第10話:最後のウエディングドレス。
とても緊張した顔をしている桜子。
今日は桜子にとって、晴れの舞台だからだ。
緊張をほぐすため、桜子は何度も深呼吸をした。
ドアのノックする音が聞こえた。
どうぞと桜子がいうと、克二がはいってきた。
「やあ、克二くん……」
「ずいぶん緊張してますねサクラさん」
「そ、そうかな。だいじょうぶだよ克二くん」
桜子はそういったが、桜子の手は小きざみにふるえていた。
克二は、桜子のふるえる手を、そっとにぎった。
「よほど緊張してたのですね。でも、もう大丈夫だよね」
「ありがとう克二くん」
手をにぎられ、やさしい言葉をかけられてほおを赤らめる桜子。
桜子の態度に、克二は少し笑みを浮かべた。
「ほんと、サクラさんはかわいいですね」
「なにをいってるの克二くん。ぼくは克二くんよりも……」
「年上といいたいのでしょう。でもサクラさんを最初見たとき、おれより年下だと思っていたし、おれより年が上とは思いません。逆にまもってあげたいくらいです」
克二は桜子にいった。
桜子も、克二より年が上だけど、別荘から帰ってきてから、克二に甘えてしまう桜子だった。
「克二くん、高校卒業したね」
「そのとき、大変な騒ぎでしたね」
克二はいままでのことを思いだしていた。
克二の家である安岡家はむかしから有名な家筋であった。
その家から男同士が結婚とはありえない。
家族、親せき一同から猛反対された。
あきらめかけたふたりであったが、この結婚に賛成するひとがひとりいた。
克二の父親のおじさんだった。
おじさんは中東のとある国で石油を掘りおこした、安岡家の柱をささえるひとりだ。
そのおじさんがふたりの結婚に賛成したのである。
なぜなのか、とたずねる親せきたちだったが、おじさんがいうには、新しいことも必要だといった。
「今のままの安岡家は滅んでしまう。そこで新しい風をふいて、こり固まった安岡家を生きかえすのだ」
ほとんどの親せきは、おじさんのおかげで生活ができるので反対の意見が出なかった。
克二の父親も、しぶしぶながらもふたりの結婚をゆるした。
ただし条件として、桜子を花嫁修業だといって、この家に住むことになった。
父親の本当の理由は桜子にいやがらせをして、桜子を逃げだすことだった。
しかし、父親の計画は失敗におわった。
桜子は、家事や洗たくなどをできたからであった。
それに、桜子の健気な性格が、安岡家ではたらくほかの家政婦たちからも信頼されるようになり、逆になかよくなり、桜子と克二を結婚させようと協力的になった。
克二が高校から卒業すると結婚式の準備が、着々と進められた。
そして今日、結婚式を挙げるのであった。
「長かったですねサクラさん」
「それは、たくさんの人がぼくたちに協力してくれたから」
「でも惜しいなぁ。もうサクラさんのウェディングドレスを今日が最後だから」
少しくやしそうにいう克二だった。
またドアのノックの音がした。
入ってきたのは安岡家の家政婦の人たちだった。
最後の仕上げがあるからといって、家政婦は克二を部屋から追い出した。
部屋から強制的に出された克二。
そこに克二の父親がやってきた。
ふたりは無言だったが、最初に口をひらいた父親だった。
「悪かったな、結婚を反対して。私は世間体を気にしてたんだ。でも桜子くんはいいひとだ。別れるんじゃないぞ。わかったな」
「はい。お父さんわかりました」
「おまえも着替える時間じゃないか。私は桜子くんのご両親にあいさつにいってくるから」
父親はそういって克二のもとからはなれた。
克二も結婚式に着る服の準備にとりかかった。
克二の服は白いタキシードで、男らしく立派で、後できいたら父親がこのために作ってくれたそうだ。
「あとすこしで式がはじまるな」
部屋を後にした克二。
自分もいまごろになって緊張してきた。
「花よめさんの用意ができました」
克二は振り向いた。そこには桜子が立っていた。
克二がいままで見てきた桜子とは信じられないくらいに、桜子は輝いていた。
「家政婦さんたちが気合いをいれてしてくれたんだ」
「ああ……」
「あれ、克二くんどうしたの。克二くんも緊張してきたんだね」
緊張して無言になる克二の手をそっとにぎった桜子だった。
「さあ、いきましょう」
桜子と克二は結婚式を挙げにむかった。
ひとの出会いはいろいろあります。
男と女。
男と男。
女と女。
でもふたりにはそんなことは関係ありません。
彼らは人間なんだから。
《完》
完結しました。はじめてのボーイズラブでした。感想や批評があればよろしくします。