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ルドヴィカたちのお茶会

 

 後日のスフィーア公爵邸。中庭のサロンにて。




「ドゥから聞いていたけれど、まさか自分当事者になるとは思いませんでした」


 そういうと優雅に紅茶のカップを傾けるルドヴィカ。向かいに座ったドミティッラもまるで鏡写しのようにそっくりにカップを傾ける。


「まさかこちらに戻ってから婚約破棄の現場に立ち会うとは思いませんでしたわ」


「あたしはちょっと面白かったけどなー」


「だがルゥが悪者にされたのは許せないのでござるよ」


 ルドヴィカの隣でスコーンを頬張りながらしゃべるヴィオラを注意しながらカールラは脇に控えて立っている。座っておしゃべりしましょうといくら誘ってもこの位置に固執するカールラをもはや誰も気にしない。昔は物陰から様子をうかがっていたことからすれば大変な進歩なのだ。あと10年位したら一緒にお茶が出来るだろうと気長に待っている。


「まぁわたしのおかげでアーダを見つけることが出来てよかったじゃない」

「スーの所為(・・)


 ニコニコ笑うスザンナに小さく突っ込みを入れるフィオレンツァは、久しぶりに実家に戻ったら姉達に剥かれ洗われ揉まれ磨かれ飾り立てられ不機嫌極まりない。魔法省にこもっているときと同じところと言えば分厚いめがねくらいだろう。


 正式に『ルドヴィカ・アーダ・スフィーア』となったルイズを父親であるスフィーア公爵は号泣して迎え入れ、後妻であるデビットの母親に若干引かれている。

 そしてアンリと結婚することを強く望んだため、今はその手続きに奔走している。


 調査の結果、誘拐犯に何らかの事情で置き去りにされたアーダを、ロー子爵との間に産まれた女の子(ルイズ)を亡くした直後だった母親に実子として育てられていた。娘を亡くした母親が精神を病み、アーダを実子と思い込むことでその均衡を保っていたというものだった。

 そのことに関わったらしきとある孤児院の院長も、アーダを育てた母親も亡くなっているため詳しい事情は不明だが、当時の行動を逐一調べた結果、ロー子爵も母親も誘拐犯ではないことだけが確定された。引き続き誘拐犯については調査を継続中である。






「それにしても」


 カップを机に戻し、ドミティッラは小首をかしげる。


「いくらアーダのためとはいえあの王子(バカ)との結婚を許したのは意外でしたわ」


「あたしも思ったよー。場を収めるって言って、そのままお芝居にしちゃうのは面白かったけどさー」


「あれだけのことをしたのに芝居だからとルゥに謝罪もなかったことに遺憾の意を示すのでござるよ」


「あれで納得した人なんていないって」


「強権発動」



 あれから事態の収拾のためにアンリが思いついた案は、婚約破棄騒動をすべてパーティの余興にすることだった。同時に学園に復学予定のルドヴィカたちのお披露目をし、ルイズも7人目の『ルドヴィカ・スフィーア』として脚光を浴びることとなった。

 引きつった笑みを浮かべてしどろもどろに説明するアンリ。話をしていくうちに矛盾点が出てくると、それを正すためにさらに大きな矛盾が出てくる無限スパイラル。庇おうと口を開く度に墓穴を掘っていく側近たち。

 いっそ憐れにも思える姿に、その場にいた皆が真相を悟った。

 それを分かった上で、迫真の演技だった、ぜひ演劇部へと勧誘する猛者もいた。断る顔が面白かったと演劇部部長がころころと笑いながら教えてくれた。




「アーダが望むのですから仕方がありません。それにアンリ様の婚約者は『ルドヴィカ・スフィーア』なので丁度いいでしょう」


「ルゥはアンリ様のことがあまりお好きではないですもの。そんな人と大切な妹が結婚しても良いと思い、あまつさえ応援するように根回ししていることを意外に思っているのですわ」


