赤の森の大討伐1
団長より赤の森大討伐の作戦令が示された。私達第三中隊は臨時編成の第一小隊を編成した。第一小隊は通常24名だが、そこに私達四人の他、聖女セシーリアさん、エリスちゃんと聖女の直衛騎士が参加し、36名となった。中隊長も第一小隊と行動を共にするのだが、指揮官なので数には入らない。もっとも、戦力としては最も頼りになりそうだ。第四中隊は遊撃隊として、哨戒、補給部隊の警護が主任務だ。これで第三中隊は魔物討伐に専念できる。
大討伐作戦の当日、私はいつもよりも早く目が覚めた。もちろん、騎士として赤の森大討伐に参加できる事が楽しみで、自然と目が覚めてしまったのだ。前回の赤の森の探索では冒険者としての参加だったけど、今度は騎士としての参戦なのだ。これが気持ちが昂らない方がおかしい。
騎士団の寮を出ると、例によって、アルとエドヴァルドさんが待っていた。二人共気が昂って早起きしたのだろう。随分と前からここで待っていたのかもしれない。
「おはよう、クリス、アンさん」
「おはよう。クリス殿、アン殿」
「おはよう、アル、エドヴァルドさん」
「おはようございます。アル君、エドヴァルドさん」
「いよいよ初めての騎士らしい仕事ね、私、心が躍ってしまって!」
「私もよ、アンだけじゃないわよ」
「実は俺達も早々に早朝目が覚めたんだ」
「僕はエドヴァルドさんが朝からうるさいから目がさめただけなんだけど」
アル、こんな時でもマイペースだな!
「それより行こう、騎士団本部で作戦会議だ」
「一般の騎士で参加するは私達だけみたいよ」
「うーん、そんなに期待されているのか?」
と呟く私に、アルが、
「違うよ。クリスが聖女だから、僕達はクリスの直衛騎士になるんだよ」
「そうかもしれない。聖女には専属の騎士がつく事が多いしアンとエドヴァルドさん主戦力だし」
「でも、そのおかげで作戦会議になんて参加させてもらえるのね? ありがとうクリス!」
うん、アン、だからいざという時は心置きなく私の肉壁となって、守ってね♡
そうして、イェスタ団長、第一中隊長クリストフ、第三中隊長フレデリク、そして第四中隊長クルト・オルフ、各小隊長、聖女セシーリアさん、エリスちゃんに私達というメンバーで作戦会議が開催された。
イェスタ団長から作戦の概要が示された。
「作戦期間は十日間、補給物資は十二日間程度をめどに準備し、輸送用の馬車、馬の準備もできている。目的は赤の森の最深部まで進行、出来るだけ多くの魔物を殲滅。聖女は魔石を浄化し、最終目的は最深部にある大魔石を聖女三人で浄化する事とする」
第三中隊長が人員の説明をした。
「第三中隊からは新たに人選した。今回、若い者の教育は考慮に入れていない。実力だけで選んだ。24名は精鋭中の精鋭揃いだ。例え、S級の魔物に遭遇したとしても、勝利できる人員だけを選んだつもりだ。聖女達には指一本触れさせなねぇ!」
「わしら第四中隊も同様だ。少々、老兵が多いが久しぶりに腕がなるのう。それに若い者にも中々見るべき者も多い、そんな若い奴らが三分の一だ。それに魔法が使える者を多く選んだ。魔法が使える者が多い方が森の最深部で良いだろうとの判断だ」
「なるほどな。流石フレデリクとクルトだ。ところで、フレデリクの予想では、赤の森でS級の魔物に何体位遭遇しうると見積もる? 普段なら1体出くわすかどうか位か? ……いや、それ以下だった筈だ。あの広い森の中で、数少ないのS級の魔物に出くわすなんて、大海で目の見えない亀が漂う木材の穴に首を突っ込む様なものだ。そもそも、ここ十年以上S級の魔物の目撃情報すらなかった」
「おそらくは1体には確実に遭遇する」
「…………なに?」
「10割の確率で、S級の魔物に遭遇する」
第三中隊長フレデリクは、確信を持って言い切った。
「それは、先日の森の探索で得た感触か?」
「ああ、赤の森はすっかりおかしくなった。Sクラスの魔物は森の最奥になんていねぇ! 確実にのこのこと、Bクラスに出くわすかどうかの浅い地点にいる」
クルト第四中隊長ががたりと音を立てて立ち上がる。思わず立ち上がってしまったのだろう。
「第四中隊は哨戒と補給物資の守備に徹してもらう。哨戒も補給物資の護衛も重要な仕事だ。第四中隊の消耗は避けなければならん」
イェスタ団長がクルトさんを戒めるかの様な指示を出す。第四中隊も騎士、魔物を見て、ただ新人の騎士の様に哨戒と補給物資の護衛だけではつまらないだろう。しかし、森の最深部にS級の魔物が出るのなら?
