好きなんですか?
「フッ! ハッ! たあぁっ!」
キングシティ郊外にあるマティアスの自宅。
己の鍛練のために少し広く作られた庭で、アンナはマティアスの稽古を受けていた。
「そこまで! ……うん、いい動きじゃないか。いきなりこのメニューについてこられるとはね」
「フフッ、このくらいならドンと来いですよ!」
マティアスは厳しめのメニューをアンナに課したつもりだったが、アンナはまだまだ余裕と言わんばかりに大袈裟に体を動かして見せている。
「……そうだな、1ヶ月は基礎練に専念させるつもりだったんだが……そんなに余裕なら、予定を大幅に前倒ししてもいいかもな」
アンナの想像以上のセンスを見たマティアスは自ら剣を構えると、それをアンナに向かって突きつけた。
「……あのー? マティアスさん、その剣は?」
「アンナ、今からは実戦形式での特訓だ。君は筋がいいからな、早い内からどんどん実戦で経験を積むべきだ」
「……実戦? マティアスと私が?」
「ああ。勿論俺は本気でやるから、君も本気できてくれよ」
「……分かりました。私の本気、マティアスさんにぶつけます!」
「こ、こんにちは、マティアスさん。……えっと、アンナに差し入れ持ってきたんですけど……」
「ああ、ミーナちゃんか。アンナなら……ホラ、あそこだよ」
「……あれは……」
ミーナの目に映ったのは、クタクタになって大の字で倒れているアンナの姿だった。
「……あのー、いったい何が……」
「ただの稽古だよ? 差し入れがあるんなら、渡してあげれば元気になるかもね」
「……えーっと、アンナ? お昼ご飯にサンドイッチ作ってきたんだけど……」
「ご飯!? 食べる食べる!」
ご飯という言葉を聞いた途端、ぐったり寝ていたアンナは飛び上がってご飯に手をつけはじめた。
そのあまりの復活の早さにミーナは若干呆れながらも、アンナの頬についた食べカスを見て笑うのだった。
「……それで、どうなの?」
昼食の最中のミーナの問いかけに、アンナは急いで口の中のものを飲み込んでから答えた。
「うん、順調だよ。マティアスさんからも褒められちゃって、このままならカレンさんみたいな最強冒険者になる日もちか……」
「いや、修行のことじゃなくて……この前話したじゃん、本当にマティアスさんもカレンさんのことが好きなのか調べようってさ」
「……ああ、そっちか。稽古に夢中になってて忘れちゃったよ」
「もう、しっかりしてよ。カレンさんの力になるためにも、これは調べておかなくちゃいけないことだと思うよ?」
「……そうだよね。カレンさんに幸せになってもらうためにも、マティアスさんとくっついてもらわないと……よし、それじゃあ早速聞きにいこうか!」
「いや、もしかして直接聞くつもり!?」
「それ以外に何があるのさ?」
「いや、もっと遠回しに聞くとか、そう答えるよう誘導するとか……」
「うーん……じゃあ、具体的にはどう聞くの?」
「え? そ、それは……」
「ないなら却下だね。そんな面倒臭いこと、考えてる時間が勿体ない。早く2人をくっつけるためには、私達も早く行動しなくちゃ」
難しいこと、細かいことは考えずに、単純明快な思考で動く。
そんなアンナらしい理論を堂々と展開されると、ミーナはもうそれ以上何も言えなくなった。
「……と、いうわけで! 早速聞いてきます!」
「ハァ……アンナの話聞いてると、ごちゃごちゃ考えるのがバカらしく思えてくるなぁ、ホント……」
ミーナが半分諦めたような顔を見せているなか、アンナはマティアスの側までやってくると早速質問をするのであった。
「マティアスさん! ちょっといいですか!?」
「……ん? なんだ、もう稽古再開か?」
「……いえ、そっちじゃなくて……カレンさんのことですよ」
「……なんでカレンが出てくるんだ?」
「……ズバリ、マティアスさんは……カレンさんのこと、どう思ってるんですか?」
それまでテンション高めの気が抜けたツラをしていたアンナが、この質問の時だけは真剣な顔でマティアスを見つめた。
誤魔化し、はぐらかしはいらないから、ちゃんと真面目に答えて下さい。
その顔だけで、アンナはマティアスに自分の意志と質問の意味を伝えるのであった。
「………………うん。好きだよ」
もっとも、マティアスははじめから誤魔化す気もはぐらかす気もなかったらしいが。




