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格闘聖職者の冒険譚  作者: 岩海苔おにぎり
第2章 シュネー村での日々
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レグルスの目覚めと愛用のグローブ

新章です。

「クゥクゥクゥ・・・」「ギャーギャー・・・」「キィキィ・・・」


「・・・ん?」


 周囲から聞こえる鳥や獣と思われるような鳴き声で目を覚ますレグルス。しばらく現状がわからずにぼぅっと周囲を眺める。見渡す限りの森である。わずかであるが、木々の隙間から、強い日差しがこぼれている。なんとなく、・・・いや確実にジメジメしている。はっきり言って蒸し暑い。ここは・・・どこかの熱帯雨林なのかもしれない。


 あのコトナ村の襲撃。逃げ遅れたアンを連れ戻して、逆に自分が襲われ、転移魔法を使うところを攻撃されて・・・覚えているのはここまで。つまりこのタイミングで意識を失ったってことか・・・。ようやく今自分がこんな場所にいる原因に思い至り、まずは、自分が知らない場所で、両親とも友達とも離れ一人になってしまった寂しさや悲しみ、何故かもわからず、いきなり幸せな世界から追い出された理不尽に対する怒りや悔しさ。さらにここがどことも知らぬ土地の森の中であり、いつ魔物などに襲われても不思議ではない状況に恐怖を感じる。ふと、もう1度転移魔法を使うことが頭をよぎったが、先ほど初めての行使と妨害されたことで失敗したこと、もう1つはそもそもここがどこなのか全く分からず、いきなり王都イザヴェラに転移しようとしても失敗する可能性が高いこと。(使用魔力は転移する距離に比例するのである。遠すぎると膨大な魔力がかかる。)以上のことから転移魔法は今は使わないことにする。


 このままじっとしているのも危険と考え、ノープランではあるが歩き始める。もしここに村とかがあるならば、それはきっと山の方ではないはずだ。ある方向、おそらくは北の方角は険しい山々がそびえたっている。逆に南側は緩やかに下っている気もする。すぐに村が見つからない場合、水辺も見つけなければならないし、休める場所も確保しなければならない。そこが見つかれば、次は食べ物か・・・。まずは歩こう。


 そう思って歩き始めるレグルス。コトナ村は今は秋であり、少なくとも薄着はしていない。だがここは熱帯である。全身が汗でべっちょりするのにそう時間はかからなかった。今は気持ち悪いが我慢するしかない。・・・2時間ほど歩いただろうか。多分だが今は午後3:00位な気がする。お腹も空いてきてるし、危機感だけが募ってくる。とそこで何か違和感を感じる。僅かだが地面より振動を感じる。・・・だんだん大きく振動してきている・・・何か巨大なものが、木をなぎ倒しながら進んでいるかのような音が同時に聞こえてくる・・・ヤバい・・・こっちに来る。


 ちょうどレグルスが、20平米くらいはある、少しだけ開けた場所にたどり着いたときそいつは来た。体長5mはある巨大なドラゴンである。村を襲ったものと比べると、翼は無いし四足歩行で歩いている知立である。が脅威であることに変わりはない。あまりの運のなさに泣きたくなる。でも、死んでたまるか!


「ガァァァァッ!」


 そう威嚇すると、ドラゴンは大きく口を開く。深く考えずに右に飛ぶ。さっきまで自分がいたところを、火炎のブレスが襲っている。もう一度茂みの中に入り、闇雲に逃げる。ドラゴンも木々をなぎ倒しながら追ってくる。こっちも必死に走っているが、徐々に差が縮まってくると、あまり得意ではない攻撃魔法で牽制しながらまた距離を稼ぐ。そうやって走りながら抵抗していたが、ドラゴンはしっかりついてきていた。こちらはもう体力の限界だ。


 ドラゴンが頭をいったんやや後方に下げ、今度は大きく口を開き急にこちらに近づいてくる。僕を噛みちぎるつもりのようだ。ここまでの動作がやけにスローに見える。もはやここまでか・・・