「承知した。わしら第四中隊、責務の重要性は理解しておる。老兵であるからこそわかる事もある」
「うむ、今回の大討伐、人的被害は確実に出るだろう。だが、補給物資をやられたら、致命傷になる。すまんが第四中隊は第三中隊の補佐に徹してくれ」
イェスタ団長の言葉に無言でクルト第四中隊長が頷く。そこに第一中隊長が発言した。
「我ら、第一中隊からは聖女セシーリア様、エリス様の警護に備え計6名派遣します。しかし、クリスティーナ様の護衛は本当に要らないですか?」
「ああ、それなら、安心できる戦力がある。元々クリス様の冒険者時代の仲間を護衛にあてようと思う」
「ああ、それでいいだろう。並みの騎士より腕は確かだ。護衛なら十分以上の戦力だ」
イェスタ団長と第三中隊長が二人共互いに確認する。まあ、確かにアンとエドヴァルドさんの二人で十分な戦力になると思う。アルは戦力外だけどね……
「聖女様の護衛をできないのは残念です」
「まあ、そういうな。ホントはケルンの貴族達の警護にそれだけの人員を差し引くだけでも大変なのだろう?」
イェスタ団長の言う通り、第一位騎士団はケルンの貴族達の護衛等を一身に集めている。貴族の半数が王都におり、当然騎士も随伴している。第一騎士団は常時半数しかケルンにいないのだ。
「まあ、騎士の皆さまは戦っている内に調整できるけど、あたし達聖女の調整も予めさせてね」
聖女セシーリアさんが話しだした。
「クリスちゃん、エリスちゃん、他の国の聖女はどうだかしらないけど、あたしは魔物討伐の時は討伐隊の最前戦に行動を共にするの」
「それはどういう意味ですか? 聖女様って、普通後方で待機しているものなんじゃ?」
「あたしは最前線にいつもいるわ。だって、あたしの聖女の歌で騎士達の力を大幅に上げる事ができるのよ。もちろん自分の身を守る位の剣技も身に付けているわ」
「じゃ、私もセシーリアさんと一緒にいます!」
「もちろんそのつもりよ。それにエリスちゃんも一緒」
「お待ちください。エリス様は身を守る術を未だ身に付けておられません」
「あたしとあなたの騎士が信じられないの?」
「そ、それは……」
第一中隊長が抗議の声を上げたが、沈黙する。そもそも聖女の加護は剣技や魔法に極大の加護をもらえる。つまりセシーリアさんの近くにいる方がはるかに安全。一介の騎士より余程強いのだ。エリスちゃんも今回の戦いで、レベルがかなり上がり強くなるだろう。剣や普通の魔法は私が教えてあげよう。光魔法はセシーリアさんが教えてくれるだろう。光魔法に関しては私も教えてもらわなければ。光魔法は聖女、聖人しかスキルがもらえない。その為、光魔法を使える者は驚く程少ないのだ。前世の私でさえ、光魔法はひとつも覚えられなかった。聖女と行動を共にしたのは、魔王討伐の行程10日間程だったからだ。
「うん、セシーリアの意見通りにしよう。今回の大討伐、死傷者が出るだろう。しかし、我らはやらねばならん。お前達の努力にこの国の未来が担われている。頼むぞ」
「はい、お任せください」
『我らの血の最期の一滴まで! 我らの全ては、アクイレイア王国と共に!』
皆、騎士の誓いをたて、会議は閉幕となった。
会議が終わって私達は会議場を後にした。アルとアン、エドヴァルドさんと話しながら出発の準備に自室に戻り始めた。聖女としての任務を与えられてモチベーションは絶好調だ。私は思わず、アルの手を握って、言ってしまった……こいつの性格を忘れて……
「アル!? いざという時は守ってね! お願いね!」
「へぇ? 何で僕が? クリスの方が強いんじゃん?」
はぁ、思わずため息が出る。私の幼馴染は顔だけなのである。
「はぁ...アレだよね。アルって顔だけは良いのに残念極まるよね?」
「君が言う? それと生暖かい手で握られると気持ち悪いんだけど」
何だと!?
「アル! 一応私も何でもパスできるというわけではなくて、そういうガチで心にくる感じの悪い返しはA〇フィールド突き抜けるわ。普通に傷つくの」
「うわ、めんどくさっ。まあいいや。とりあえず給料の範囲内で頑張るよ」
それが騎士という立場で守らなければならない幼馴染の女の子に対して言うセリフか?
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