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逢馬ヶ刻〜陰陽師奮闘譚  作者: 静ヶ崎 顯
術師翻弄
3/44

2

 

ぅん? 


 逢馬と綴がそちらを見れば機嫌を明らかに悪くした女性が仁王立ちしていた。

 彼女は岳多愛菓たけだあいか

 現在、豪運の鯨間徹を有する戦闘隊の二番組組長である。

 

 年のころはさんじゅう前半。

 平素であれば弾ける笑顔で陰陽寮中に元気と活力を届ける魅力的な女性だ。

 それが雰囲気からして般若を背負っている。

 キレれば同じ笑顔で強制的に平和を届ける存在として恐れられている存在でもある。

 彼女のコブシは結構痛い。


 逢馬としては非難したつもりはない。

 単なる会話のつもりだった。


「そうっすよ、なんでオレに引かせてくんなかったんスか」


 ここで彼女を否定するのは自殺行為に等しかったが逢馬の止める間もなく徹が突っ込んだ。

 おもわず綴も眼を剥いた。

 説明口調の徹が逢馬に顔を向けて愚痴る。


「俺がトイレから帰ってきたら岳多さんが赤いクジ持って突っ立ってたんですよ?俺がこの組のクジ係だったのに」


 逢馬はつつぅっと眼を背けてしまった。

 徹の後ろにいた般若の眼力に負けたのだ。

 更にその後ろに岳多を尊敬し崇拝までする新人がナックル持ちで待機する。


「ご愁傷様です」


 逢馬の口調が、つい敬語になってしまった。

 逢馬の隣で無言のまま手を合わせるのは親父の綴だ。

 それから、徹の後輩で二番組に所属する男性を指で招いた。

 彼は芒野知己すすきのともき、彼は鯨間徹の一つ後輩で今年廿八になる。


「なぁ、芒野」


 一緒に手を合わせたついでに事情を知ってそうな、かつ教えてくれそうな気のいい彼に尋ねた。

 向こうでは徹が鉄拳制裁を受けている。

 あ、新人の道野も殴り始めた。

 今度は蹴られて、、。


「岳多のヤツ、なんであんなに気が立ってんの?」


 見た目が若い岳多組長も、もういい歳だ。

 そろそろ、O十路ィ、に、


 ギィィン!

 擬音が聞こえるほど睨まれた。

 別に声を出した訳でもないのに。


「・・で?」


 一緒に睨まれた芒野も背筋が伸びたまま、こそこそ息だけで応答する。


「岳多さん、妖魔の使役を得意にしてますよね」


 芒野から確認される。

 陰陽寮中で遣える術が隠蔽されることは少ない。

 戦闘時には命に関わるからだ。

 組長歴が以外と長い岳多は特異で、かつ便利なある術式を大掛かりな予備準備の儀式なしで運用できる。

 その術は七秒ほどの真言詠唱と印を結ぶことを必要とし、その間は無防備になる。

 更には、どんなに努力してもそれ以上は縮まらない発動時間を護衛するための戦力を自前で備えるのが岳多愛果組長である。

 そもそも、破璃の最高級触媒を使っても発動に三日を必要とする術を単身で使えることが彼女の評価を押し上げ組長という重責を担わせた。

 勿論、本人は喜んで背負った責任であるが。


 ・・何の話だったか。

 そう、岳多組長の護衛戦力調達術である。

 所謂、妖怪と呼ばれる怪物を説得、若しくは力で捩じ伏せ屈服させて自身の戦力とさせる使役術である。

 先程からの言動で屈服型の使役だと思われがちだが岳多は説得型である。

 何なら逢馬は屈服型だと思い込んでいた。

 数年前に実際に使役妖鬼に会って質問したところ説得型であるとの証言を得たのだ。

 まあ、直後に岳多から拳骨が降ってきたのだが。


 ともかく、説得派である。

 なんでも幼少時代に山ザル、いやいや少々やんちゃだった岳多少女は近所の野山を駆け巡り遊んでいた。

 そこで、妖鬼と出会い一緒に遊んでいたというのだ。

 個体名はないが田螺蛇たにしへびと呼ばれるその妖怪と結んだ友情は歳を取っても変わり無く、陰陽寮に勤めて各種妖鬼・妖魔について学んでいるうちに自身の親友が力ある強力な妖鬼であると知ったそうであるのだ。

