エピローグ
魔王がこの世界から消えて、私は直ぐに魔境での戦いに参加した。アクイレイア王国第一騎士団の他、青の同盟騎士団、バース共和国からも増援が駆けつけた。そして、1か月程で魔境は再び鎮静化した。魔境の大魔石は私が完全浄化した。今の私は大魔石の完全浄化が可能な程の聖女に成長した。
戦いを終えて、帰還すると様々な問題に直面した。それは勇者であった第一皇子カールと私の妹の問題だ。帝国の皇太子エリアスは兄の勇者の件は公表すべきだが、妹ベアトリスの件は秘匿できないか? と私に頼んできた。彼は誠実な男性だった。自身の婚約者の為に動いた。私も彼の意見に賛成した。私だって、不問にしたい。これでお相子でいいじゃないか。そう思った。しかし、当の本人であるベアトリスがそれに意義を唱えた。
「お姉さまはお人が良すぎます。私はお姉さまを殺そうとしたのです。それを簡単に許す等いけません。私を断罪してください。覚悟はできています…」
「ベアトリス、私もあなたに対して酷い事をした。でも、あなたは許してくれたでしょう? その事はお相子でちゃらにしようよ」
「お姉さま、意地悪と殺人を同格に扱うのは変です。私の罪は決して許される事ではありません。私はどうかしていた。自分からたくさんの人が離れていって、お姉さまの傍にたくさんの人が集まるのを見た時、見苦しい嫉妬に取りつかれました。自分でもどうしてあんな愚かな事をしたのか…皇子カール様にそそのかされたのではありません。私からカール様にどうすればお姉さまを貶める事ができるか相談したのです」
「…ベアトリス。でも、私は生きているのよ」
ベアトリスが聖女を具現化した様な存在は今も健在な様だ。でも。彼女も人間だったのだ。彼女に生まれた嫉妬。それが凶行に走らした原因、そして私が彼女にどれだけの悪辣な事をしたか? 私にはベアトリスを糾弾する資格などない。お願いだから、お相子でなかった事にして欲しい。折角皇太子様も助力して頂いているのだから、
「ベアトリス、あなたは貴重な聖女なの、あなたの気持ちは姉として高貴なものだと思います。でも、あなたはあなた一人のものじゃないのよ。だから、あなたの聖女としての位置が失墜する様な事は止めて。私の為に、そして帝国の民の為に…」
「お姉さまはズルい。どうしてお姉さまはそんなにいい人になってしまったのですか? 今はお姉さまを見ると自身が恥ずかしくなります。嫉妬に狂って、お姉さまを殺そうとしてしまった。それなのに、お相子だなんて…」
「ベアトリス、私は追放刑になったけど、そのおかげで、たくさんの人から導いてもらったの、得にアルにはよくしてもらった。おかげでまっとうな人間になれた。それも、あなたが私の命を助けてくれたからなの…あなたは私の命の恩人…だから、今度は私にあなたを救わせて? そうでないと、不公平だと思うの。あなたは私の命の恩人なのだから」
ベアトリスは目を伏せると更に言葉を綴った。
「違うのです。お姉さま、お姉さまは私を買い被り過ぎています。お姉さまを救ったのも、たくさんの人の為に尽くしたのも自分の為です。自分の品格をあげようというあさましい行為だったのです。それに、今は亡き皇子カール様、お姉さまの婚約者だった彼に好かれて、私は舞い上がりました。自身が皇女となる。お姉さまの婚約者だったのに私はそれなのに…私は汚れた人間なのです。多分、聖女の力が出ないのもそのせいです。こんな汚れた人間、聖女の力が出なくて当然です。私なんてこの首を撥ねてもらいたい…」
「…」
私は唖然とした。聖女を具現化した様な女の子、ベアトリス、彼女の内面が唯の虚栄心だったなど、正直知りたくなかった。でも、一つだけ言える事がある。
「ベアトリス、人間、聖人君子なんていないの。例え打算で人を救ったのだとしても、あなたが人を助けた事は事実でしょう? 実際エドヴァルド さん、ガブリエルさん、アドロフさんもあなたにとても感謝しているわ。それでいいじゃないの? それは善行よ。あなたはいい事をした。私の命を救ってくれた。私は感謝しているの、だから私やみんなの為に聖女として生きて、以前の様に人様の為に働けば、聖女の力も強くなるわ、きっと」
「お、お姉さま、わ、私、こんなに悪い子なのに、本当に許してくれるのですか?」
「うん。だって、ベアトリスは私の妹なんだもん。何もできなかったから、少し位いいところを頂戴。ベアトリスには帝国の聖女として働いて欲しい」
