アウクスブルク帝国への招聘8
「さあ、かかって来い!」
アクレイア王国騎士の鉄の剣を構え、アルは魔族を挑発した。何というか、惚れた手前かアルがカッコ良く思える。私の脳みそってこんなにお花畑が咲いていたかしら? いいの! 私は両想いな事がわかって、実際お花畑が咲いている。魔族の顔を見た時は気分が悪くなったけど、私の為に戦ってくれるアルを見て、私はぽ~となっていた。
「アル、頑張って!」
「言った筈だよ。クリスは僕のもの。クリスは僕が必ず守る!」
「馬鹿か貴様? 魔族であるこの私と…貴様ごとき人間が対等に戦えるとでもと思っているのか?」
「魔族なら10匹は倒したかな…一人でな」
「なんだと? 貴様、同胞を10人も殺したというのか?」
「違うな。10匹と言っただろう?」
「貴様、魔族を愚弄するか?」
「嘘は言った覚えも、お前達を貶める様な事も言った覚えはない」
「ならば、私も本気で戦わなければならんな、同胞の敵、討たせてもらう」
魔族は突然大声で叫んだ。それは人外の声だった。何を言っているのかわからない。ただ、異形の声だという事はわかった。魔族、それは人間や動物、いや、魔物とも違う異形の存在、魔族には生というものは感じられない。人も動物も、魔物でさえ、生きているという形をしている。だが、魔族だけは違う。魔族はその本性を曝出そうとしているのだ。
「なんだ、これ……?」
アルが疑問の声をあげるのも無理ない。魔族はその姿を変化させ、理解できない物体となっていった。それは目玉…無数の目玉が私達の前に現れた。
「アル、それがその魔族の本当の姿よ!」
魔族の本性、それは、本来、決してこの世に存在している筈もないもの。本来であれば、決してある筈のない異形のものなのだ。魔族以外の生きる者、例え魔物であったとして、生きているという事を理解できる形をしている。だが、魔族の本性には生き物として当たり前のそれがなかった。
「アル、気をつけて、嫌な予感がする。 何なのあれ? っていうか、どうやって戦えばいいの?」
「わからない。だけど……あれは、君を虐めたヤツだ。この世界から細胞の一片だって消し去ってやる」
「ア、アル、嬉しいけど……怖いよ。お願い、無理はしないで……」
「クリスは何も心配しないで……僕言ったよね? クリスは僕のものだ。僕が必ず守るって」
「さあ、人間よ。殺させてもらうぞ。魔眼の力……私の力を見るがいい」
「……」
魔眼……人を狂わす魔の眼差し、それをこの魔族は持っているの?
魔族の本性であるたくさんの目達が赤く禍々しく光る。魔眼、アルを魅了する気だ。もし、魅了された者は例え愛するものでも殺してしまう事がある。ブルり、私はアルに首を撥ねられるシーンを思い描いて身震いする。そんなの嫌!
「さあ、人間の男よ。お前の親しい者、愛する者を殺せ。安心するがいい、その娘は未だ使い道があるから、今は殺さなくてもいい。使い終わったら、お前にも楽しませてやろう。もちろん最後はお前に殺させてやるから安心しろ」
500年前の暴力と凌辱が頭に過り、歯がカタカタと言い出した。お願い、アル、こんなヤツに負けないで!
斬!
アルは一瞬姿を消すと、魔族の目の一つを剣で粉砕していた。
「残念だね。僕に魔眼は聞かないよ。前世で魔眼を使うエンシャントドラゴンを倒す依頼を受けてね。その時に状態異常の耐性を付ける特訓をしたんだ」
……そうだった。私が魅了の魔法でイリス(アルの前世の名前)を誑し込もうとバンバン魔法をかけて耐性をつけたんだった。あの時はあわよくばイリスの心を奪おうとしたんだけど、イリスは何故か断固として私の魅了の魔法に屈しなかったのだ
「クリス、あの時は自分の本当の気持ちでしか、君に応えたくなかったんだ」
げっ!? バレてたの? あの時の事? 私は恥ずかしくなって、赤面してしまった。
「ならば!」
魔族はたくさんの目をアルに向かって襲い掛からせた。ギリギリギリ! 異音を奏でて襲い掛かってくる眼はかなりの数だったのだが、アルの剣の腕前によってたちまち数百がブツブツっと切り裂かれる。しかし、それは戦術を間違えていた。
「くっ!?」
「アル!?」
切断された眼から毒々しい色の液体が飛び散り、その一部がアルの身体にかかった。すると、ジュワっという音と共に煙が上がり、彼の服が焼けただれてしまった。
「毒液か? 魔物にそういう類のものもいるけど、魔族の目玉おやじもまさにそうだったとはね!」
「アル! 気を付けて!」
「ああ、わかってるよ。クリス」
アルが斬りつけた目玉は数百にも及ぶのに、目玉たちは分裂、再生を繰り返し、再び先ほどとほぼ変わらない数になる。少し位の斬撃では、大したダメージを与えられないようだ。敵の数が圧倒的であり、しかも下手に反撃すればこちらの方が甚大なダメージを負うことになる。アルはダメージを与える術がなく、回避に徹する。だが、いつまでもそんなことを続けていれば、アルの体力が底をついた時がアルの敗北の時となる。
「それなら!!!!」
アルの叫びと共にゴウッと唸りを上げて、剣に激しい風の魔力が渦巻く。それは、魔族をもってしても目を見開き、恐怖するしかないもの筈だった。アルはありたけの虚無を集めると、アルの得意な風魔法を濃密に注ぎ込んだ、最後の斬撃。
「颶風剣!」
魔族は、その攻撃が自身にとって危険であることは理解していただろう。だが、理解していてもそれを避ける術は彼にはなかった。アルの魔法剣は彼に逃げる場所等与えなかったのだ。周囲数百メートルがその影響範囲だ。そして、彼は少しでも防御する為だろう。目玉が集まり、再び魔族の姿へと変わる。そして、魔力を駆使して、魔法壁を作り、防御態勢を必死に整える。そんな彼をアルの魔法剣、颶風剣の魔力の奔流が飲み込む。
「人にしておくのは惜しい……だが、その程度で私を倒すことができると考えていたのであれば、甘すぎたな」
魔族の声の直後、翠色の魔力が消えてった後には、一切ダメージを受けていない魔族の姿があった。いや、少し位はダメージ受けていると信じたいが、魔族はなお、そこに無傷であり続けていた。
「なんだと……」
そして、再び魔族が多数の目玉に姿を変えると、目玉が槍の形に姿を変え、目玉の槍はアルの身体を貫いた。
連載のモチベーションにつながるので、面白いと思って頂いたら、作品のページの下の方の☆の評価をお願いいたします。ぺこり (__)




