アウクスブルク帝国への招聘14
魔物の数は増え続けたが、私達は何とかその大半を撃破していた。このままなら、何とか街を防衛できそう。そう思い始めた時、魔族が襲来した。
魔族の瘴気は急激に濃く逆巻き始めた。現れる、魔族が! 魔族はこのままでは手駒の過半数を私達に撃破されるのを恐れ、一気に私達に勝負を挑む気だろう。瘴気を察したアル達が帰ってきた。
「クリス、正念場だね。おそらく親玉だ」
「多分、そうね。黒の森の主じゃないかしら?」
「クリス様、この瘴気は私が破れた魔族のものです」
ロデムが現れる。魔族の正体を教えてくれた。
「どんな魔族なの?」
「不死の王リッチです。死の超越者。あの魔族を滅ぼす手段を私は見つけられなかった」
「やっかいな敵ね。吸血鬼もそうだったけど、簡単に不死者は倒せないわ」
「でも、クリスの聖歌が効力あるんじゃないか?」
アルがヒントを教えてくれた。そうだ、今の私は聖女、聖女の聖歌も聖なる攻撃魔法ライトニングテラボルトもリッチを傷つける事ができる。しかし、ロデムを破った魔族だ。止めをさすのは難しいのではないだろうか? ギリギリで逃げられると厄介だ。
リッチは人が外法の魔法で不死者となったものと言われている。そして、外道に外道を重ねて魔族へと堕ちた。そう考えると、並みのリッチでは無いだろう。
霊体のリッチは肉の身体を持たない。吸血鬼の時のアンのユニークスキル百花繚乱の毒も効かない筈だ。毒が作用する身体がないのだ。どう戦うか?
「騎士ども……! 貴様らはどこまで私の邪魔をすれば気が済むのかな?」
突然声と共に急激に瘴気が増し、黒い霧の様な塊が姿を現す。霧の様なものは霧というより物質では無い何かだ。
「貴様らは、皆殺しに、皆殺しにしてやる!」
黒い何かは黒いフードを被った骸骨を形作る。しかし、その姿はおぼろげで、実在する物質ではない事があきらかだ。
そして黒いおぞましいその姿から聞こえてくるのは、やはりおぞましい声だった。
「出たぞ! 魔族だ!」
中隊長が叫ぶ。
「う~ん。僕と相性が良くない魔族だね」
気がつくとアルが私の身体を盾にするように背中に隠れていた。
「また、女の子の後ろに隠れているの? アル?」
「僕は危険感知能力高いんだ」
「……そう、凄いのね」
「ふっ……」
「誉めてないからね!」
アルはいつものペースに戻って来た。最近のアルは私の乙女心を満たしてくれていたのに、ホント肝心な時に残念極まる。
「アル! いつの間に……。ていうか、何で私を盾にしてるの? 私を守るんだったら、逆の位置でしょ?」
「クリス、仕方ないよ。この場で一番安全なのはクリスの後ろなんだもの。それに、リッチって、聖女の光魔法に弱いから、どう考えてもクリスが正面に立たないと」
もっともそうに最低な発言の私の幼馴染。確かにそうね、でも、普通、男の子は女の子守ろうとするよね? 違うの?
私とアルはお互いグイグイと身体を押し合い引っ張り合いする。怖い魔族の正面に立ちたくないのだ。しかし、いざとなったら、アルを肉盾にしよう。仕方がない、背に腹は代えられないのである。
「まあ、明らかにクリスの聖女としての力や、魔法使いの力が有効だから、頑張ってね。僕は必死に応援しているよ。でも、魔法の流れ弾が飛んできたら、助けてね☆」
「そんな事言って、いざという時は助けてくれるわよね?」
「……うん、まあね」
良かった。私の幼馴染は天邪鬼なのである。
「死ね、死ね、殺さないと、殺さないと、気が紛れん! だから、殺そう……」
ひぇ……。黒い靄の様なフードを被った骸骨からはちょっとヤバい発言が聞こえてくる。しかも、その声はおぞましいとしか形容のしようがない。
怖いよう……。誰か代わりに戦ってくれないかしら? 最近守られてる側にいたから。どうも、戦う気がしない。
「クリス様を守りながら戦え! クリス様は聖歌を!」
「了解しました。中隊長殿」
「任せて下さい。中隊長」
「僕はクリスの傍で守っているよ」
中隊長の指示にアンとエドヴァルドさんが答える。最後のはアルだが、こいつマジでさぼる気だ。魔族と一戦交えたからもういいだろうという感じだ。まぁ、ホントに大変な時は助けてくれる事はわかってはるが、ここはカッコよく僕がクリスを守ると言って欲しい。
「クリス様、私もあの魔族に一矢報いたく」
「お願い、ロデム、みんなを助けてあげて」
「承知!」
アンとエドヴァルドさん、中隊長と小隊長達、そしてロデムが魔族と戦い始める。私は聖歌を歌い始める。聖歌は味方を強くするだけでなく、敵の魔族や魔物の瘴気を半分にする。それに、聖なる力が籠った歌はそれ自身が魔力に威力ある力となる。
「Θυμάσαι όταν είχες μάτια
Θυμάσαι πότε τα χέρια άγγιξαν το ένα το άλλο;
Ήταν το πρώτο μου ταξίδι αγάπης
Σε αγαπώ τόσο 」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおお!? 殺してやるううううううううううう!!」
私の聖歌はやはり魔族に直接的な威力があった様だ。明らかに苦痛にもがいている。
「セブンズ・ペイン!」
「百花繚乱!」
「糸よ乱れろ」
中隊長が魔石を使って魔法を唱える。アンがユニークスキルの百花繚乱の剣で攻撃する。もちろん剣には魔力が籠っている。リッチ相手に魔法意外の物理攻撃等は通用しない。実体がないのだ。そして、エドヴァルドさんの妖糸、糸は魔力を通しやすい女王蜘蛛の糸! みんなめいめい遠距離から攻撃する。小隊長達は魔法剣しかないので、タイミングを伺っている。いい判断だ。霊体の魔物はうかつに近づかない方がいい、それこそ麻痺や催眠など状態異常の魔法やスキルを使ってくる。
そして、ロデムの攻撃が始まった。ロデムは影に入り、影から出る力がある。既に宵闇の時間。ロデムはいたるところから出入り自由だ。そして、黒い魔力の籠った液体が矢印の形を成して攻撃する。
Θυμάσαι όταν είχες μάτια
Θυμάσαι πότε τα χέρια άγγιξαν το ένα το άλλο;
Ήταν το πρώτο μου ταξίδι αγάπης
Σε αγαπώ τόσο
δεν είμαι μόνος
Επειδή είσαι
私の聖歌が完成すると、魔族は何度もみんなの攻撃を受けていたが、尚も健在だ。普通の魔物なら何度も死んでいる攻撃を受けても、無言。
ふっと突然顔を上げた魔族。……なのだが、魔族の顔ははっきりと輪郭が無く、その形は時折、歪な怪物へと変貌する。
怖っ!
ひぃ……。誰か代わってくれない?
連載のモチベーションにつながるので、面白いと思って頂いたら、作品のページの下の方の☆の評価をお願いいたします。ぺこり (__)




