2話 キボウ?
前回:――そうだ、異世界へ行こう……そんな気無かった?またまたぁ、喜んでるくせにぃ――
『ヴァンチー、コープンラッパノマウクノンデイッサ?』
金髪の人がなんか言ってる。このヒト、師匠とか言ってたけど若作りしたような感じの人だな。……上着は胸だけ隠してヒラヒラで今にも捲れそうだし、主張の強いベルトを巻いたミニスカートだ。きわどい服だからどこ見たらいいのかわからないからつい顔を背けるんだけど、それでもちらちら見てしまう。
「この人なんて言ったんだよ、分からないんだけど」
「ご飯食べタイって言っただけダケド?」
そういえば、もう昼みたいだ。太陽が高く昇っている。
「え、じゃあ、この人が用意してくれるの?」
「え、イヤ。俺が用意するンダよ?弟子にナッテからそれがもう当たり前になってるし、エリナさん、金髪の人に任せるト、破壊神ダケに破壊的な料理しちゃうカラ。リサさんは問題ないんだケド、あの人も俺にやって欲しいって感じになってるシネ」
……弟子が用意するんだ。なんか小坊主みたいな状態なのかな?それってちゃんと教えてもらえてるのか?
馬車が止まって、中にいた人が外に出た。みんな食事にするのかもしれないけど、全員バラバラに、……ならないんだ。集まってる。
『点火――モードクック!』
なんかあいつ、1人だけ離れて料理し始めた。ボッチかよ。
独りで何を……何あれ氷のお玉と包丁と棍棒?と名前知らない挟む奴とフライ返しとボール何個かと泡だて器とヘラが何本か出てきて空中にふわふわ浮いて飛び回ってあいつが空間からいきなりでっかい鍋ふたつとでっかいフライパンをだして氷でまな板とテーブル作ってどっから出たのか知らないけど水の球また出して鍋に水入れてボールに空間から白い粉入れて卵入れて手が凍ってこね始めてこねてると思ったら空中に浮いた野菜とかキノコとか肉の塊とか切り始めてこねたやつが棒で勝手にのばされてきられて鍋に挟む奴で掴まれて放り込まれてその間にいつの間にかアイツ野菜とか炒め始めてるしその火に薪とかないしなんか意味が解らないまま
「ハイ、パンチェッタとキノコのタリアッテレ 生クリーム仕立てト、ジャイアントボアのポトフ、召し上がレ」
しれっとみんなに配り始めた。俺の手に渡したときだけ、日本語だし。
「……何したの?ありえないだろ」
「見てタダろ?料理シタの」
あれがこの世界の普通なのか?空を飛ぶ調理器具って、なんなんだ。意味が解らない。それに氷の調理器具って、有り得ないだろ。みんな普通に食べてるけど、あれは普通じゃない……よね?
「デ、お前に言わなければイケない事がアルのだが、静かに聞いてくれルカ」
横に座って、俺に話しかけてきた。何だろう、結局寂しいのか?
