赤の森の探索 4
中隊長は私の下僕になってしまった。遺憾な事だが、彼は重度のアレだったらしい。私はやや不満だ。私の容姿は今は清楚系と言っても差し支えないのに、何でこうなった?
「(……何が悪くて、どうしてこうなってしまったのか。誰か教えて下さい……。)」
「「(日頃の行いが悪い!)」」
アルとアンが私を虐める。
「……こんなの嫌だぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁや゛だ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁっ……!?」
「「(日頃の行い!)」」
せめて言葉にして!? 無言で罵られるとマジ辛い。私には罵られても中隊長みたいに快感を得る癖はないのだ。ノーマルなのだ。せめて言葉にして、そのニマニマ笑顔がむかつくんですけど!?
2日目は早々に赤の森を引き返し、今は森の1/3位のとこまで戻っていた。サラマンダーと接敵してから、特に強力な魔物にはでくわさなかったが、今回の探索の目的は果たせたそうだ。中隊長から聞き出した情報によると、最近森に変化があり、森のかなり浅い位置でも強力な魔物が現れるらしい。その真偽を確認する為の派遣だったそうだ。
ちなみにこの情報を引き出した見返りに中隊長の事を常時、『この馬鹿犬』と呼ぶ羽目になった。騎士団的にどうよ? と思ったが、誰も突っ込まない処が怖い。
2日目も夕暮れになり、キャンプを張る事になった。本当は森の半ばで行う予定だったのだが、サラマンダーが出た以上、そんな処で夜営をする事は危険という判断だ。アンを含めて魔法使いが二人もいるのだから、平気なのにと思ったが、今日の夜のご飯がすき焼きパーティと聞いて、目がキラキラとしてきた。もう、森の事はどうでも良くなった。今日はすき焼きが食べれるのだ!
すき焼きパーティの準備が始まると私は忙しくなった。何しろ女の子なのである。ここは腕の見せ所だ。王女様候補時代に家庭料理の勉強に勤しんだのが幸いであった。意外だろ?
それに、すき焼きだ!……あ、ちょっと涎垂れてる。
「うぁ~。クリス涎垂らして凄い笑顔だな?」
「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい、そんな事言うとすき焼き食べさせないわよ!」
「すき焼きって何だよ?」
「すき焼きよ! すき焼き! 全国民の憧れの食事よ!」
「アル君、アクイレイア王国では割とポピュラーな食事よ。確かに美味しいわよ」
アンが説明してくれた。あれ? そういえば帝国ですき焼き食べた事なかったな?
「う~ん。クリスが何でそんなの知ってるんだ?」
「私、一般家庭料理は一通りマスターしたからね」
ヤバい、ヤバい、私の家庭料理のレパートにはすき焼きのレシピはない。帝国にはすき焼きを食べる習慣がなかった。あぶねー。ここがアクイレイア王国で良かった。帝国だったら、私、凄い不思議ちゃんに思われたかも。
そうこうして私は24人分のすき焼きの下ごしらえを終えた。魔法の収納袋に入れた醤油や砂糖、酒、みりんが役に立った。最も、今日一日で無くなるとは思わなかったけど。
宴会が始まる。常時何人かは周囲の哨戒に出るが、何故か私達はその任から外れた。本来、こういう時の為の冒険者なので、不思議だったが、それ以上に困ったのが、中隊長からの破格の待遇だ。なんと私の席は中隊長の隣なのだ。しかも、大勢の前、私は彼をこう呼ばなければならないのだ。
「ほら、馬鹿犬! グラスが空いているわよ!」
ほろ酔いの中隊長の横でお酌をする私。私、コンパニオンじゃないんですけど? それにこんなに大勢の前でこんな扱いしていいのだろうか? 一応この人、騎士団の中隊長よね?
「ありがとう。罵倒されながら飲む酒は最高だ」
わ~と遠い目になる。本物のおかしい人だ。
「あ、あの? 本当にいいですか? 皆さんの前ですよ?」
「大丈夫ですよ!?」
いつか哨戒で一緒した若い騎士だ。
「中隊長の変態はみんな知ってますから!?」
公認なんかい!
それにしても、私、中隊長の女という扱いじゃないよね? そんな事を了承した覚えはないわよ。何よ、アル、そんな目で見ないでよ。私だって嫌なんだからね! アン、何よそのニマニマは!......そうだ! 巻き込んでやる!
