↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
生きる人々
14/59

神狩 響子:弐

 衛生兵の詰(つ)め所(じょ)って、ナンか辛気(しんき)クセェな。

 早速(さっそく)言い渡された任務は、増殖する贋作(がんさく)を止めるコト。

 ナンでも、看護する衛生兵を通じて増殖する贋作がいるらしい。


 って、そンぐらいの情報じゃ、動き方も判(わか)んネェっつーの。


「変わったコトはねえか?」


 聞いても聞いても、確証を得(え)るような証言なんざ無い。


 こんナンで、ホント強くなれんのかよ。

 あー、かったりィ。


 メンド臭くなってきたトコで、一人の女からそれらしい話が出た。


「最近、夜に奇妙な音を聞くんです」

「音?」

「鐘の鳴るような大きな音、それから……」

「それから?」

「木箱を……」

「木箱?」

「いつの間にか……何人かが、細長い木箱を持ってるんです」


 当たりだ。

 何となく判る、コイツの情報が正解だ。

 今夜は張り込んでみるか。



 もう夜も二時を回ってる。このまま出なけりゃ、呑(の)めネェだけで終わっちまう。時間の無駄だゼ。出なけきゃ恨むぞ、コラ。

 黒嵐(こくらん)に入って数日。前線に居(い)たオレにとっちゃ、久しぶりの戦闘だ。新人でもネェのに、武者震(むしゃぶる)いしやがる。


 その時、ゴオォンと鐘の鳴るような音が響き渡った。


 来た!

 詰め所を飛び出し、音の鳴る方へと走る。


 胸元から半面を取り出し、顔に被(かぶ)った。

 火を吹いても支障がネェように、オレの軍服は胸元が開いてる。服のセンスは悪くネェが、仮面はどうしても好きになれネェな。大が付くほど嫌いな、神皇サマ直属のトレードマーク――とは言え、何事にもケジメは必要。ンな自分の、ガンコなトコも大っ嫌いだ。


 ……ン?


 面を付けて走っていると、オレと同じ黒い軍服が目に留まった。

 構わず突っ切っていると、再び視界に写り込む。


 ナンだよ。


 立ち止まって見ると、ヘンな格好のヤツが立ってた。

 黒い軍服にスゲェ数の時計が縫(ぬ)い付けられ、面にまで時計が埋め込まれた姿――見るからに軍警察が動く対象、つまるトコ変人。


「初めまして火炎砲(かえんほう)。ワタクシは二(ふた)つ名(な)を時計屋(とけいや)と申す者……チッ」


 チッて、名乗り出といて舌打ちかよ。アンタ何様(なにさま)?


「時計屋ね」


 腰を越えるほど、長く長く真っ直ぐな黒髪。全身の時計と合わせ、かなりのインパクトがある。


「チッ……今回は増援に参りました。新人一人では役不足だと言う事で……チッ」


 ココまで言うってコトは、舌打ちはクセか?


