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わたしと真々子  作者: 深瀬静流
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 電車の中では抱介と鉄平、わたしと真々子に分かれて吊り革に掴まった。そして、東京駅に着き、真々子を除いたわたしたち三人がいったん改札を出て入場券を買いなおして駅に入りなおした。

 連れ立って新幹線乗り場に向かって歩いて行く。東京駅は通路の上部にある目的場所への案内パネルを見ながらでないと歩けない。混雑しているし、構内のテナント店のおいしそうなものが目を引くし、パンとコーヒーのいい匂いがしてくるし、駅弁なんかも気になるしで、ついついよそ見をしてしまう。

「坂巻。置いてくぞ」

 抱介に声をかけられて慌てる。先を歩いている真々子と鉄平はもう口をきかない。

「ねえ抱介。鉄平は真々子を振ったの」

「知らねえ」

「知らないってなによ」

「振ったのかどうか、判別できない」

「ううーん」

 確かに。駅のホームの階段で少しだけ二人に何かあったみたいだけど、鉄平が真々子に別れ話をしたようには見えなかった。反対に肩を抱きよせたりしちゃってるし。これはもう一度、鉄平をあおらなきゃだめかな。

 そんなことを考えながら歩いていたら博多行き十八番線乗り場についていた。新幹線はまだ入構していなくて、ホームは待つ人で混雑していた。

「家に着くのは何時ごろになるのよ」

 わたしは真々子にきいてみた。

「ええとね、夜中。でも、真夜中にはらないとおもう」

「宇和島駅から歩いて帰れるの」

「バスだよ」

「終バスには間に合うの」

「わかんない」

「駅前にタクシーはあるの」

「あるけど、遅くなるとなくなる」

「じゃあ、おばさんに迎えに来てもらうの?」

「ママは免許、持ってないよ」

「じゃあ、どうするのよ」

 わたしはイライラしてきて大きな声を出した。

「怒らないでよ。トコちゃん」

「あんたは、どうして、いちいち心配させるのよ」

「ごめんね」

 ついに真々子は泣き出した。すすり泣いて静かに涙をこぼす。哀れっぽくていじらしくて、抱きしめたくなるじゃないか。だから泣きやめ真々子。

 抱介が、あーあ、泣かしちゃった、というようにわたしを睨んでくる。

「これ以上、真々子にかまうな坂巻」

 鉄平はもっとあからさまだ。

「聞いただけじゃない。真々子も泣くのをやめなよ。わたしが苛めたみたいじゃない。腹が立つ」

「うん」

 小さなポシェットからティッシュを出して涙を拭いて鼻も拭った。

「みんな、送りに来てくれてありがとう。もういいよ。真々子一人で大丈夫だから」

 そう言い終わらないうちにホームに新幹線が入ってきた。鉄平が緊張した。乗客が降りてからホームの人が乗り込んでいく。

「じゃあね。またね」

 真々子が元気のない声でそういって新幹線に乗り込んだ。自由席だから、早く空席を探して座ればいいのに、真々子はドアのところから離れない。

「真々子、席に座らないと。早く行って」

 気がせいてそういった。だって、岡山で乗り換えるまで三時間もあるのだもの。

「真々子、席のところに行きなよ。席を探さないと」

 でも、真々子はドアのところから離れない。わたしたちの顔を順番に見てから最後に鉄平に視線を止める。鉄平もじっと真々子を見つめた。ああ、じれったい。そうしているうちに発車のベルが鳴った。真々子の目に涙が滲みだす。やめてよ真々子。こっちまで泣きたくなっちゃうじゃない。ドアが動いて閉まりだす。

 そのときだった。ドアが閉まる前に鉄平がすばやく新幹線に乗ってしまったのだ。ガラス戸越しに見つめ合う真々子と鉄平を乗せて、新幹線は行ってしまった。

 わたしと抱介は呆気に取られて見えなくなった新幹線を見続けていた。

 鉄平が帰って来たのは翌日の日曜の夜だった。

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