かわった戦利品
あれから数十分後。
「あとはこの小屋だけか」
ゴブリンたちの死体や近隣の村や冒険者から奪って集められただろう物品も入れ終わって、残すは巣の奥にあった小屋だけになった。
「あんまり目ぼしいものは無かったし、なんかいい戦利品があるといいなぁ~」
そう思いながら小屋の扉を開けて最初に見えたのは、ほのかに暗い色をした30㎝くらいの大きな卵だった。
「でっか!」
あまりの大きさに思わず叫び声をあげて、すこし混乱しながらマジマジと目の前にある大きな卵を見つめる。
「えっ……たま、ご? なんでこんなとこに、こんな大きな卵があるの? ここ食糧庫なの?」
慌ててまわりを見わたしてみるけど、目に映るのは武器や宝飾品で食糧庫なんかじゃないということが充分わかる。
だから、この大きな卵は食べるためにここに置かれていたわけじゃないみたいだけれど──
「ずいぶん食べごたえのありそうな卵だな──ん?」
いま、卵が動いた気がしたけど気のせいかな?……まぁいっか。
ダチョウの卵が15㎝くらいといえば、この卵がどれほど食べごたえのありそうな大きさなのかがわかるだろう。
これさえあれば、けっこうな量の卵料理ができるのは確実だ。
「卵焼き」
そう考えたせいでつい料理名を呟いてしまうと、今度は目の前の卵が震えたのがはっきり見えた。
えっ、さっきのは気のせいじゃなかった?
「……卵スープ、厚焼き玉子、スクランブルエッグ、オムレツ、キッシュ、茶碗蒸し」
すこし信じられない気持ちで、内心驚きながら確認のためにどんどん料理名を呟いていくと、それに合わせて卵の震えが大きくなっていく。
「卵なのに、意思表示ができるの?」
もしかしてっと思いながらそう聞くと、卵は返事をするみたいにふるっと震えた。
「へぇ~、不思議な卵だな」
この不思議なたまごがなんの卵か気になって鑑定をしてみる。
そうしたら、こんな鑑定結果が出た。
名前/可能性のたまご
種族/???
使徒ジェネロシティヒトが生みだした、無限の可能性が詰まったたまご。
とても珍しく、魔力を吸って成長する。
すこし悪い気を帯びている。
「へぇ~、可能性のたまごっていうんだ──って、えっ!?」
使徒が生みだしたたまごだって!?
な、なんでそんなものがこんなとこにあるの??
使徒なんて単語に驚いて、思わず足元にいるたまごをバッと持ちあげる。
そうしたら食べられると思ったのか、たまごが怯えるみたいに大きくふるふる震えはじめた。
「あっ、いきなり抱きあげてごめんね? 君に危害を加えたり、食べようとか思ってないから安心して?」
そう言うとたまごはふるふる震えるのを止めて、それからこちらへうかがうみたいに小さく1回震える。
「本当だよ、約束する。ずいぶん怖がらせちゃったね……お詫びに僕の魔力をあげるから、許してくれる?」
卵を片腕で抱えなおして手のひらに魔力を出しながらそう聞けば、たまごはすこし考えるように動きを止めたあと恐る恐る魔力を吸った。
そのすぐ後──
「うわっ、なに? なんなの?!」
腕のなかのたまごが興奮したみたいに小刻みにブルブル震えて、ものすごい勢いで手のひらの上の魔力を全部吸いとっていった。
その間わずか3秒。
「えっと……もしかして、僕の魔力が美味しかったのかな?」
魔力を吸い終わったあとも機嫌よさそうに震えてる卵にそう当たりをつけて聞けば、たまごはそれを認めるみたいに元気よくプルッと震えた。
「もっと食べる?」
いるかなとまた手のひらから魔力を出せば、たまごは喜ぶようにプルプル震えながら魔力を吸っていった。
お詫びだし、好きなだけ吸わせてあげるか。
とりあえずそうすることに決めて、魔力を流しつづけながら改めてたまごに話しかける。
「それでこのあとのことなんだけど、どうする? よければ君の親のもとへ連れてってあげるけど」
そう聞けばどうするか考えているのか、美味しそうに震えながら魔力を吸ってたたまごがピタっと動きをとめる。
「えっと、どうする? 連れてく?」
なにか考えているみたいだったのですこし待ってもう一度聞くと、たまごは拒むように震える。
勘違いじゃないかと重ねて聞いてみるけれど答えは変わらずで、たまごは抱いている腕へ甘えるように震えた。
これまでの交流の成果かなんとなくなにが言いたいかわかって、それを恐る恐る聞いてみる。
「あの、もしよかったら……僕と一緒に、行く?」
そう言った瞬間、たまごは嬉しそうにブルブル震えた。
それがなんだか可愛くて、僕はよしよしと卵を撫でる。
異世界で、最初の仲間ができた!
