表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《青春ファンタジー》君と過ごした雨の日に~好感度カンスト999の彼と、終わらない雨のループから抜け出す方法~  作者: ざつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/2

第2話:ズレる既視感と学食のテスト

 同じ日の朝に、二度目に目を覚ました。


 スマホの画面は「6月14日(月) 6:48」。


 昨日も、全く同じ時刻に、全く同じ天井を見ていた。カーテンの隙間から差し込む光の角度まで、同じだ。


「……本当に、夢じゃないんだよね?」


 声に出すと、少し現実になった。少しだけ。


◇◆◇◆◇


 登校しながら、昨日と今日を重ねてみる。


 道端の水たまりの位置が同じ。コンビニの前にいるお爺さんが同じ。交差点で信号待ちしてる自転車の人が、昨日と同じタイミングで傘を直す。


 やばい。本当に全部同じだ。


 でも気持ち悪いのは、私だけが「昨日」を知ってるってことだ。すれ違う人たちは全員、今日が初めての月曜日のつもりでいる。私だけが二周目で、その違和感を黙って抱えながら歩いてる。


 孤独ってこういう感じか、と思った。知ってるのに言えない、共有できない、という孤独。


 ……でも。


 教室に入って、七番目の席を見た。



 時任蒼真は窓の外を見ていた。頭上には真っ赤な「999」。


 そして、チャイムが鳴った瞬間。

 彼は深く、ため息をついた。


 昨日と、全く同じタイミングで。



◇◆◇◆◇


 午前中は観察に徹した。


 同じクラスの木村くんが黒板消しを落とす。昨日と同じ場所で。廊下側の席の女子グループが、昨日と同じタイミングで笑い声を上げる。先生の板書ミスも、訂正するタイミングも、全部昨日のコピーだ。



 でも、ひとつだけ違うところがあった。


 時任くんが、ときどき窓の外を見る。そこまでは昨日と同じ。でも昨日は気づかなかった……その目が、どこか「諦めている」んだ。景色を見てるんじゃなくて、景色の向こうにある何かを確認しているみたいな目。


 まるで、終わりが見えてる人の目だ。


 なんで私、そんなことに気づいてるんだろう。


 チャイムが鳴るたびに、ため息をつく。授業中は半分眠っている。休み時間は一人で文庫本を読む。誰かに話しかけることも、話しかけられることもない。


 それなのに、私の好感度だけが「999」で燃えている。


 意味がわからない。わからないから、今日は昨日と違うことをしようと決めた。



◇◆◇◆◇


 昼休み、学食。



 昨日の私は購買でおにぎりを買って、友達グループのテーブルに合流した。たぶん今日も同じ流れになるはずだったけど、私は列を離れて学食のほうへ向かった。


 時任くんは奥の壁際に一人でいた。トレーに乗ったうどんと、文庫本。窓に背を向けて座っているせいで、雨の光が顔に当たって、少し眠そうに見える。


 空いてる席はいくつかあるのに、私はまっすぐ彼のテーブルに向かった。


「相席、いい?」


 時任くんが顔を上げた。


 その瞬間、頭上の「999」が激しく明滅した。点滅、というより、揺れる感じ。炎みたいにゆらゆらと。今まで他人の数値が揺れるのを見たことはあったけど、こんな揺れ方は初めてだ。


 彼は私を見て、一瞬、何か言おうとした。でも結局「……どうぞ」とだけ言って、文庫本を閉じた。


 向かいに座って、トレーを置く。


「時任くんって、いっつも一人でご飯食べてるよね」

「……そうかもな」

「友達いないの?」

「直球だな」


 少しだけ眉が上がった。不快そうではなく、意外そうな顔。私のほうを見る目が、さっきより鮮明になった気がした。


「別にいないわけじゃない。ただ今は一人がいい」

「今は、って」

「うん」


 短い。でも「今は」という言葉が、なんか引っかかった。ずっと一人でいたいわけじゃない、ということ? それとも、「今日は」という意味?