「立ち止まっている暇が有るのですか? お急ぎだったでしょうに……チッ」

「――ダレのせいだよ!」


 時計屋と二人、再び走り出した。



 一室の前で立ち止まる。強化のおカゲで、聴力まで上がってる。


「お待ちを……チッ」


 ドアを開けようとした時、さっきの時計屋が割って入った。


「ンだコラァ!」


 小声で叫んでも無視。


「――オイ!」


 オレをほっぽって、肘(ひじ)の部分に縫い込まれた時計を見てやがる。


「ナニしてやが……」

「入って二分五十秒……チッ……初撃(しょげき)が来ます」

「ナニ言ってンだ」


 構わずドアを開ける。使い込まれたドアは軋(きし)んだ音を立てた。

 部屋の中には、一人の女が立っている。

 いや、女と呼ぶのか、人と呼ぶかすら怪しいモンだ。首が異常に伸びてやがる。常人の指先から肘くらいまで長く伸び、大きな穴が開いている。


 こんなザマで普通に立ってンだから、もう人じゃネェな。


「壁を……チッ」


 遅かった。


 部屋の壁には、昼に話した衛生兵が杭(くい)で打ち付けられていた。

 首を貫かれ、明らかに致命傷――杭の太さを見ると、首が伸びた女の穴と同じく見える。

 きっと、同じ方法で穿(うが)たれたに違いネェ。


「程(ほど)なく時間経過……チッ……攻撃が来る」


 背後で時計屋が呟(つぶや)くと同時に、穴の開いた女が走り出した。首が蛇のように伸び、噛み付こうと迫ってくる。


「クソ!」


 伸びてきた首を拳で返した。ゴンッという打撃音を響かせて跳ね返るが、執拗(しつよう)に何度も何度も伸びてくる。


「ナンなんだよ、コイツ!」



 十数回ブン殴ったトコで動きは止まり、身体ごと床に倒れた。


「時計屋、オメーの出る幕は無かったな」


 自慢してやろうと時計屋を振り向くが、当の本人はシカトこいて胸に埋め込まれた時計を見ている。


「まだです……チッ……先ほど増(・)え(・)た(・)でしょうに」


 増えたって。

 まさか。

 打ち付けられた衛生兵の言葉を思い出す。


 ――何(・)人(・)か(・)が――。


「良く聞きなさい……チッ……ドアを閉めてから、三分十秒の後(のち)に攻撃が始まります……チッ……外はワタクシに任せて」

「外って……」


 言うなり時計屋は扉を閉めて、すぐに鍵を閉める音が聞こえた。負傷兵が暴れてもいいよう、ドアは部屋の外に鍵が付けられてる。


 この元凶は任せろってコトか、ホント信用されてネェな。

 振り返ると、壁に打ち付けられていた衛生兵が、自(・)分(・)で(・)首から杭を抜いていた。


「そぉちぃらが開かぁないなら、こぉちぃらを開けましょうかぁ」


 音声をスローで再生したような、太くて薄気味ワリィ声が響く。


 負けるかよ。


 リミッターは既(すで)に外してる。

 肺ン中一杯に息を吸い込み、全身を経由して集束するイメージ。

 眼前に大きな魔法陣が出現した。


 ――ソコでいきなりドアが開き、集中しててノーガード戦法を取っていたオレの後頭部に、ゴンとハデな音を立てクリーンヒット。


「痛(い)って!」

「チッ……失敬(しっけい)」

「ナンだコラァァ!」

「炎はいけません……チッ……施設が駄目になる」


 言い返す間もなくドアを閉め、再びガチャリと鍵を掛けられる。

 クソったれ、白兵戦かよ。

 けど緊張はほぐれた。

 感謝しとくか。後でアタマはぶん殴ってやるがな。


「ワリィ……仲間にはなってやれネェよ、先に逝(い)っててくれ」


 オレは拳を握り締めた。



 コトを済ませて背後のドアをノックすると、血だらけの時計屋が顔を出した。


「オメー大丈夫か?」

「問題無し……チッ……全て返(・)り(・)血(・)です」


 廊下に出ると、血まみれになった首の長い体がいくつも転がっている。ヨゴレで見りゃ、オレが火を吹いたって変わらなかったろう。


「あー。ンで、ボスは仕留めたのか?」

「残念ながら、まだ……チッ」

「このヤロー、大口叩いておきながら」

「貴女(あなた)が一人を相手にしている時、ワタクシはこの人数を相手にしていたのです……チッ……少しは評価しなさい」


 面でツラは見えネェが、ちっとふて腐れちまったみたいだ。


