#207 抽選発表当日、なんか面白いことになってる麗奈
箸休めの本編。
「おはよう、椎菜」
「あ、おはよう、柊ちゃん」
「……遂に、この姿のことを指摘しなくなったな」
「慣れちゃったから」
「……だよな。俺もだよ」
バレンタインの翌日、いつも通りの時間に起きて、いつも通りの時間にみまちゃんとみおちゃんの二人と一緒にお家を出て、二人を小学校の中に入っていたところを見送った後に、柊ちゃんと合流。
ちょっと前までは、みまちゃんとみおちゃんの二人がいる状態で合流していたんだけど、柊ちゃんが気を遣って、合流場所を小学校から少し先へ進んだところに変更しました。
理由は、
『俺がいない方が、家族水入らずって感じでいいと思うから』
だそうです。
うん、柊ちゃんがモテる理由がわかるけど……同時に、皐月お姉ちゃんの気持ちにも気づいてあげてほしい、なんて思います。
「昨日も女で過ごしてはいたが……なんかもう、慣れて来たよ、この体」
「最初は微妙に違う体のバランスに困惑するけど、慣れればそんなに不便じゃないからね。……肩凝りと胸以外は」
「俺は椎菜のように毎日、ってわけじゃないが……たしかに、この体でいる時は、妙に肩が凝るし、体格面も大きく違うからそこそこ困惑するからな……。微妙に安定しないというべきか。だがまぁ、俺は男の状態もあるから、そこまで肩凝りに悩まされないから、そこはマシか」
「羨ましい……」
「治す手段がないからな」
「むぅ~~……」
ジトー、っとあっけらかんと言う柊ちゃんを見つめる。
今でこそ慣れた僕だけど、やっぱり女の子になったばかりの時はかなり困ったからね。
胸が大きくなった影響で、体がちょっと前のめりになりそうとか、そう言う感じで。
今は慣れたからいいけど、最初の頃は運動も大変だったっけ……。
「……でも、柊ちゃんってすごいよね。その体でいきなり運動しても、いつも通りなんだもん」
「どこかの妹想いな姉に鍛えられてるからな……」
「……お姉ちゃんがごめんなさい」
「いやいいよ。っていうか、この体だとある意味助かってる面もあるからなぁ……」
「そうなの?」
「あぁ。具体的には……ナンパされた時の対処、という意味で」
「あ、そういう……」
僕もナンパされたことあったなぁ……。
あの時は、皐月お姉ちゃんに助けられたっけ。
僕もお姉ちゃんに護身術は習ってるけど、この体だとちょっと力が強くなっちゃうし、何より相手に怪我をさせちゃうかもしれないから、いろんな意味で怖かったからね……。
「休みの日にこの体で外出した時があったんだが、まぁ面倒な男に絡まれてな。あまりにもしつこいし、無理矢理なところがあったから、愛菜さん直伝の護身術で投げて対処したんだよ。投げ技ってかなり便利だよな」
「それはちょっとわかるかも……」
「殴る蹴るっていうのは、自衛手段としては不適切な気がするからな。投げ技なら上手く手加減すれば怪我を負わさないで済ませられる。……まあ、ミスると骨に行くかもしれないが」
「それは……うん」
柊ちゃんの言いたいことがすごくわかるなぁ……。
「ただまぁ、同性にナンパされるのはなんか嫌だったな……」
「うーんと、男の人?」
「あぁ。俺は通常のTS病と違って、男と女、両方になれるからな。そう言う意味で、余計キツイ」
「キツイ……わけじゃないけど、僕も男の時はよく告白されてたから、なんとなくわかるよ……」
「……そう言えば、椎菜はそうだったな。この体になって、男に告白される時の気持ちが理解できたよ。というか、よく耐えられたな、椎菜」
「うぅん、まあ、好きになっちゃうのは仕方ないことだからね……」