 うどんを一口食べながら、さりげなく続けた。


「私、瀬名。同じクラスの……」

「知ってる」

「あ、そうなんだ。意外」

「……なんで意外なんだ」

「接点なかったから」


 また少し間があって、彼はうどんの汁を飲んだ。


「瀬名さんは、鮭おにぎりが好きなのか」


 私の手元を見て、ぽつりと言った。

 私はトレーの上の鮭おにぎりを見た。学食のメニューの中で、これだけ昨日から変えていない。惰性で取ってしまった。


「好きだけど……なんで知ってるの?」

「見ればわかる」

「今初めて会話してるよね、私たち」


 沈黙。


 時任くんは少しだけ目を伏せた。何かを考えているような、何かをごまかそうとしているような、そういう顔だった。


「……気のせいだ」

「気のせいで人の好物わかるの?」

「うどん食べていいか?」

「どうぞ」


 彼はうどんに集中し始めた。明らかに話を切り上げようとしている。でも、今の一瞬。「気のせいだ」と言ったときの顔が、取り繕った顔だったのを私は見逃さなかった。


 頭上の「999」は、まだ揺れていた。



◇◆◇◆◇



 昼休みが終わって、午後の授業が始まった。


 私は自分の席でノートを開きながら、さっきの会話を反芻していた。


 彼は私の好物を知っていた。接点がないのに。「見ればわかる」は明らかに苦しい言い訳で、しかも自分でもそれに気づいて焦っていた。


 もし、彼もループしているとしたら。


 ……いや、ないない!


 首を振る。ループって何。タイムループって、SF小説の話でしょ。私だって昨日から二周目なんて、まだ半分夢だったんじゃないかと思ってる。それが他の人にまで起きてるとか、さすがに飛躍しすぎだ。


 でも……。


 冷静になって、指折り数えてみる。


 一。チャイムのたびにつくため息が、不自然なほど昨日と同じタイミングだった。いや意識的にしていた。

 二。そういう意味では、授業中の居眠りの姿勢まで、昨日と全く同じだった。

 三。私の好物を、初対面のくせに知っていた。

 四。「気のせいだ」と言ったとき、明らかに焦っていた。


 ……状況証拠しかないけど、並べてみると無視できない。少なくとも、何かを知っている。何かを、隠している。


 窓の外を見ると、雨はまだ降り続けていた。午後になって、むしろ強くなっている。

 時任くんは今、前の席で教科書を開いている。背中しか見えないけど、また窓の外をちらりと確認した。あの目だ。終わりが見えてる人の目。


 ……明日、また話しかけてみよう。


 そう思いながら、放課後まで過ごした。


 昨日は帰り道で豪雨になった。だから今日は少し早めに出ようとしたけど、昇降口を出た瞬間にはもう雨足が強くなっていた。傘を差しても追いつかない。肩が濡れる。靴の中に水が入ってくる。


 昨日と同じだ。全部、同じ。


 家に着いて、濡れた靴下を脱いで、ベッドに倒れ込んだところで気づいた。あ、これも昨日と一緒だ、と。


 どこまで同じなんだろう、と思っていたら。


 階下から声がした。


「陽葵ー、ご飯よー」


 また、このタイミングだ。

 昨日も全く同じ瞬間に暗転した。ということは、もしかして夕飯の声が、ループのトリガー?




 起き上がろうとして……視界が暗転した。



◇◆◇◆◇



「6月14日(月) 6:48」


 三度目の朝だった。今日は目が覚めた瞬間にわかった。


 ベッドの上でため息をつきながら、昨日の仮説を反芻する。夕飯の声がトリガー。だとしたら、今日は無視してみたら? お母さんごめん、実験なので。


 我ながら雑な仮説だとは思いつつ、私は起き上がって制服に手を伸ばした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