エドヴァルドの報告
エドヴァルドはケルンの街のアウクスブルク帝国の施設を訪れていた。彼はクリスを監視し、定期的に皇太子カール・フィリップ、剣聖ガブリエル・フォルクング、賢者アドロフ・エリクに報告を行っていた。ベルンの街と帝都まではこの施設にある、ゲートと呼ばれる魔道具を使う。一瞬でベルンと帝都を行き来できる。この魔道具のおかげで、彼は頻繫に報告ができていたのだ。今日もクリスの無害を、愛らしさを伝えに行く???
「それで、あの女は飛翔の魔法を使ったのか?」
「はい、それはまるで女神様の様に美しくありました」
エドヴァルドは淀みなく報告するが、皆、顔を見合わせる。それはそうだろう。エドヴァルドは監視役で、悪女クリスティーナに悪意を見出せば、直ちに斬り殺す様命令されていたのだ。だが、彼の口から出て来る言葉はクリスティーナを絶賛するものばかりだった。
だが、エドヴァルドが言う様にクリスティーナの戦う姿は美しかった。エドヴァルドは例によって、魔法写真で、隠し撮りをしていた。そこに写るクリスティーナはほのかに輝く魔法の光に包まれ、白い三葉の翼を背に飛んでいた。女神様の様にという形容は間違ったものではない、ただ、この場で発言すべきではなかったが......
「次に、アル殿に取って頂いた依頼、クリスティーナ穣とアン・ソフィ穣の海辺でのファッションショーでの出来事のご報告です。二人ともビキニが映えました!」
何言っているんだこいつ? という空気になった。既に彼は自身の任務を忘れているのではないか? 彼は、またしても、盗撮写真を出してきた。しかし、皆、その写真に釘付けになる。ごくりと誰かが唾を飲み込む。
「それにしてもでかい胸だな......」
「あの子がこんなにプロポーションが良かったとは.....」
「お前ら!」
皇太子カール・フィリップは相変わらず不機嫌だが、剣聖ガブリエルも賢者アドロフもクリスの抜群のプロポーションに釘付けの様だ。特にガブリエルはクリスの推定Fカップの胸がいたく気に入った様だ。アドロフはあの女、あの悪女というお決まりのセリフからあの子に表現が変わってきている。エドヴァルドは良しと思った。しかし、肝心の皇太子カールは、
「なんだ、この女は! 痛いな! この様な破廉恥な恰好で、決めポーズか?」
「うまく乗せて、決めポーズをして頂きました。私のお気に入りの一枚です」
「(お前、任務忘れてるよな?)」
「(お前、何してるの? マジで?)」
ガブリエルとアドロフは心の中で突っ込む。そんな時、不意に、魔道写真の一枚がエドヴァルドが意図せず、するりと出て来てしまった。それはクリスとエドヴァルドのツーショット写真だった。エドヴァルドがクリスに頼んで、海辺で撮影したものだ。珍しく合法な魔法写真であった。
そこには満面の笑みのクリスとエドヴァルドが写っていた。クリスはエドヴァルドの腕に手を絡ましていた。二人の距離はとても近かった。
「ず、ズルい......」
「羨ましい......」
二人共、心の声がだだ洩れだった。
沈黙が訪れた。皇太子の機嫌が一機に悪く上がったのを察っしたからだ。エドヴァルドは空気を読んで、次の写真を出した。なんの関係もない、アン・ソフィのビキニの写真だった。ビキニで決めポーズの彼女もクリスと同様、エドヴァルドの巧みな言葉に乗せられて、痛い決めポーズを決めさせられていた。
「おお! この子いいな?」
「ああ、あの子とは違う魅力がある」
既にグラビアを見ている男子高校生の感覚である。彼らは剣聖、賢者と言っても未だ18歳で、魔法学園の生徒だ。ビキニの女の子の写真に興味がない訳が無い。ましてや、スタイル抜群のクリスに、愛らしい容貌のアンのビキニの写真なのだ。無理もないだろう。
「あっ!」
また、エドヴァルドが意図せず一枚の写真が出てきた。今度はエドヴァルドとアンのツーショット写真だ。
「「......」」
「いや、これはその…」
「いいなぁ……」
「二人共とだなんて、浮気だ……」
既に皇太子は寛仁袋が切れたらしい。
「私はもういい!」
そして皇太子はその場を辞した。
「チャンスだ! エドヴァルド! もっと写真あるのか? 見せろよ」
「私はクリスの写真がもっと見たい! あの胸、国宝級だ!」
いや、二人も完全に任務を忘れ始めた……
「二人の写真はたくさんありますよ。それにファッションショーはビキニのものでしたから、二人のきわどいやつがたっぷり、それに他のモデルの写真も!」
「全部見せろ!」
「早く!」