「そこで悪感情を抱かない辺り、本当に人間ができてるよな、椎菜」
「そうかな?」
「あぁ。というか……年齢の割に、精神が成熟されまくってるからなぁ……人によっては、気味悪く感じそうだな」
「酷くないかな!?」
「案外、そう言うもんだよ。ひねくれてる人からすれば、そう思う奴もいる、ってことだ」
「そ、そう、なんだ」
それはそれで複雑なんだけど……。
「まあ、その辺りは雪子さんによく似たんだろうとは思うけどな」
「お母さんが言うには、僕の性格って、お父さん似らしいんだけど」
「そうなのか?」
「うん。ただ、お父さんとお母さんのいいとこどりみたいな遺伝はしてるって」
「雪子さんがそう言うならそうなんだろうな。……しかし、そう訊くと椎菜の実の父親に会ってみたかったな。どんな人なのか気になるし」
「それは僕もかな。お母さんのお話では、その時代の人の割にはすごく温厚だったって言うし。すごくモテてたみたいだけど」
「……椎菜の父親と考えると、本当にそんな感じなんだろうな」
「まあ、会えるにしても、天国で、ってなりそうだけどね」
「神様や天使がいる以上、あの世っていうのもあるんだろうな」
「お母さんともお話ししたよ、それ」
とはいっても、僕が死んでからだとは思うけどね、会うのは。
……本当にどういう人だったんだろう。
◇
「おはよー」
「おはよう」
柊ちゃんと一緒に、他愛のないことをお話しつつも学園に到着。
挨拶をしながら教室に入ると、教室の中の雰囲気がいつもと違っていました。
『『『しんど……』』』
「えーっと、男子のみんなは何が……?」
「概ね、昨日の鬼ごっこによる疲労ってところだろうな。言っておくが、俺は翌日まで疲労は持ち越さないからな。貧弱すぎるぞ、お前ら」
『『『いやお前はバケモンが師匠じゃねぇか!?』』』
「お前らも愛菜さんズブートキャンプを受けたら、ああなれるぞ」
『『『絶対ノーセンキュー!』』』
「俺としても、絶対にあれはお勧めしないがな。……本当に」
柊ちゃんが遠い目をしてるけど……お姉ちゃんから一体どんなことをされたんだろう……。
「それにしても……妙に祈ってる奴が多くないか?」
「そういえば?」
柊ちゃんの言う通り、たしかに祈ってる人がちらほらいるような……。
いつぞやの、イベントの抽選発表みたい。
「おっはよーう!」
僕と柊ちゃんの二人が首をかしげていると、麗奈ちゃんが元気よく教室に入ってきました。
「あ、おはよう、麗奈ちゃん!」
「おはよう、朝霧」
「おはよ! 二人とも!」
「麗奈ちゃん。みんなが何か祈ってるんだけど、何か知ってる?」
「ん? ん~……あ。あれだよあれ。今日ってVRゲームの抽選発表日だよ」
「「……あぁ! あれ(か)(だね)!」」
思い出した。
イベントの時に抽選の発表が今日って言ってたっけ。
だから祈ってる人がいるんだ。
「でもあれだな。らいばーほーむのイベントの抽選に比べると、祈ってる奴が少ないな」
「そりゃそうだよ、柊ちゃん。あの時は、どんなに高くとも、一枚一万円くらいで済んでたし、単発バイトなんかで行けるくらいの値段だけど、今回は九万円弱だからね。普段からアルバイトをしてるならいけるかもしれないけど、普通は難しいよ。お父さんやお母さんに買ってもらう! なんていうのも難しいと思うし」
「それもそうか」
「そう言えば、高かったっけ。麗奈ちゃんは買うの?」
「いやぁ、それなんだけど、なんか……うん。色々あったんだよねぇ」
僕の質問に、麗奈ちゃんから玉虫色の回答が返ってきました。
何かあったのかな?
