聖女セシーリア
模擬戦も終わって、救護隊がやってきて診てくれたけど、それだけではなく、聖女のセシーリアさんも来てくれた。私と違い、高位の聖女の彼女はメガヒールの魔法をかけてくれた。驚いた事にアンはかなり回復した。メガヒール、私も早く覚えたい。
聖女のセシーリアさんは大人の女性だった。品があり、年上の貫禄で、心を癒してくれそうなそんな存在、見た目だけは、
私はセシリーリアさんを見ると心にモヤモヤしたものが浮かんだ。これは嫉妬。そう私はセシーリアさんに嫉妬していた。私がなれなかった皆に愛される聖女。それが目の前にいた。
「あなたがクリスティナーさん?」
「はい、クリスティーナです」
「あたしの事は多分覚えてないかな? 凄く小さいころに会った事あるのよ」
そうだった。この人はメクレンブルグ家の長女、叔父様の妹さん。つまり、私の叔母さんなのだ。
「そうだったんですね。セシーリア叔母様って呼んでいいですか?」
「駄目! セシーリアお姉様とお呼び!?」
心の狭い聖女だな。私が言うのもなんだが……
しかし、何故かセシーリアお姉様はニマニマとした風な顔で私を見てくる。何? この嘲りを受けた様な感触は? ……うわっ、この人クズの匂いがする。
「あの…セシーリアお姉様。どうして私の顔みてそんなにニマニマするんですか?」
「あら? わからない? 同じ格の人間が堕ちた処みたら、ニマニマ止まらないわよ」
わー......私はまたも遠い目をしてしまった。この聖女、クズだ。いや、私が言うのもなんだけど。私もクズだから……
「(性根が腐りまくってやがる……!)」
「(クリスが言えることじゃないよね)」
アイコンタクトでアルに罵られる。もう
「今、あたしの事クズって思ったでしょ?」
私は首をぶんぶん振って否定した。もちろん心の底からクズって思ったけど。
「いや、隠さなくてもいいのよ。クズって言われると嬉しい位だから?」
「なあ、クリスのドブ川の様な性格は遺伝なのか?」
アル? お前が言うか? なら、お前の性格はどこから流れて来た?
「はい。クズって思いました。でもそれ褒め言葉だと思いました。私だって同じ立場ならそう思います」
「クリスちゃんとはわかりあえそうだわ。お兄様とはどうも性格が合わなくて、同じ仲間と話したかったの!? 良かったわ、素敵なクズの姪と逢えて!?」
いや、この人、私やアルより酷くない? 私だって、アルに面と向かってクズだなんて……いや言ってるか? いやいや、ほぼ初対面でクズっていうのはやっぱりクズよね?
「安心して、私はクズだけど、心の底から酷い女じゃないわよ。唯、ちょっと心が狭いだけよ。あなただってそうでしょ? 婚約者を義母妹に盗られそうになって散々虐めたんでしょ? それに怪我までさせたって?」
「は、はいそうです」
私は下を向いてしまった。クズでも、やってはいけない事はある。私のやった事は人の道を外れ過ぎていた。また、過去の過ちに苛まれた。
「私だって、同じ立場なら同じ事するわ」
「えっ?」
「婚約者盗られそうになったら必死に抗するわよ。黙ってなんていない。それに、あなたは婚約者に浮気されたのよ! 反省だけするものじゃないわよ。私はあなたより、あなたの婚約者の方に腹がたつわ」
「あ、ありがとうございます」
この人、クズなんかじゃない。クズみたいな事言ってるけど、ホントは違う。慈悲深く、心の奥底は聖女に相応しいんだ。だからこの騎士団の人はセシーリアさんに好意をもっているんだ。やっぱり、この人にはかなわないや。
「でも、義母妹のベアトリスさんに怪我をさせてしまったのね。そんな事がなければ、あなたの方が正論で婚約者ぶっちめる事もできたのにね」
「あれは、私が悪いのです。私はベアトリスへ嫉妬するあまり、何もかも見失っていました。ベアトリスには感謝してます。今、命があるのは、ベアトリスのおかげです」
「普通、貴族が事故で怪我させた位で追放刑になんてならないわよ。あなたは自分で思っているほど、クズじゃないわよ。ベアトリスさんに感謝してるのね?」
「は、はい、命があるから、自身の罪を悔いる事ができたんだと思います。そうでなければ、ベアトリスを呪い続けて、今頃断頭台でさらし首だったと思います」
「そんな事は私達がさせないわよ。あなたの追放刑も私達やあなたのお父さんが尽力してもう少しで回避できそうだったのに……あなたの婚約者は一体なんて執念深いのかしら? ホント、ビックリよ。仮にも元婚約者のあなたに良く、あそこまでできるものとあきれたわよ」
「ありがとうございます。でも、あれは全て私が悪いので、皇太子様が悪い訳ではないので……」
「あなた、婚約者の事……愛していたのね……」
「……」
「ま! とにかく、あなたに危害を加えるつもりはないし、貴方には色々助けてもらわなきゃいけないから、むしろ好待遇しちゃうわよ」
「私が聖女様を助けるのですか?」
「ああ!? 聖女のあなたから聖女様と呼ばれる! 私は格上の存在ね!? 嬉しいわ」
「いや、たいていの人が最低な女として認識するだけじゃないか? なんでこれ聖女?」
やっぱり、この人、クズかな? 私と同じで、クズの心も正義の心も両方ある。
「それにしても綺麗な人だな~」
エドヴァルドさんはどうも内面が良く見えない人らしい。いや、内面に興味ないのかな?