 僕は目をつぶり、両手を前方に突き出し、全身を踏ん張るように力んだ。もちろん意味はない。自然とそうなってしまっただけである。・・・全身から一瞬で力が抜ける。


 直後、目を閉じていたにも関わらず激しい光と何かをえぐり取るような轟音が鳴り響く。その代わりいつまでたっても全身を貫くはずの痛みはやってこないし、あれ?僕はもう死んでいるのか?そう思い目を開ける。


「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 自分の前方、半径3mほどの半円の形におよそ30m程削り取られていて、大地がむき出しになっている。傍には、ドラゴンのものだったと思われる右前足の先と尾の先端だけが落ちていた。これ、僕がやったのか?


 自分がやったことといえば、はっきり言って手を前に突き出して力を込めただけである。確かに力を込めた瞬間体からごっそり力が抜けた気がする。・・・よく見ると自分の両方の手のひらからかすかに湯気があがっている。信じがたいけど、掌から何か出したってこと?・・・でも仮にこの非現実的なことができたとすれば、一応この状況の説明はつく。・・・まあ、こんなこと二度とはできないな。


 そう思いながら、結果的に危機を脱して一安心する。そうなると本能的に、のどが渇いたとか、腹が減ったとかが気になってくる。僕は魔法で水は作れないから、何とか水場を見つけないと。ん?


『・・・ぃ・・・・ぉーぃ・・・おーい!・・・いい加減返事してくれないと悲しいんやがな?・・・まだ聞こえんのかいな? そろそろワイの声伝わるはずなんやけどなぁ・・・』


 周囲を見渡す僕。当然誰もいない。・・・念話にしてもどこからなのか?そもそも何もんなのか?・・・念話で答えるのも忘れ、「だれ?!」とつい声を出してしまう。


『ようやく聞こえたんかいな? ワイはお前さんが両手にはめているグローブや。』


 驚く僕を無視しつつ、話始めるグローブ(仮)


『あんさんのもんになってから、すっとしゃべくってたのに、無視しよってからに、 放置か? 放置プレイなのか? わし泣くぞ?』


 『しくしく』とか口で言いながら、泣いているふりをしている。うぜぇ。とりあえず何者(物?)なのか聞く。


『ワイは、はるか昔にある格闘家が愛用していたグローブや。その格闘家ガイル言うたんやが、死んじまった後、遺品整理に売られてしまってな、たま~にワイのこと貴重なもんだと思ってくれはった人もおってな、何とか焼却処分だけは免れてたってわけや。いや~、久しぶりにワイを使えこなせそうなやつに出会えてうれしいで。』


 そもそも話せるところがびっくりなんだけど、随分軽いよね、話し方が。なんかどっかのおっちゃんぽいし。


『そうそう。一応釘さしとくけどな、ワイ優れもんやで。なんとあのベヒモス製や。』


 ベヒモス?【世界の動物図鑑】にも【世界の魔物図鑑】乗ってなかったし・・・とか思ってたら、


『なんや動物って!魔物ならわからんでもないが・・・って、知らんの?ベヒモス。』


 だって聞いたこともなし、知らないものは知らない。おいしいの?それ。


『そういう返しは初めてやな。味は誰も知らないんやないか? まあ、食べられたことならあるかもやけどな。ベヒモスはこの世界から見ると一応異世界にあたるのか、魔界ちゅうところの幻獣や。10mはあるで。めっちゃ硬くて強いねん。火も通らんし。その昔、龍王とかこっちで呼ばれてたヤツが魔界から連れてきてな、当時のご主人のガイルがめっちゃ苦労してたらしいわ。そいつの皮剥いでワイは作られたみたいやで。』


「もしかして、それって今から700年前位の話?」


『せやで。勇者カミュとかいうやつと一緒にやっつけてたらしいで。』


 たしかにそれは凄そうだ。今の話、気になるワードがてんこ盛りなんだけど。そもそも何で自我を持ったのとかもそうだけ、勇者とその仲間の話とかとても気になる。歴史好きだし。まあ、そこは徐々に聞いていくか。話長くなりそうだしね。今は早く食事しないと。お腹減った。


