おまけ 聖剣キタコレ
ついでにオマケ。これは本編に関係あります。でも、余談なんです。
「聖剣キタコレ!絶対ぼくが選ばれるに決まってるだってぼくが最強なんだからチートないからこれはぼくの為にあるイベントのフラグなんだよっしゃああコレで最弱から解放されるんだぼくTUEEEできるじゃないかいやったああああああ!」
捕らぬ狸の皮算用。この言葉がぴったり当てはまる状態のユウタは、勝手に聖剣保持者になる気になっている。
この反応の理由は定番通り、選ばれたものしか抜けない剣の話を聞いたユウタが、観光として聖剣の試練にチャレンジする、という話になった為だ。
俺の使っているサーベルはあっさり折られ、彼に渡していたエストックも、おかしなレベルでの破壊を受けた為、新しい武器を手に入れようと提案した結果、エリナさんが近くに聖剣を祀っている遺跡があると話したことが原因だ。
「で、聖剣って何なのさ?俺は大精霊が居るから必要ないけど、それがあるとどう違うのかは知っておきたいし」
「え?ヴァン知らなかったのかよバーカバーカ最強になる剣に決まってるだろそれ以外何があるそんなことも分からないのかよありえないだブォ……」
流石に五月蠅いので、点火して顔に氷を張りつけた。大丈夫、鼻の穴は開いてる。窒息死は無い。
――ついでだからオーク顔にしとくねぇ――
うちの大精霊は誰かの影響で随分悪戯好きになったらしい。やれやれ、迷惑な奴だ。一体誰だ?
「聖剣って言っても色々あってねー、どれにも共通していることを言うと、あるドワーフが造った、特殊な力を持っている武器なんだよねー。
ただー、剣っていう割に、槍だったりー、弓だったり、ハンマーだったり。種類もいろいろなんだけど」
槍は譲歩しよう。青龍刀、正しくは青龍エンゲツ刀とかがあるんだし。漢字忘れた。
でも弓は、剣じゃ無かろう。杖術の武器の一種として使う事はあるってのは知ってるけど、弦が斬られた時の咄嗟の武器としてくらいだし。
ハンマーは完全に違う。譲歩してピックとかだろう?尖った部分を突き刺す、ツルハシの柄が長くなって金属部分が短くなったような、そんな奴。カギって言えばいいのか?
「それをユウタが持てるとは思えないんだけどさ、行ってどうするの?観光にはいいけど」
「実際さぁ、あの剣があそこに居付いて千年くらい、誰も引き抜いてないらしいよぉ?それだったらヴァンくんもチャレンジしてもいいんじゃない?」
「話としては、ユウタの武器をどうするのかって所だったはずだけど。
俺はほら、その気になればモード解体でも戦える。チャクラムとかハンマーを氷で作ってあるわけだし。火葬するのにも秒殺で骨にできるんだしさ」
最近では、襲ってきたゴブリンの焼け焦げた姿すら拝まなくなってきた。インフェルノの温度がおかしい範囲にあるからだけど、一瞬で蒸発する。
あれ、どうやら爆発した瞬間、一定範囲を高温にするまで爆風や突風は起きないらしい。半径10mくらいが数千度になった後、爆風ができるみたいだ。核爆弾の光を受けて、蒸発した人が居るとかみたいな話だ……ユウタがチートって言いたいのも解る気がする。
自分が核兵器になりたい人間は、まずいない。居たとして、おかしな志を持っている人だったりしそうだ。そうでなきゃこんな批判の的、誰が望むか。
言い換えれば、これが最強への道のりでもあるのかもしれないけど、俺は要らない。手に入れてしまったけど、少なくとも、狩りするだけなら絶対要らない。
それはつまり、これ以上の力は望んでいない、という事だ。
「そうだけどぉ、どうせならチャレンジしてみてもいいんじゃなぁい?どうせチャレンジ料は1ジルなんだから」
「プァ!ええ!お金とるの?なんでだよおおお!ありえねえええ!」
何とか氷の戒めを外したユウタがまた叫び始めた。うん、やっぱりウザい。今度はさっきのマスク付きで氷像にしようか。
――えー、芸術的な筋肉像にオーク顔?それは要らないかなぁ――
いや、他にもたくさん作ってたでしょ。変な動物とか。あれがいいよ、魚のヤツ。マーライオンならぬ、マーユウタ……マーオークか?
