が動いている様子は無い。

 だとすれば、単なる内輪的事情(タブロイド)だ。


「――フッ!」


 軽く息を吐き駆け出し、一気に広い校舎を抜けていく。


「……ッ!」


 遠くから声が聞こえたな。


 配属されて間もないが、(すで)に敷地内の配置は把握した。


 ――今のは、屋内演習場か。



 演習場に着くと、顔も姿も鏡写しのような二人の女子が居た。

 おかっぱ頭の黒髪。まだ十代も中頃のような美しい顔には、大きな瞳が広がっている。


「止めて」「ください」

「まただよ、おもしれえ奴らだ」


 何人かの男子に囲まれている。

 強化手術を受けた女性は、贋作(がんさく)に近い存在へと変質する。身体能力と回復力が高まり、老化も遅くなる。神器は贋作を攻撃する(ため)の物なので、強化を受けた女性は触れると軽い損傷を起こす。囲んでいる男子達は、それを盾にして神器をちらつかせていた。


「もっと(しゃべ)ってよ」


 ……愚かな奴ら(ドンキホーテ)め!


 静まっていた怒りが、再び心の中で首を上げる。勿論(もちろん)、顔には笑みを貼り付かせたまま。

 世の男には、時にこういった勘違いする(やから)が居る。神狩製の神器では、強化された女性に(かな)わないと言うのに。しかも身体を痛める可能性が有る。全く分かってない。


「どうか」「助けて」「ください」


 面白いな。


 噴出した感情が、彼女達を見て沈んだ。女子二人は奇妙な話し方をしている。一文を交互に(はっ)し、文章を成立させているようだ。


「ほう」


 感嘆の声に、その場に居た全員が振り返った。どうやら今まで気付いていなかったらしい。実力不足も(はなは)だしいな。


「誰だ?」


 彼らは昼間の訓練で見なかった。

 研磨放置(サボタージュ)していたな、愚か者どもが(サタナエッジ)。訓練しないで戦場に出れば、みすみす贋作に殺されるだけだと言うのに。


真逆(まさか)とは思うけど、自分達が強いとでも思っているのかな?」

「なにい?」


 明らかに腹を立てている。こんなあからさまな挑発で感情を()き出しにしているなんて、三下(さんした)もいいところだ。

 八つ当たりしてやりたいところだが、訓練生など本気で殴れば首が飛ぶ。社会的な首なんかではなく、彼らの首が本当に千切(ちぎ)れ飛んでしまうのだ。


眠らぬ子(ストレス)、だね」


 両手を広げ肩をすくめていると、一人が近付いて来た。


「さっきから何言ってんだ?」


 (あご)の下から覗き込んでくる。

 やれやれ、これで威勢(いせい)(はな)っているつもりなのか?


「お前らに、一つ教育してやろう」

「あん?」

先手必勝(おしおき)がてら、な」


 変わらぬ表情で、その顔を蹴り上げた。

 グシャリと鈍い音を立てながら、彼の身体が数十メートル垂直に浮き上がる。続いて他の男子がその状態に反応するより早く、一瞬で双子の(そば)に移動した。


「頭を()せなさい」


 優しく頭を押さえ、その場に(かが)ませる。まだ周りの男子は判断が追いついていない。

 素早く彼らの中心に入り、飛び上がって腰を(ひね)った。


「ヒュッ!」


 回転蹴りを放つと、奴らは派手な音と共に四方へ()ね飛ばされた。壁に叩きつけられ、衝撃で意識を失う。


味方殺し(マンイーター)が」


 骨折しているだろうが、死んではいないだろう。

 もう少し強ければ、全身に骨折が(およ)んでいた。

 矢張(やは)加減(かげん)は難しい。


「大丈夫?」


 状況が(つか)めていない二人に、再び優しく声を掛けた。


「あ」「ありがとう」「ございます」


 馬鹿な男子と話すより、よっぽど面白いぞ。


「君達はこれから強くなる。だから大丈夫」


 そのまま宿舎の前まで送り、二人と別れた。


 何だが引っ掛かる。


 名前を聞きそびれたし、また会ってみよう。

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