「エドヴァルドさん、騙されちゃ駄目ですよ。この人の内面はドブ川以下ですよ」
「クリスが言う?」
アル、君は余計なことばかり言うねぇ……。ムカつく( `皿´)プンプン
「いやね。アン・ソフィさんにメガヒールをかけてあげた見返りとして言っている訳じゃないけど、クリスさんには私の代行を色々お願いしたいの?」
「代行って? 聖女の代行ですか?」
「そうよ。聖女って色々やる事が多くて、中々大変なのよ。例えば、地方に巡業して聖なる祈りを聖殿で祈るふりをしたり、各所の騎士達の魔物討伐に帯同して魔石を浄化したり、王都の晩餐会に出席したり」
「あの、王都の晩餐会だけになら出席してもいいかなーって?」
「それだけは駄目! ていうより、それを優先したいから、他の仕事を減らしたいの」
「はぁ?」
「そうよ。王都の晩餐会ではちやほやされるし、美味しいごはん食べれるし、悪い事は何もないわよ」
「…….以外だとキツイやつばかりなんですけど、特に地方巡業」
「そうなのよ。あれ、聖殿で祈るふりしてるだけで、あたしは何も祈っていないから、無駄なのよね。それなのに、何故かありがたがって、毎年あちこちから依頼が来るの。困ったわね」
「いや、聖女の祈りって、地方貴族からそれなりの金額の支度金を用意されるから、それ、ほぼ詐欺では?」
エドヴァルドさん、ナイス~っ、私もそう思いました。
「でも、ほら、私、女神様信じてないじゃない。だから祈るだけ、無駄かな~って」
「女神様信じてないのか? 聖女なのに?」
エドヴァルドさんが驚く、う~ん。私も女神様信じてないけど、一般の人が聞いたら、卒倒するかも、特に、聖殿の神官とか……
「でね、そんな嫌な仕事をみんなクリスちゃんに押し付けたいの、駄目かな?」
「クリス、流石クリスの血縁だ。この人、ドブ川の中でもひと際汚れきった真っ黒なドブ川の心持っているぞ。流石だ、僕も見習わないと」
アルは良くわからない処に感動していた。いや、なんだよ、ドブ川の中のドブ川って?