『まあ、そんなんで、ワイは由緒ある品なんやで。・・・そうそうワイはめてると、いろいろ効果が付くみたいやで。あんさんみたいなワイと波長が合うものだけやけどな。確か、力+100、きようさ+200、すばやさ+150、ブレス耐性50%、混乱耐性100%、幻惑耐性100%、毒耐性100%、やったかな?』


 随分チートだな。と思いつつステータスボードで確認してみる。


レグルス LV15 天職 聖職者 回復魔法の才能 空間魔法の才能 格闘の才能 現在の職業 なし


    HP        5(最大75)

    MP       36(最大382)

    力       65+100

    きようさ    92+200

    すばやさ    75+150

    魔力     314


    技能  格闘LV5 火魔法LV6 光魔法LV21 風魔法LV11 回復魔法LV32 空間魔法LV12

        料理LV20 学問LV20 

        +ブレス耐性50% 混乱耐性100% 幻惑耐性100% 毒耐性100%

        【幻獣の革手袋】装備中


 というか、レベルが10も上がってたんだな。まぐれとはいえドラゴン倒したし。うん、聞いた通り効果付いてるね。こりゃ凄いや。でもこのおかげだったのか。なんとなく今日自分じゃないと思うほど素早く動けた気がしたんだよね。これをくれたエストに感謝だな。


 『すごいやろ!すごいやろ!』と自慢してくるおっさん(?)。激しくウザイ。・・・そこで、ふと疑問に思ったことを口にしてみる。


「さっきの、僕の手から出たやつ。あれは?もしかしておっちゃんが?」


『おっちゃんちゃうわ。失礼なやっちゃ。質問の答えやが、ちゃうで。あれは、あんさんの元々の力や。あの一撃はな、【生気収束波】言うてな、体内の生命エネルギーを攻撃エネルギーに変換して一気に放出する技や。あんさんが手ぇ突き出してたから、いけるかな?思うて掌ムズムズさせてやったらできたったちゅう訳や。まあ、そういう意味ではワイのおかげかもな。感謝しーや。』


 このグローブ、掌部分がないのはこのためだったらしい。疑問が解決してなんかすっきりしたかも。


『そうそう。念のため言うとくが、さっきの技。加減間違ったら死ぬで。HPぎょうさん減ってたやろ?あれもっとHP使ってたらもっと威力あがってたけど、あんさん死んでたで。』


「!・・・早く言ってよ!」 つい大声で言ってしまう。今のでさらに腹減ったな。


『いや。言うてましたがな。ずーと。尤も、あんさんには聞こえてなかったみたいやけど。』


 そういや、ずっと無視されてたって言ってたっけ。なんかごめん。


『まあ、気にせんといて。聞こえてないなら、言ってないのと同じやしね。前の持ち主のガイルもここで決めるって場面で全力で、そうでなかったらうまく威力を抑えながら使ってたで。ところでHP2になっとるけど、大丈夫なん?』


 やばい。さっきより減ってる。疲れすぎて感覚ないけど相当ヤバいのかも。慌てて回復魔法をかける。HPはとりあえず全快するが・・・腹減った・・・


『しっかし、あんさんのそれ。めっちゃ便利やね。ドバーン!と撃って、一気に回復したらいくらでもできるな。ガイルは魔法使えんかったから、切り札としてしか使えんかったし。』


 確かにその通りだと思いながら、今のままではコントロールできないよね?とか、もう1回あれできるの?まぐれじゃない?とか思っていると、大事なことを一つ聞いてなかったのを思い出す。


「おっさん、名前なんて言うの?」


「だからおっさんちゃうわ!・・・実はまだ名前ないねん・・・」


 悲しそうに言うおっちゃん。ガイルさんには「お前でわかるだろ? それに面倒くさい。」と一蹴されたらしい。かわいそうに。では僕が名前を付けることにする。

 ・

 ・

 ・

「ラーメン!」『却下!』 

「チャハーン!」『却下!』 

「ビーフ!」『ちょっと(?)だけ名前っぽいけど、却・下・や!!。ベヒモスは牛やないんやで? てか、何で食べ物ばかりやねん!食いもんちゃうわ!!! 少しはまじめに考えてーな。ホンマ頼むで。』