「わかっています。それも含めてアーダの望み。スフィーア家としても王家とのつながりをみすみす手放すわけには参りません」


「それだけー?」


 ヴィオラが立ち上がってルドヴィカの顔をのぞきこむようにする。にやにやと口元には笑みが浮かんでいる。ルドヴィカの心のうちなどルドヴィカたちには分かりきったことである。それでも聞くのは言葉にしないと分からないことがあるから。 

 ルドヴィカはヴィオラの肩を押して席に戻しため息とともに己の考えを打ち明ける。


「もともとドゥからオクターの学園での卒業パーティで婚約破棄が行われたことは聞いていました。他国において、あるいは過去にも貴族達のパーティで、王子や高位貴族の子息が、高位貴族の令嬢との婚約を破棄し、平民あるいは低位貴族の令嬢との婚約を行うことが多くあったことは知っていますね」


「表向き新たな婚約者は高位貴族の令嬢であるが、実際は高位貴族に養子に入った元平民や元低位貴族の令嬢であることは小生が調べたのでござる」


 国内での諜報活動が主たるカールラを国外の諜報活動に従事させ、内情を把握してきた。転移魔法など隠密活動に使える魔法が大の得意なカールラには造作もないことなのでもっと行ってもいいのだが、際限がなくなるのであまり使わない手段である。



「その令嬢や、今は王妃や夫人となられている方々と実際にお話を伺える機会が何度かありましたわ。そこで分かったことがありますの」


 交渉力の高いドミティッラは相手にそうとは悟らせずに実情を知ることが得意である。ナナイ王国公爵家令嬢として様々な国の王子妃や高位貴族の夫人たちとの交流は少なくない。その中で分かったことは。


「どうやら彼女達はこの世界を「おとめげえむ」なる世界として認識しているようなのです」


「おとめげえむ?」

「なにそれ」


「私にもよく分からないのですが、彼女達が言うには平民や地位の低い女性が王族や高位貴族の見目麗しい男性を次々に篭絡し、一番好きな男性と結婚するのだそうです」


「しゅちにくりんってことー?」

「いやん。けがらわしい(うらやましい)

気色悪い(きしょっ)


 フィオレンツァが早くも興味をなくして持参した書類に目を通している。新しい魔法具の理論論文だと言うそれをスザンナが嫌そうな顔をして見ている。


「重要なのは内容では在りません。彼女達はこの世界とは異なる世界からこの世界に『転生』してきたそうです」


「てんせー?」


 ヴィオラは転生が何か分からず、カールラに説明してもらっている。転生には興味が出たのかフィオレンツァの視線が少しだけ上がる。


「つまり生まれ変わりですわ。彼女達は総じて皆前世の記憶を持っていましたわ。魔力ではなく「でんき」があり、鉄の塊が高速で移動し空を飛ぶ。平民も貴族も関係なく遠くに居る人と話したり顔を見たりすることが出来る、そんな世界で生きていたそうですわ」


 彼女達から直接聞いたドミティッラが興奮気味に話す。フィオレンツァも完全に顔を上げて話しに聞き入る。この先の魔道具作りに生かされるのだろう。


「アーダは確かにアーダです。しかしその精神性は前世の人物そのままなのでしょう。つまりアーダの肉体を持った別の誰か、ということになると私は考えています」


 驚いてルドヴィカを見る。その視線を受けてルドヴィカは静かに答える。


「魔力の受け渡しが出来るほど身体的な親和性は高いのです。精神的にも同様であると考えたほうが自然です。現に私たちははっきりとしたものではありませんが離れていても常に私たちを感じています。それは分かるでしょう?」


「それはアーダが違うところで育ってずっと離れてたからじゃないの?」


 スザンナがルドヴィカの言葉を否定したいがために言葉を発する。しかしルドヴィカ達の考えは互いに理解してしまうのだ。


「スー。貴女は知っているはずです。私たち『ルドヴィカ・スフィーア』は生まれたときは確かに7人でした。しかし1人失われてしまった。それは誰に言われるでもなく理解していたことです。物心つく前から居なかったアーダのことをお父様に聞かされたときも、その存在に驚くよりも先に「やはり」と思ったはずです」