「椎菜ちゃん、柊ちゃん、ちょっとこっち来て」
ちょいちょい、と僕と柊ちゃんだけを手招きしてきたので、僕と柊ちゃんはお互いに顔を見合わせてから麗奈ちゃんと一緒に教室に隅に移動。
「えーっと、実はつい最近こんなメールが届きまして……」
そう言って、麗奈ちゃんがスマホの画面をこちらに見せてきました。
一瞬、見てもいいのか悩んだけど、見せてるから大丈夫と思うことにして、そこに目を通すと……
『初めまして。突然のメール失礼いたします。知っているかどうかはわかりませんが、私はらいばーほーむ、会社名、株式会社uniqueの社長、雲切桔梗です。うちの頭のねじが外れた邪神から話は聞いてるよ。君は、らいばーほーむにスタッフとして入りたいそうだね。しかも、完全ではないものの、耐性を持っていることは既に知っている。是非とも、我が社にスタッフとして入ってきてほしいと思っている。とはいえ、今年は卒業ではないので、この一年の間で色々と慣れてほしい。なので、君さえよければ、アルバイトに近い状態でウチに来ないだろうか? まあ、一年間は仕事をするというより、長い研修だと思ってほしい。本格的な実務をするわけでもないからね。それはそれとして、こちらとしては君のような逸材はぜひとも欲しいので、唾を付けておく、という意味で『New Era』を贈らせてもらうよ。あ、それを送付するために、できれば住所を教えてもらえると助かるよ。では、よい返事を期待している。魔境の魔王、雲切桔梗』
「「……」」
「えーっと、どう思う? これ、本物に見える?」
「「……確実に本物(だな)」」
社長さん、すごくはっちゃけたような、赤裸々なような、まあそんな感じの文面を書くからね……。
これを見てると、それにしか見えない。
「あ、やっぱり?」
「うん。すごくその、社長さんだなぁって感じのする文面だし……」
「何より最後に魔境の魔王とか自称してる辺りがあの人だな」
「そっかぁ……」
「「あと、メールアドレスが社用のスマホに届くメールと同じアドレス」」
「すごい説得力のある理由が来た」
あとは、アドレスがよく見るアドレスだったので、本物だと思います。
「でも、そっかぁ……本物なんだこれ……これでもしも偽物だったら詐欺だなー、って思ってたんだけど、本物っていうことはこれ……」
「まあ……送られてくるんじゃないか?」
「うん。らいばーほーむならやると思うかなぁ」
「え、怖くない? これ、文面からして、タダで送られてくるよね? 九万弱だよ? あたし、二人とは違ってライバーじゃないよ? 一般女子高生だよ? いきなり高価なゲームが、突然送られてくるって怖くない???」
「すごくわかるよ……僕は別だけど、十億円を当てた時は本当に怖かったから……気絶したし……」
「うん、あれに関してはあたしよりも怖いよね。……そう考えたら、九万円弱ってそうでもない気が」
「朝霧。普通におかしいからな? 椎菜の運が異常なだけで、特に家が金持ちじゃない限りは九万円弱の物を送られるのは普通に恐怖だからな? 椎菜を比較対象にするのは間違ってるからな」
「それもそっか。じゃあ……結局怖いことに変わりなくない? あれ、あたし、なんでこうなったの?」
「お姉ちゃんが言ったからじゃないかなぁ……」
文面の中に、お姉ちゃんから聞いた、って言ってたもん。
というより、しれっとお姉ちゃんが麗奈ちゃんの情報を流してる……。
「というかこれ、入るよね? ね?? みたいな圧を感じるんだけど、大丈夫? あたし、入らなかったらダメェ! とか言われないよね??」
「ダメ……とは言わないだろうが、かなりの圧を感じるのはまぁ、そうだな。だが、朝霧からすれば、渡りに船なんじゃないか? ある意味、一番大変な就職活動をしなくてもいい、なんてことになるわけだからな」
「……たしかに。あたしとしては、らいばーほーむに入りたいっ! って思ってたから、すごく嬉しくはあるかな」
「んっと、もしもその申し訳ないって思うのなら、お仕事を頑張って恩返しする! っていう風に考えればいい、と思うよ?」
「あ、そっか。そうだよね。九万円分の働きをすればいいんだもんね。なるほど……じゃ、あたし貰う! 貰います! 今すぐ住所送る! はい住所入力はい送信! これでOK! って、返信はやっ!」
「「もう来たの(か)!?」」
「お、おう……えーっと、『承諾ありがとう。お礼として、後日朝霧さんの家に送らせてもらうよ。あぁ、一応一つやってもらいたいこともあるので、その時はこちらから連絡するね。では』だって」
「やってもらいたいこと……?」
「何か企んでそうだな、あの人……」
「うーん、まあ、貰うことになっちゃった以上、全力でやるよ!」
何を考えてるのかわからないけど、とりあえず麗奈ちゃんがやる気に満ちているのを見て、僕と柊ちゃんは深く考えないことにしました。
今日明日は普通に日常部分になります。
明後日からまた再開ですかね。ダイジェストにしたいけど、一期生と二期生で一人ずつにしちゃったからそれができなくなってるのが……くそぅ。
まあ、あまりにも内容が同じになるな、と思ったらダイジェスト形式にします。
というか、四期生はダイジェスト形式でよくない……? あいつら、どうせ次の配信回でみたまとコラボ配信だし。ここではカロリーを抑えて、そっちでやった方がいい気がする……うんそうしよう。四期生の四人には申し訳ないけど、ダイジェストにします。三期生だけは普通にやるんで……。
私をガチャ配信から解放してくれ。