 呪いを専門にするタイプの田螺蛇は見つけたら即殲滅推奨、とのことで陰陽寮が龍、鬼、天狗の次くらいに警戒する妖鬼である。


 とはいえ、長年の同僚の親友である。

 なかなか話す機会はないが、ノリも良く逢馬にとっても良い戦友である。


「で?田螺蛇のお嬢ちゃんがどうした」


 件の個体は雌である。

 同種のオス以外に興味が無いのはお互い様で、だからこそ友情が続いてきたのではと逢馬は思っている。

 恐いので確認したことはないが。

 芒野が叩かれてコブを作る同組所属の同僚を無表情に眺めながら続ける。

 無理して作った無表情だ。


「組長が連携確認の訓練中に喚んだら二匹来まして」


 恐らく、去年夏ごろに行われた組員シャッフルの連携確認だろう。

 余程、合致した組み合わせをしていなければ3年~5年でおよそ半数の組員を混ぜて戦闘隊の人員構成を練り直す。

 そして妖鬼の使役召喚であるが、これは召喚される方の足元に5尺前後の簡素な陣が現れる。

 1尺が大体30センチメートルであるので5尺は150センチ、つまり1メートル半だ。

 召喚の術式陣は顕現してから発動まで数秒あるため向こうで細工することもできる。

 術式に長ける妖鬼ならば使われている属性を反転させて逆召喚で連れ去られたりもするため余程の信頼があるか、強い縛術式で縛る必要がある。

 1メートル半の術式陣は結構大型なので、近くに同種の個体が偶然居る状態で、その個体が呼び出しに抗わなければ一緒に連れてこられる。


 今回は田螺蛇の彼女の知り合いが巻き込まれてきたらしい。


「って、こないだも有っただろ。3メートル近い女性の田螺蛇が来て、母ですってヤツ」


 数年前に壇之浦で怨霊に纏わる事件が発生した際、他人の目が有るなか怨霊の宿願成就まで2時間と、追い込まれた陰陽寮が田螺蛇に助力を求めたのだ。

 田螺蛇の中で術に長けた個体の心当たりを聞けばウチの集落じゃ母が一番、とのことで一旦帰還してもらい、30分後に再召喚を掛けたらドでかい田螺蛇が着いてきて待機していた陰陽師がすわ、敵襲かと一気に戦闘体制に入るという顛末があったのだ。

 妖鬼の割りに人界の常識に厚く、現場で責任を担っていた逢馬と田螺蛇の母親が頭を下げ合うという奇妙な光景があったのだ。


 保護者同士が挨拶する横でやけに嬉しそうな岳多と田螺蛇の娘が肩を組んでニコニコしていたのが印象的であった。


「それじゃないの?」

「俺もお会いしましたから、母田螺(ははたにし)

 そうか、

「あの現場は俺と岳多と芒野と橋賢か」


 さっき逢馬がカップ麺を食べる際、蓋を押さえるのに借りたネームプレートの主である。


「で、呼ばれた個体が知らないヤツで、雄だったんですよ」


 なんとなく展開が読めた。


「ちょっと気の毒になりつつあるけど一応聞こうか」

「一言ですよ。旦那ですって言われまして」


 それで上の空だし、機嫌が悪いのか。

そろそろ芒野も笑いを押さえ切れなくなりつつある。


「早くあんたも雄と(つが)えって」


 はっはっはっは

「向こうの山ザルに先越されたか!」

 綴の爺さんも笑っている。


「喧しいっ!」


徹への制裁が終わった岳多が鬼の形相で怒鳴る。

泣かずに怒っているなら、まぁ未だ平気だろう。

見た目は卅前後だが実際には四十路が目前である。

 田螺蛇の寿命は300年。

 本人に危機感はなかったが長寿種の親友が人妻になって気に、、なったか?


お読みいただきありがとうございます。

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