ベアトリスは泣き出して、私の胸に顔を埋めた。私は彼女の頭を撫でてあげた。初めて姉らしい事をした。私の真の贖罪ができた様な気がする。妹ベアトリスの罪悪感を軽くしてあげる事、そしてこれから心をリセットして帝国の為、聖女として働く事。それが妹への私の贖罪だ。罪は決して消える事はない。本人が決して許さないのだ。でも、罪を償うという行動は尊いと思いたい。そう思わないと、私は生きていけない。ベアトリスもそうだろう。
それから程なくして、お父さんとお母さん、皇太子エリアス様とで話しあいが行われた。そして、ベアトリスの罪は不問にされた。私も同意したし、皇太子様も私やお父さん、お母さんに嘆願した。ベアトリスはいい人に巡り会えたのだと思う。
しかし、ベアトリスはこんな事を言い出した。
「私は聖殿へ出家したいと思います。そこで罪を償って、真の聖女に相応しい人間になりたいと思います。お父様、お母様、どうかベアトリスの願いをかなえてください」
皆、唖然とした。みなで説得したが、ベアトリスは頑として首を縦にふらなかった。最後に根負けした。というより、彼女の意思を尊重した。私は察した、彼女は許せないのだ。自分が…だから自分で自分に罰を与えた。それでいて、聖殿で働けば、聖女として働く事に支障はない。良く考えた上での結論なのだろう。彼女は許されてこのまま帝国の皇女となる事を自身が許せなかったのだろう。最後に皇太子エリアスが、
「ベアトリス穣、私は待っています。あなたが納得する贖罪ができるまで…」
「いけません。あなたは帝国の皇太子様です。相応しい方と早急に婚約なさいまし、私には帝国皇女等務まりません」
皆、ベアトリスの決意を受け入れる事にした。そして、皇太子エリアスが皇帝陛下にベアトリスの事以外正確に報告した。そして、ベアトリスとエリアスの婚約も解消された。
ベアトリスは聖殿で神官として、毎日女神様に祈りを捧げ、聖女としての活動を行っている。時々帝国に今も行くのだが、その時は必ずベアトリスの元を訪ねている。彼女はとても喜んでくれた。そして、私に甘えてくる。結構、聖殿の生活は大変らしく、散々愚痴を言う、ベアトリスが可愛く思えた。自分に甘えてくるベアトリスに姉である実感が湧く。これで良かったのかもしれない。私も罪を犯した者として彼女の気持ちがわかるのだ。半分偽善だろう、だって私は許しているのだ。ベアトリスだって、私を許してくれた。でも、自身が許せない。
1年が経ち、正式に青の同盟国が成立した。私は初代女王として、即位した。戴冠式には大勢の人が集まり、私はその対応であわあわしていたが、一通りの式典が終わると、自室に戻って、休んでいると、アルがやってきた。何だろう?
「クリス、お疲れ様だね。怠け者の君にしては随分と頑張ったね、ご褒美をあげないとね」
「―――――~~~~ッ!!!!」
アルはいきなりキスしてきた。私はびっくりした。疲れていてもご褒美のキスで嬉しくなってしまう自分が情けない。
「アル、急に何よ? まあ、キスはちょっと嬉しかったけど、へへ」
アルは何故か緊張した顔をして、かなり唐突に言い出した。
「クリス、君の事が好きなんだ。だから、結婚して欲しい」
「―――――~~~~ッ!!!!」
またしても意表を突かれた。確かに私達は恋人同士だけど、婚約は未だしていない、待っていたのだ。アルからのプロポーズを、
「クリス? 聞かせて欲しい。君の返事を?」
「アル! 責任とってよね! 私の頭をこんなにぐちゃぐちゃにしたんだから!」
「クリス、返事が未だだよ」
私は目から涙を流していた。そして、小さな声で俯きながら、言った。
「はい……クリスをアルのお嫁さんにしてください」
こうして私達は婚約した。
私は青の自由同盟女王として君臨する一方、各地の森の魔石の浄化を行う活動をした。
私は第二の魔王になるのか? わからない。しかし、今は大丈夫だ。だが、魔王の言葉が思い出される。そう、人の心は移ろいやすい。何時までも同じとは限らない。でも、女神様の言葉も思い出される。魔王が人から迫害されたのはコミュニケーション不足、お互い分かり合えないと溝が生まれる。それは自身に良く言い聞かせた。皆と話しあい、分かりあえば、私が魔王となる事はないだろう。アルやアン、エドヴァルドさん、そしてアクイレイア王国、ディセルドルフの人達が私に力を貸してくれるだろう、貴重な意見をしてくれるだろう。それを忘れなければ、きっと、今世は幸せに生きていける筈、そう思いながら、私はアルと結婚式の花嫁衣裳を必死に選んでいた。
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底辺回復術士Lv999 ~幼馴染を寝取られて勇者に追放された僕は王女様達と楽しく魔王を倒しに行ってきます。ステータス2倍のバフが無くなる事に気がついて今更戻ってこいと言われても知りません~