「アンタのお金は、アタシ達が立て替えておくからさぁ、とりあえず物は試しでやって見なさいよぉ」
ユウタには少々辛辣な顔を向けるエリナさんは、本当に渋々といった感じで貸してあげると宣う。ヤサシイネ。
「それって後で返せって事?えええええ!なんなんだよそれえええ!」
「「「ウルサイ」」」
最近こんな感じがずっと続いている。我儘言う度、誰かに白い目向けられていること、こいつずっと気づかないんだよな。よくこんな状態でイジメられて無いなんて言えるもんだ。
ともあれ、その町に行く為に、草原の街道を進んでいる馬車の進路を変える。手綱を使うのは慣れたけど、そんなものより馬の気持ちを理解してあげる方が、難しい気がする。
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馬車を走らせて到着した、予定にない寄り道の町。
木造の住宅が多い、普通の町だ。名物、聖剣。以上。
実際、この街にとっての大きな収入源となっているのが、聖剣目当ての騎士や冒険者、夢見る子供であり、1回の挑戦料はそこそこの値段でもある為に毎日行列ができるそうだ。
そこそこと言いながら、充分稼げる金額だと思うけど。仕入金額0で、1回の挑戦料2千円くらいで行列ができるなら、相当な金額を毎日稼ぐことになるのも頷ける。
「町ではあるけど、結構しっかりした発展具合だよね。こんな場所に聖剣があるのか。分かるには分かるけど……」
一応、陽炎をかけておこう。幻覚で見た目が獣人じゃ無ければ、うるさく言われないだろうし。
「はあ?!これじゃどう見てもド田舎じゃないか!明らかに郊外のくすんだ雰囲気だろ!」
ユウタはまだ、地球の感覚を引きずっているらしい。感覚的には、住宅街なんだが。
「お前な、本気のド田舎ってアリスの村みたいな、すぐそばに森だの無駄に広い草原だのばかりで、下手したらお隣さん宅まで行くのに車で数10分とか、そんな場所に使うべき言葉だぞ?
その考えは、日本でも不愉快にさせる人間がごまんと出てくる、他人を見下した言葉だ」
「え?ぼくそんな事言ってないだろ?」
「言ってたんだよ。気づいていないというより、世界が狭いから理解がないんだ」
結構多い、こういう世界が狭すぎて理解できていないニンゲン。バカ、いやサルだろう。それ以上の言い方は、絶対認めない。俺の生まれは、前世も今世も山奥なんだから。お隣に住んでる生き物、シカやサルだ。ヒトじゃない。
「それより、話の遺跡、あそこでいいんだよね?」
向かっている先に、岩を積み上げて作った門と、人だかりができている。その周りは植林した林だろう。しっかり手入れされている。
「あぁ、そうねぇ。リサがチャレンジしたの、懐かしいねぇ。あの時もリサのバカ力で、びくともしなかったし」
「ちょっとー、そういう言い方しないでよね。仕方ないじゃない……」
珍しくリサさんを弄ってる。あまり見ないな、この光景。遺跡の入り口近くに馬車を止めて、全員で降りて移動する。
「でもぉ、絶対引き抜くって言って、ずーぅっと頑張ってたじゃなぁい。日が暮れそうになるまでさぁ」
リサさんって物に対する執着はあまりない。
けど、既に馬鹿でかい剣を持っている。あれは両刃だけど、形状的には片刃、背の部分は解体用の刃だという、かなり特殊な形状のモノ。
ドラゴンバスターとかドラゴンキラーとか呼んでいたか。竜の首、ぶった切るんだからそりゃそうか。
思い入れも深そうで、よく手入れしている。あれがあるのに、なぜ欲しかったのだろうか?
「だってー、あれ手に入れたら少しはさー……」
そのままごにょごにょ言ってるけど、そこはいいとしよう。分からない訳じゃ無いけど、見栄を張ってもしょうがないしね。
「いいからさ、早くぼくらも並ぼうよ!早く最強になりたいんだよ!」
今ふと、こいつは最強にはなれないと思ったのは気のせいか。銀貨を1枚貰って、走って行く彼は浮かれているが、肩透かしになる光景しか浮かばない。
――気のせいじゃないでしょ――
ですよね?