「聖女の仕事つて、そんなに嫌なんですか?」
「ううん、嫌なのもあるけど、クリスちゃんに頼むとクリスちゃん嫌がるでしょ?」
「はい、嫌です。騎士の仕事の上、聖女代行ってしんどいです」
「だから、クリスちゃんが嫌がるかって思うと、心が躍るの!」
「~~~~ッッ!!!!」
セシーリアさんはニッコリと笑って、言った。
「ホントは、間近で苦労しているクリスちゃんを見て嘲笑いたいの!」
この人歪みすぎじゃない……
「で? 私のお願い、聞いてくれるかな?」
私はにっこり笑って言った。
「嫌です」
即答以前だ。何でそんな慈善事業みたいな事しなきゃいけないの? 鳥肌が立つわ。
「いやね。アン・ソフィさんにメガヒールをかけてあげた見返りとして言っている訳じゃないけど、クリスちゃんが代行してくれないと……早く忖度した方がいいわよ」
「う~ん。慈善事業をするのはちょっと……」
「……もう一回聞くわよ? 私は聞きたく無い答えはいらないの……同じ問い掛けにもう一度NOと言ったら解ってるわよね?……メガヒール1回分の請求書を書かないと……」
「喜んで聖女代行の仕事をやらせてください!」
「いいわ! 聖女代行をやらせてあげるわね!」
いや、それ、脅しだろう? しかも勝手にメガヒールかけたのに、この聖女、酷っ。
「無事、クリスちゃんが忖度してくれたから、あたしは行くわね。これから騎士爵授与式だから」
何が忖度だよ。脅したくせに。聖女の施しってPricelessだから、道端で苦しむ名も無き民にヒールをかけたら無償だろう、だけど、大貴族が家族なんかにメガヒールを頼んだりしたら、凄い大金が必要だろう。どう? Priceless怖いだろう? メガヒール1回分で、一生払えきれない借金を背負わされてたまるか!?
聖女セシーリアがこの場を去って、そうこうしていると、中隊長達の声が聞こえてきた。
「どうだ? 俺凄くね~?」
「よっ! 流石ナンバー2」
「中隊長! アイしてるぜ!」
「誰だキモい事言う奴は?」
私は腹がたった。明らかにやりすぎだろ? アンは女の子なんだぞ?
「ちょっと、馬鹿犬?」
「おおっ、ご褒美が!」
そうなのである。こいつは馬鹿犬扱いされて喜ぶドMだ。それにしてもこれだけ公衆の面前でも平気なのか?
「やりすぎじゃないですか? 中隊長のユニークスキル凄いです。アンに勝機はなかった筈ですよ! どうしてあそこまで激しい攻撃したんですか?」
「俺に手を抜くべきだった言うのか? あれだけの戦士を相手に?」
急に馬鹿犬がマジな顔をした。そうだった。騎士は冒険者とは違う、手を抜くなんて事はしない種族だった。手を抜く事はむしろ敬意に欠ける事、そう考える人種だった。
「騎士様は普通そうなかもしれませんが、私達は未だ騎士になったばかりの新人ですよ」
「お前達は既に第三中隊所属だ。誰もお前達を半人前とは思っていない。第三中隊配属という事はそういう意味だ」
「え? 第三中隊所属って、中隊長が私やアンに馬鹿犬って呼ばれたいから無理やり配属させたんじゃないんですか?」
「お前、騎士団をなんだと思ってるんだ? 俺の力でそんな事ができる訳がないだろう? お前達が第三中隊所属なのは、実力だ」
「そうだぞ。クリスティーナ、お前とお前の仲間の実力を勘案して第三中隊所属にしたんだ。誇りに思え! 私も我が姪が力強い騎士となり、誇りに思う」
叔父様だった。こんな処にいていいの? 今の叔父様はあまりオーラが無い、唯のいい人にしか見えない。
「ところで、さっき、セシーリアが来ていた様だが?」
「セシーリア様なら来て、もう帰りましたわ。叔父様」
「そうか? 頼むからセシーリアなんかに染まらないでくれよ」
「(クリス、君の正体、君の叔父さん知らないんだね?)」
「(そうよ。小さいころからずーと会ってなかったから)」
アルがにへらと笑う。私は、
「あ、ちょっとクリス、急に何を!」
「うるさい、この馬鹿幼馴染め!」
私はアルの口を必死に抑えた。
「仲がいいんだな、お前達…その素直さ…失うなよ」
そういって、叔父様は去って行った。素直さ? 多分セシーリアお姉さんの事ね。素直さのかけらもなさそうだし。
「ホント、何で急に僕の口を塞ぐんだ。君は酷いよ。君の叔父さんに早く真実を知らせたかったのに!」
何を考えているんだ。アル! 万が一叔父様が私に惚れていたらどうする? 正妻は無理でも愛人になれるかもしれんだろ!
「(いい加減、誰か私の事、思い出してください!)」
メガヒールでも完全に怪我が完治しておらず、動く事もしゃべる事もできないアンは講堂の片隅に転がったままだった。
連載のモチベーションにつながるので、面白いと思って頂いたら、作品のページの下の方の☆の評価をお願いいたします。ぺこり (__)