「やはりリミッターを外しておくべきでしたね……チッ」


 ってリミッター外してなかったのかよ、コイツもダテに黒嵐じゃネェってコトか。

 時計屋は長い髪をめくり上げ、耳からピアスを外す。


「チッ……さて、本体は何処(どこ)か」


 身体を見渡し、左膝(ひざ)の時計を見て視線を止める。


「左の階下……チッ……五分後に歩いています」


 しかし時計屋とは、神皇が命名したにせよ、悪くないネーミングセンスだな。コイツ、未来予知の能力者か。


「先回りしておこうゼ」


 五分と経(た)つ前に下の階へ降りると、コッチに寄って来る人影を見付けた。


「時計屋、アレか?」

「どうやらそのようです……チッ」


 歩いて来る影に目をらすと、ソレは普通の衛生兵だった。


「何か?」

「いや、その、よ……時計屋、ホントにコイツかよ?」

「ワタクシの時計に、狂いはありません……チッ……もっと仲間を信用なさい」


 ふと兵の手元を見た。手には細(・)長(・)い(・)木(・)箱(・)を持っている。


「あン?」


 アタマの中に、再び言葉が浮かぶ。


 ――何人かが、細長い木箱を持ってるんです――。


「コイツだ!」


 いきなり目の前の首が伸びる。


「そぉちぃらが開かぁないなら、こぉちぃらを開けましょうかぁ」


 木箱から杭を取り出し、オレに振り下ろしてくる。


「チッ……」


 割って入った時計屋が、腕を交差して受け止めた。


「油断し過ぎです……チッ」

「分かってたンなら……」


 言葉を吐きながら、力を込めた拳を振り翳(かざ)す。


「教えやがれ!」


 胴体に叩き込んだ。そのまま二人で後退し、距離を離す。


「コイツが、人に穴を開けて回ってたのか!」

「他にも開けられた者が、別の者へと開けていたようです……チッ……先程(さきほど)のように」

「そぉちぃらが開かぁないなら、こぉちぃらを開けましょうかぁ」

「ソコうるさい!」

「チッ……攻撃予測……3……2……1……」


 時計屋のカウントに合わせ、振り下ろされる杭の側面に拳をぶつける。割るこた出来なかったが、ヒビは入った。


「その汚(きたね)え棒、へし折ってやる!」

「お待ちなさい……チッ……杭を壊しては倒せなくなります」


 時計屋は言葉を続ける。


「恐らく原因となっている贋作は、あの穴なのです……チッ」

「ナンだと?」

「特殊ですが寄生型です。『穴』が人を操っている……チッ……ならば形だけでも、それを塞(ふさ)いでみる価値はあります。一度開いた穴に……チッ……再び杭を打ち込んでみて下さい」

「人は、あくまで憑(つ)かれてるだけってコトかよ」

「むろん死んでいるでしょうが……チッ……側面から攻撃予測……3……2……1……」


 風を切る音を立て、左から横薙(よこな)ぎに杭が飛んでくる。


「任せろ」


 オレは杭を蹴り上げて軌道を逸(そ)らした。

 杭はコオォンと澄(す)み渡る音を立てながら、吸い込まれるように穴へスッポリ収まる。


「そぉちぃらが開かぁないなら、開かぁないならぁ……」


 穴は、それを宿した人ごと空中に霧散(むさん)した。



 溜め息を吐きながら、その場に腰を下ろす。


「ヤレヤレ。あー疲れた」

「初めからこの調子、先が思いやられます……チッ」


 コイツ、舌打ちかと思ってたけど。


「行動予測……チッ……その通り。移植されてから、ワタクシは心の中で常に時を数えるようになってしまった……チッ……話そうとすると、それが口を突いて出てしまうのです」

「ヘンなヤツ」


 窄(すぼ)ませた口からグチを流すと、思いがけない言葉が聞こえてくる。


「チッ……失敬な。今回は増援でしたが、これからはパートナーとなる相手に」

「パートナーだぁ?」

「そうです……チッ……こちらとて不本意ながら……チッ……これから貴女とワタクシは、コンビを組んで行動する事になります」


 コイツとかよ。


「とりあえず」

「チッ……何か?」

「さっきの礼に、アタマ一発殴らせろや」

「出来るものなら……チッ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。