 ルドヴィカ達は互いに視線を交わしあい、肯定の意思を共有する。



「アーダは誘拐されたときに死んでしまった。そのときに私たちは「アーダ」の死を感じました。死んでしまった「アーダ」は置き去りにされ、その身体に前世の記憶を持つ「ルイズ」が入り込んだのでしょう。私の推測でしかありませんが、おそらく真実に近いものと思われます」


「令嬢方が前世を思い出したきっかけは頭部打撲や高熱の後など強烈な衝撃を受けたことだそうですわ。中にはよくぞ生きておられたと思うようなものもありましたわ。そしてそれまでの記憶をなくしている方も少なからずおられましたの。その方曰く「朝起きたら令嬢になっていた」そうですわ」


 一生懸命笑みを浮かべようと口元だけで笑うドミティッラがルドヴィカの推測を補足する。


「あの「アーダ」はアーじゃないってことかなー?」


「アーでないのなら、王子(バカ)に嫁ぐことも心を痛まないのでござる」


「その上でルゥは王子(バカ)と結婚しなくて済む、と」


「合理的」


 同じ考えにいたったルドヴィカ達は腕を組んで納得していた。


「ルイズさんを「アーダ」として公爵家へ迎え入れることにより王家と公爵家との繋がりも保つことが出来ます」


「さらにはルゥが公爵家を継ぐことも可能になりましたわ」


「うっわ。いいこと尽くしだねー」


「小生たちのことも周囲に説明する機会が省けたでござるよ」


「でもわたし達にも婚約者とかくるかもしれないよ」


「拒否」


 フィオレンツァは眉間に皺を寄せて論文に視線を戻した。


「もちろん違う可能性もあります。真相はルイズさんが落ち着いた頃にドゥに聞いてもらうことにします」


「わたくしもお話しするのは楽しみですわ」


「望みを叶えて警戒心を解こう作戦ですかー」


「さすがはルゥでござるな」


「なんかあの時大泣きしちゃったのが恥ずかしくなってきちゃったよ」


「いつものこと」


 アーダのことを知った直後は混乱していたが、冷静になって考えれば答えは出てくるのだ。ひとまずアーダはアーダで、アーダでないことを確認し、そしてルドヴィカたちの間ではルイズとして扱われていくだろう。

 非才なルドヴィカは才能あふれる愛しい妹達とのお茶会を楽しむだけであった。



以下蛇足のルドヴィカ紹介。



ルドヴィカ(ルゥ)

真面目な長女。妹たちのように突出した才能が無いため非才と思っているが、すべてにおいて突出している天才。まとめ役。


ドミティッラ(ドゥ)

華やかな次女。外交力交渉力に長けている。語学堪能。

実はオクターの大公に求婚されている。


ヴィオラ(ヴィ)

無気力な三女。結界魔法に長けている。ことなかれ主義だが物事の本質を見抜く。語尾がやたら延びるのは仕様。

実は国境警備長官の息子と恋仲。


カールラ(カー)

忍者な四女。転移魔法ほか遠見遠聞など隠密系の魔法に長けているが、妙な効果を加える事に凝っている。

実は王家の諜報長官から「うちに来い!」と引き抜きなのかプロポーズなのかよくわからない誘いを受けている。


スザンナ(スー)

あざとい五女。攻撃魔法に長けている。可愛くなりたくて頑張っているがあざとくなり、時折がさつな面が出てしまう。こう見えて常識人。

本人は否定しているが、実は超特級の世界的冒険者とケンカップル。


フィオレンツァ(フィ)

研究者の六女。魔法理論の研究や魔法具の開発に長けている。興味のないことには全く興味がない。

魔法省の若手実力派に思いを寄せられているが、気づいていない。そいつもフィより凄いものを作るまではとグダグダしている。


アーダ(アー)

???。


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