 ・

 ・

 ・

「そうだな・・・幻獣の革手袋が正式な名称でしょう?・・・安直だけど、【ゲンジ】は?」


『・・・ゲンジか。異国風やな。悪かないな。おし、これからはワイのことはゲンジと呼んでな~。』


 了解の旨伝える。・・・なんとなく友情らしきものが芽生えた気がする・・・それにしても「腹減ったなぁ・・・」とうとう口に出してしまった。ぬう。


『あんさん、いや、もうレグルスでいいか? もしかして腹減ってるん?』


「もしかしなくても腹減ってるよ~。・・・それとレグでいいよ。」


『ほな、レグと呼ばしてもらうな。でな、右斜め前方5mのヤシの木に、ヤシの実なってるで?』


「!!! ナイス! 持つべきものは良いグローブだね。」


『食い意地張ってるやつはモテへんで~』とか言ってる。今はそれどころではない。ヤシの木の根元に来る。木登りできなくはないけど、今なら・・・えい!とジャンプ。そしてぶら下がってるヤシの実にしがみつく。そのまま自分の体を揺らしてもぎ取る。そのまま体を回転させつつ着地。やっぱ身体能力上がってるわ。ゲンジ君本当にすごい。その辺に落ちている石ころで、早速ヤシの実をかち割る。すかさずココナッツジュースを飲み干す。染み渡る~。飲み干した後は果実の内部にある果肉に貪りつく。20分もしないうちにそのすべてを完食。のどの渇きと空腹を同時に満たす。ゲンジ君に感謝である。




 そろそろ日暮れも近づいてきている。まだ午後5:00よりは目だとは思うけど、秋分は過ぎている。・・・あ、ここは多分熱帯だし赤道も近いはずだから、昼と夜の長さはそれほど変化しないのか。いずれにしろ、あと1時間もしないうちに日は沈むだろう。もうここに野宿するしかない。近くからいい感じの枯れた草を持ってきて、光魔法から出る熱で程よく乾燥させる。これを集めたものを寝床にする。後は、寝ている間に襲われないようにしっかり結界を張っておく。あまり得意ではないけど、同じく光魔法の一種の迷彩を施しておく。あとは食事か。付近にはいくつかヤシの木が生えていた。そこからヤシの実を何個かとってくる。これがあれば水もいらないしね。これで野宿の準備万端。気が付けば、周囲はもう暗くなりかけてた。西南西の方角が夕焼けに染まっている。




 時刻は午後8:00位だと思う。そう思ってステータスボード見てみたら、午後7:58だって。実は時刻とか方角とかちょっとした便利機能もついている。お願いだから世界地図も載せてほしいと真剣に思う。数日前に、暇になったら読もうと、父さんの書斎にあった本を数十冊、収納魔法で持ち歩いていたりする。たまたまなんだけどね。こんなことになるなんて思わなかったし。しかし、おかげで今本を読むことができているのである。暗いので、もちろんライトの魔法を使っている。ゲンジ君が『ワイ、ひ・ま・や・ね・ん』『かまって~な!』『放置か? 放置プレイなのか?』とぶつぶつ言ってる。うるさい・・・


「ここどこなんだろうなぁ・・・」 とつぶやいていると、


『ここは【ガイアナ島】やで。そこの南東に今いるんや。もうちょい南東方向に行けば、・・・せやな、あと半日も歩けば【シュネー村】って集落があるで。そこに行ってみるといいんやない?』


「!! それ知ってたんなら、早く言ってよ。何で教えてくれなかったのさ!?」


『いや、訊かれてないし・・・』


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 はい、言ってなかったですね。わる~ございました。でも、少し希望持てたな。今の情報で。その後は本をとじて、ゲンジ君をいじりつつ、知らないうちに眠りにつくのだった。







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