ちょうど、副隊長兼、第一小隊長さんが哨戒任務で席を外した時、
「アンも中隊長さんの隣に来なさいよ~!」
と言って、ぐいぐい引っ張って来てやった。
「ちょっ、待っ……離して! クリスさん、何仕返ししてるの!? ちょっ、本当に……やめてぇっ!!」
「(うひゃははははははははははっ!! もう逃げられねいわよぉっ、アンっ!!)」
「(いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 離してぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 離せぇぇぇぇぇぇぇよっお!!)」
私とアンの間にそんなやり取りがある事はアルにしかわからない。だが、
あはははははっ! 逃がすわけないだろう! アンに殺意に満ちた目を向けられるが、殺意ってこんなに気持ちいい事だったなんて……知らなかった♡。アンが嫌がる顔を見るだけで、ご飯のお代り何杯もいけそうです。一人だけ被害無しなんて許されないのよ。
しかし、ごくり、今日は好き焼きだけで無く、お酒が飲めるのです。え? お前16歳だろって? この世界では16歳で成人なんです。えへへへへ。
目の前の銀色のシュワシュワに目を移す。綺麗な飲み物だな~。かなり前から憧れていた大人の証。前世で何度か呑んだけど、美味しい。あれがまた、飲める。
私は目の前の銀色の飲み物を少し飲んだ。
「やっぱり美味しい。酸味と少し苦みもあるけど、このシュワシュワ感がたまんない」
「ほー、いける口だな?」
中隊長だ。ちろりと中隊長を見る。!?
やばい、既に出来上がっている。早すぎない?
「どれ、俺が注いでやる」
「あ、いや、大丈夫!?」
「俺の酒が飲めねぇのか?」
出たよ。今時おるんか? こんな奴? 私は助けを求めてアンを見た。アンは普段見た事もない悪人顔で私を見ていた。
「(が・ん・ば・っ・て・ね)」
「――――――~~~~ッ!!!!」
悔しい。今度はアンにしてやられた。アンは余裕の表情でお酒を飲んでいる。これは飲みなれている大人の女の貫禄? アンは私より一つ上のお姉さんなのだ。
「(あぁ……飼い犬に手を噛まれた……)」
「(な、何て事言うんですか?……)」
悔しい。なんだかんだ言って。私は徐々に酔わされている。アンは平気な様だ。中隊長からお酌されても、普通にお礼を言ってる。でも、私への悪意が半端ない。明らかにウキウキしている表情とキラキラした目で分かるよ。いつからそんな腹黒になった! アン!
「(いつか痛い目に合ってくれないかなー、こいつ)」
「(なんですって!?)」
目を見ただけで分かり合えるの怖い。めぐり逢い空怖い!
「クリス? 大丈夫か? 顔が赤いぞ?」
「アル~。らいりょーぶよ~」
アルが心配そうに聞いてきたので、私はしっかりした声で格好良くそう言った。ああ、大人っぽい私もいいでしょ? 私は前世でかなりの酒豪だったのだ。
「クリス、飲み過ぎじゃないか?」
「らいりょうぶ、らいりょうぶ~」
アルが尚も私の事を気にかける。何よ、アルは弟的な存在の癖に、やだわ、お兄さんぶりたいのかしら? 私はすき焼きのお皿を手に取ると、一口お肉を口に運んだ。
「う~、うみゃい!?」
500年ぶりのすき焼き肉はとてつも無く美味しかった。ちなみにつけ卵は小隊長さん達が鳥の魔物バイブ・カハの卵を頂いてきた。あれは魔法は全然関係ないから、弱い魔物扱いらしい。
「クリス、頼むよ? 酔いつぶれたら、抱きかかえて運ぶの重そうだ......」
失礼ね! 私は結構体重軽いわよ。どれだけダイエットしてたと思うのよ! 最も、最近全然気にしないでご飯食べてるけどね!
そうこうしている内にアルとアンにもだいぶアルコールが回ってきた様だ。何よ、アルとアンだって、全然ダメじゃん。ぎゃははははははははは! 勝った! そんな事を想っていると、意識が段々遠のいてきた。最後に記憶があるのは、中隊長の言葉だった。
「それで、どうしてクリス様はそんなにこの森の事に詳しいんだ?」
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