既に、三人は仲間になっていた。それにしてもエドヴァルドは女性専門の写真家になれる才能があった。彼の撮影する女性の表情は皆素晴らしい。正しく天才だった。
既にクリスとは関係ないアンだけではなく、更にもっと、全く、全然関係ない、エドヴァルドですらどこの誰だか知らないモデルのビキニの写真を見て、皆ニヤける。そこに、魔法学園生徒を代表する優等生では無く、ただのエロガキ達がいた。
「私はクリス派だな」
「僕はアン派だな」
既に初心を忘れ、二人のファンになった模様……
そして、エドヴァルドはクリスやアンの人柄や発言を伝えて言った。
「クリスはこの顔でそんなに悪辣な事を言うのか、やはり悪役令嬢だな」
「ああ、そんな簡単に変わるものではないのか……」
「いえ、そこがクリスの魅力なんです」
顔をグイっと突き出して、エドヴァルドが言い出す。
「毒舌ですが、そこが可愛いのです。それに結構馬鹿ですよ。そこも可愛い!」
「そういうものか?」
「いや、僕はアン派だから、やはりアンが愛らしい」
「いや、アンは万人受けの癒し系美人で、クリスは本音満載の毒舌塩対応系なのです。二人共キャラはたっています。帝都のアイドル集団に入ればセンター候補は間違いないかと」
「確かに、この美貌と笑顔で毒舌吐かれてもあまり悪い気はしないな」
「僕はクリスでは無く、アン派だ。やはりこの笑顔は癒される。愛らしい」
二人は既にクリスをあの女、悪女からクリスと普通に呼び始めた。そして、ガブリエルはクリス派、アドロフはアン派を自称し始めた。既に何の会合だかわからなくなってきた。アドロフに至っては関係ないアンの事しか考えていない。
こうして三人はしばしクリスとアンの事をまるでアイドルを語る男子高校生の様なお宅の語らいを始めるが、その至福の時間を破る者が現れた。
「お前達、彼女の顔を見ても、まだ、そんな世迷事を言えるのか?」
至福の時間を破ったのは皇太子カールだった。そして、彼は婚約者のベアトリス穣を連れだっていた。
「ベアトリス穣?」
「ベアトリス様?」
「お前達二人は彼女から受けた恩を忘れたのか?」
「「いえ、忘れた事など」」
「ガブリエル様、アドロフ様、その……私の目を見てください」
何かキーンという音が聞こえた様な気がする。エドヴァルドはそう思った。しかし、
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
二人は叫ぶと突然、壁に額を打ち付け始めた。
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンと、リズミカルにまるでメタルのヘッドバンキングみたいだった。
「俺はクリス派だぁああああああああああああああ!」
「私はアン派だぁあああああああああああああああ!」
二人は何かから真の心を取り戻した模様。なお、アドロフは既に関係ない人の事で真の心を取り戻した模様。
「(なんなんだ?)」
エドヴァルドは何か違和感を覚えた。もちろん、二人が馬鹿である事は既に理解していた。しかし、これは一体?
それは、ある力からエロが勝った瞬間だった。
「ちっ!? 全く! ベアトリス、エドヴァルドだけでも」
「しかし……」
「構わん、私の言いつけが聞けないのか?」
「い、いえ、その様な事は……」
「では、やれ」
俺の恩人ベアトリス穣、しかし、今のは……
「エドヴァルド様、こちらを見て下さい」
「はい、ベアトリス様」
恩人のベアトリス様に逆らう訳にもいかず、ベアトリス様を見る。
キーンという耳鳴りが聞こえた様に想う。そして、心にベアトリス様への愛が満ちる。だが、何故かクリスへの憎悪と殺意が激しく沸いた。
「エドヴァルド、お前には判るだろう? 何をすべきなのか?」
「はい、良くわかっております」
俺には何をすべきか良く分かった。激しいクリスへの憎悪、殺意、そしてどうすればいいのかを。
俺は迷わず、近くの壁に額を打ち付け始めた。何度も何度も、二人のものよりかなり激しいやつをだ。
しばらくすると、クリスへの憎悪も殺意も冷めた。ふと血まみれの目を開けて見ると、目の前に友がいた。ガブリエルとアドロフだ。二人共血まみれだった。
「「(俺達、クリス派だもんな!!)」」
「(いやアドロフはアン派だろう?)」
こうして、エドヴァルドは本格的にクリスの一味になった。だが、追跡者の任からは解かれなかった。ガブリエルとアドロフが納得しなかったからだ。
こいつら何やってるんだろう?
ここまで読んで頂いて、面白いと思って頂きましたら評価頂けますと嬉しいです!
作品のページの下の方の☆の評価をお願いいたします。ぺこり (__)