どうせならもっと面白いキャラの奴が最強の力を手に入れて、ドタバタしてくれた方がいいけど、こいつはウザいだけ。聖剣も呆れて遠ざかりそうだ。
――その前に、千年動いていないヤツでしょ?絶対怠け者だから相手にしない方がいいんじゃない?――
そこはちょっと盲点だった。
聖剣が喋る作品もあるし、その場合は心や思考がある。それなら、寧ろ岩の上がそいつにとって居心地がいいだろうから、相手にせずに放置しておいた方が優しさか。
考えながら、列に並ぼうとしているユウタを眺めていたのだけど、いつの間にか後ろに人だかりができ、押されて俺まで並ばされていた。考え事もほどほどにしないとか。
「あの、すいません。俺並んでるんじゃないんです。出ます、出ますから!」
なぜか俺の意思を無視して、後ろの奴らは我先にと進んで、押してくる。ちょっと殺気立ちすぎじゃないか?人の話聞け、お前ら。
「師匠!助けてええ!」
「ヴァンくん頑張ってぇ!」
ちらと見えたエリナさんにヘルプ要請したのに、全然話通じてない。いつもなら抱きついてきたりするのに、こういう時に放すのはなぜだ?
――聖剣は動かないんだろうし、気にしなくていいんじゃない?――
町の収入になるのは間違いないだろうけど、俺はチャレンジすらしたくないんだけどな。
なんだかんだでユウタの数人後ろについてしまった俺は、結局チャレンジする事になるようだ。
人だかりの中でも、奥の方に何か祭壇のようなものが見える。多分、あそこにあるんだろうけど、それっぽいのが全く見当たらない。
地面に向かってヒトが何かごそごそしている。普通にあるイメージだったら、台座に剣が突き刺さって柄が天へ向いてるモノだろう?
――そのイメージどこから来たの?――
キングアーサーだろう。父親の墓から引き抜いた剣だと思った。つまり、本来なら遺品だった訳だし、真っ当に考えれば、錆びついた鉄の塊じゃないかと思うけど。
一応、制限時間のようなものがあるらしく、定位置についた者がごそごそしては肩を叩かれ、すごすごと引き下がり、次の者が呼ばれている。呼ばれた時に金を渡す仕組みらしい。
「うおおお!次ぼく次ぼく次ぼくやるぞおおおお!」
意味なく騒いでるユウタの前のオッサンが、剣を持ち上げようとしている。
ようやく見えてきたそれは、硬い大理石の床に寝そべった、曲刀。シャムシール、って感じかな?
大理石の中にめり込んでいる……なんか、カッコつかないな。それにその大理石がそんなに気持ちいいなら、俺は早めに諦めさせてもらうとしよう。
サーベルとは違うし。一応、サーベルにも斬る専用のものがあるけど……ユウタのヤツ、曲刀は嫌なんじゃなかったか?
――大理石ってそんな寝心地いいかな?――
そこは剣基準だろ?仮に、意志を持ってそこら中飛び回れるなら、ずっとこんな場所に居ないだろうしな。
あちこち飛び回って気に入らない奴斬ったり、なんだかんだやるはずだろ。飛び回れなかったら、ムリだろうけど。
ユウタの前のオッサン、肩叩かれたけど振り払って、無理に続けて拘束された。お疲れ様です。
「よっしゃああーー!これでぼくが伝説になるんだあ!おっらあ……おんもおぉぉぉぉ」
変な顔をして顔を真っ赤にしている。何だろう、「見ざる聞かざる言わざる」の顔ってこんなだった気がする。そんな変顔できるなら、最初っからやればいいのに。
――どこに需要あるの?――
無くてもヒトに嫌な顔をさせるより、笑わせるように動いた方が得をするものだよ?
理由は簡単だ。笑いはどんな時にも必要だから。戦場でも大道芸人とかいるかどうかで士気が変わる。
つまり、笑いが最強なんだ。
なんだかんだで、あいつも結局ダメだったらしい。うん、知ってた。あと4人か?
こいつらが終わったらむしろ素通りする感じでいいよね?俺、魔術剣士だけど、魔術寄りだし、剣作れるし。大精霊って特典だけで充分得してるし。
――あたしはモノじゃないでしょぉ――
それは失礼しました。さあ、俺の前の巨人っぽい人がチャレンジを始めた。金払って剣に手をのば……
――ハァン。大精霊連れた神の一族?こいつぁ久しぶりに面白え奴じゃねぇか。よし決めた。お前について行くワ。よろしく――
前の人が伸ばした手をすり抜けて、シャムシールが勝手に浮いて俺の前に移動してきた。それも言葉が俺の頭に響き渡っている。
いや、慣れてるけどさ。ねえ、精霊さん。これってデジャブですかね?