最初の仲間が使徒の生みだした『可能性のたまご』だなんてすごいことになったけれど、異世界もののテンプレみたいだな、なんてのんきに考えて小さく笑う。
「じゃあ、これからよろしくね? たまご」
そう気持ちをこめて言うと、元気に震えて返事をしてくれると思ったたまごはなんでか拒むようにプルプル震えた。
「どうしたのたまご? 僕、なんか嫌なことしちゃったかな?」
もしかして、よろしくはしたくないのかな? なんて考えていたら、たまごはそれを否定するみたいに震える。
嫌なことをしてしまったわけではないのはよかったけれど、なにが嫌なのかはわからない。
なにが嫌なのか何回か聞いてみるけれど、さっぱりわからなくて思わず深いため息が出る。
「わかんないよ、たまご~……たまご?」
わからなさすぎて思わずそう弱音を吐くと、たまごがまた拒むように震えた。
それでやっとピンときて、すぐにたまごへ聞いてみる。
「もしかして、たまご呼びが嫌、なの?」
やっと伝わって嬉しいのか、たま──この子は勢いよくプルプルと震えた。
「そっか~、わかってよかったよ。じゃあ、なんて呼ぼう?……僕が決めていいの?」
その言葉に、この子は元気よくぷるんと震える。
僕が決めていいみたいだ。
さっそく、この子に似合う名前を考えはじめる。
一番定番なのはたまごの『たま』だね。
でも簡単で呼びやすいけどこれはないよなぁ。
もうちょっといろいろ考えて捻ってみよう。
「たまご……使徒……ジェネロシティヒト……無限の、可能性──」
そうしてしばらく頭を悩ませつつ考えた結果、やっとよさそうな名前を思いつく。
「えっとね、無限って意味の言葉をいろいろ合わせて、アンフィトリヒってのはどうかな?」
そう問いかけた瞬間、この子──アンフィトリヒは大喜びするように激しく震えた
「喜んでもらえたみたいでよかった~。じゃあ、これからよろしくね? アンフィトリヒ……アンフィー」
アンフィーの様子に微笑ましく思いながらそう言った瞬間、なんだか心があたたかくなったような、なんというか、心がつながったような感覚がした。
すぐに鑑定をして確認すると、アンフィーと仮契約状態になっている。
「これは、従魔にしたってこと?」
思わずつぶやくと、アンフィーが不思議そうにふるりと震えた。
アンフィーにもわからないみたいだ。
でも、従魔術のスキルなんて持っていなかったはずなんだよね。
もしかして、いま取得したのかな?
「あ、増えてる」
さきほどは気づかなかったけれど、よく見たら技能スキルに従魔術が増えていた。
これで、あの感覚は従魔術によるものだとわかった。
でも、なんで仮契約なんだろう?
まぁ、それはこれから一緒に過ごしていくうちにわかるよね。
仮だろうがなんだろうが契約には変わりない。
これから仲間になったアンフィーを大事に、仲よくすごしていこう。