――ああ、うん。どうだろうね――
――なんでぇ、連れねえな。仲良くしようゼェ、仲間なんだからさ――
仲間、っていう事は……聖剣って、精霊が宿った剣……って事か?ドワーフ何作ってるんだよ?それだったら間に合っていますので、前に控えているマッチョさんにどうぞ。
――そう言うなって。お前についてったら面白そうだからさ、良いだろ?――
暇つぶしに使わないでください。間に合ってますので。
ほら、順番無視して俺のとこ来たから、前のヒト、顔が真っ赤じゃないですか、やだ。こっち来て殴りかかりそうな雰囲気ですよ。
「おい、小僧。これはどういうことだ?俺の番だぞ!」
「うん、判らない。とりあえず、チャレンジはしてください。俺はその後でいいんで。
なんでこいつ空中に浮いてるのか、意味わからないけどね」
――おいおい、こんな貧弱な奴に俺を持てると思うか?――
貧弱って、目の前のオッサン、小さめの巨人族だぞ?2.3mのバッキバキの筋肉で、ポーズ取れば背中が鬼の形相になるぞ、これ。
そんなオッサンが曲刀を持って、
「おらあ、アギャアアアア!」
掴んだ手がそのまま地面に押し付けられて、ヒシャゲタ。骨何本か逝ったな、いい音した……いやいや、なんでそうなる?重量何キロだよ。地面、ちょっと割れてるよ。
――並の奴じゃ、んなもんだよ。オレァ精霊術師にしか、使えねえように作られてんだからよぉ――
何そのピンポイント。そういうピンポイントにしか使えない呪いがかかってるのか?呪いの装備は勘弁してくれ。
――呪いじゃないけどぉ、似たようなもんだねぇ――
俺には既に近くに面倒な性格の奴がいるんだから、増えなくていいんだよ?
ほら、係員もお金を俺から取っていいのかどうか迷ってるじゃないか。払ってから飛んでくるならまだしも、フライングはダメでしょ?
――知った事かよ、こっちの許可なく勝手に始めたんだからよぉ。付き合う意味あっか?――
「あの、これはいったいどういう?」
やっと係員の1人が声かけてきた。未だ巨人さんは指を潰されてる。うん、もうそろそろヤバいかもね。血が通っていないから青くなってきた。
仕方ない、指を切るしかなくなりそうだし、その前に救出するか?
「聖剣が俺の事気に入ったとか言ってさ、俺についてくるって言い始めちゃったんだよね。記念にちょっとやってみるくらいのつもりだったんだけど……」
拾い上げながら、係員に向けて苦笑い。それ以外、どうしろと?
――言うねぇ。あわよくばって思ってたんだろ?恥ずかしがんなや――
その前に俺はサーベル使うので。一応槍とか師匠に教わっているところだけど、基本魔術、サブにサーベルなので。純粋な曲刀はお断りなんです。
――んじゃ、そうしますか。注文あったら言ってくれ――
それだけ言って、刀身がうねってサーベル状になった。ほんの少し反りがある形だから、いつも練習で使っている奴によく似ている…………
……ヘンケイキノウバンザイ。
――こいつ、中位の地属性、金属性だわ。珍しいって言えば、珍しいんだけどねぇ――
それは……溶属性があるのに、必要なのか?そんなのあったのか、聞いた事ないけど?焔も自分の話以外基本聞かないから、同じか。でも、こいつは一体何の目的で俺についてくるんだ?精霊術師自体少ないのは分かるけど、俺である必要ないだろ?
――おめぇの行く末が知りてえ、そんだけだ。そろそろ名乗らせてもらっか。
オレァ金属の精霊にして聖剣、序列99位『欠番』だ。よろしく――
……聖剣の名前じゃねぇ。突っ込みどころ、結構あるな、お前。
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その後、聖剣が引き抜かれた事、引き抜く前に手に入れた事、陽炎で姿を変えていたけど、エリナさんが名前を呼びながら近づいたことで『銀狼』と気づかれた事、聖剣チャレンジで初の怪我人が出た事、町の唯一の名物が消えた事など……
いろいろな面倒な理由で、1週間ほどこの街に滞在することになった。全ての元凶の聖剣は、というと、あれ以降全く喋らない。まあ、どうせ俺にしか声が届かないんだが。
「なんでヴァンなんだよぉおおお!ありえねえええ!」
「そんなこといつまでも言ってないのぉ。やっぱりヴァンくんならやると思ってたんだけどねぇ。ユウタと比べちゃいけないでしょぉ」
俺としては寧ろ、ユウタの所に行くか、無視して欲しかったんだが。
「これでギルドの聖剣持ちは3人になった訳だねぇ。こんなに集めたのって、魔国北部のギルドの魔剣4本くらいだしねぇ」
「「魔剣もあるのかよ!」」
聖剣だの魔剣だのは、当面お目にかかりたくはない……うちのギルドにいるのか、聖剣持ちが後2人。
誰でもいいけど、できればその話はしたくないな。面倒事呼び込むこと請け合いだ。