「街についタラお前を教会に預けることにナる。少なくともそれが普通の対処法だカラね」
「普通って、どういうことなんだよ」
教会行って、どうするんだよ。別に「勇者よ死んでしまうとは情けない」とか言われる訳じゃないだろ?行く必要ないじゃないか。
「教会っテ言っても、神を祀るとかジャない。社会に生きる人の『人生のオハヨウからオヤスミナサイ』までを面倒みる場所、とでも言オウカ。
ツマリ、生まれた人の登録や教育、就職ナンかを一手に引き受けている社会制度が、教会なんだソウダ。役所と学校と病院が合体した、と思えば早いカナ」
「ってそれ全然違うよね?!意味間違っていない?おかしいよ、ありえないだろ。それにどっかの会社のCMみたいになってない?」
「シカシそうなってるんだからどうしようもない。日本語に変換すれば教会になるんだが、こっちノ世界での教会はソウいう意味になってイルンだ。
人生を教える会合場所だから、教会なんだとさ。孤児院に併設スル形で、放浪者施設もあル。ソコには『お仲間』もいるって事ダ」
なんだよそれ、こうして会ったのは運命とかそういうのじゃないのかよ。それにぼくは死にかけていたんだぞ?それなのになんでこんなあっさりと手を離せるんだよ。それだったら助けた意味ってなんなんだよ。自己満足じゃないか。
「お前はそれでいいのかよう。折角助けたやつがどうなるか分からないんだぞお?」
「そのママ俺についてくるのカ?やめてオイタ方がいいゾ。俺は冒険者だ。つまり、魔物狩りの専門家。狩人とシテもやっているし、場合によってはバウンティハントだってアリうる。危険しかないんだけど?」
冒険者、いいじゃん。勇者がいないなら、仕方ないから冒険者でいいよ。バウンティとか意味わからないけど、こういう世界なら、ぼくは絶対最強になれるはず。だって、異世界から来た奴はチートが当たり前だから。こいつも転生してチート能力を手に入れたんだろうから、絶対ぼくもそうなれるはずじゃないか!
「いいよ、ぼくも最強の冒険者になってやるよ!お前なんかより絶対に最強なんだからな!」
「自分で言っテル意味、分かってナイだろ。それはまず、教会に行ってカラ言葉覚えた後にしてクレ。今の時点で戦力にナレるとは到底思わないカラサ。その後は好きにすればイい」
何を言ってるんだよ。絶対について行ってぼくが最強だって認めさせてやる。学校じゃ誰も認めなかったけど、僕は天才なんだから。
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デカい城壁が見えてきた。あれが、こいつらが暮らす街?
「西の都ノーザンハルス。あの街壁の内側へ入ってシマエば、敵から襲わレル心配はほぼナい。ただゴクまれにどこカカら湧いてくるやツモいるけどね」
「どこかからって、穴があるって事じゃないのか?そんなので安心できないだろ」
そんな場所でよく安心して暮らせるなんて思えるな。
「イヤ、ヒトが魔物化するんダヨ。人間でも生きたママ、魔物化シテ魔人にナることモあれば、グールにナルこともあルソウだ。ほとんどは出来損ナイのグールなんだケドな」
……何なんだそれ。生きたまま魔物化するって、それは気持ち悪いんだけど。そんなことあるのかよ。
「俺は一時期人狼ってイう、細菌感染型の魔物に間違ワレて狙ワレていたしナ。昼ハ普通の見タ目で、夜に菌糸が身体カラ出てきて狂暴になるヤツ。ソレで2度も死にかけたから参ったヨ」
それはどうでも……良くないな。感染して魔物になるのも嫌なんだけど。こいつそれ持ってないよな?保菌者とかじゃないよな?
「あとは、地下水道を通ってネズミとかの魔物が入るコトモある」
それなら地下水道全部に殺鼠団子でも置いとけよ。それで全部解決じゃねえか。バカかよこいつら。
「下水でスライムが大量発生シテイることモあるシナ。危ナイ事もあるにはあるけど、基本街中に騎士なり衛兵なりがいるカラ、すぐ解決でキル。主に街壁の外が冒険者の仕事の範囲なんダヨ」
「じゃあ、結構いろんなとこ行くんじゃん。それでいいよ。ぼくは最強だから。どんな奴でも倒してやるさ」
言葉を返したら、なんか冷たい目で返してきた。ためいきまでついてる。何だってんだよ、自分が目立ちたいだけで人に見せ場取られるからってスネるなよな。ぼくと同じ年のくせにガキじゃないか。
「で、さっきやってた空中から物出すのってどうやったんだ?教えろよ、ぼくも覚えるから」
「ハイ」
空中からアイテム出すとか、こういうのでは普通に使えるものだし、出来ないとかないだろうと思ったんだけど、渡されたのは、美術室にあった資料のような、特大の分厚い本。これを読めば使えるって事なのかな。
「コの中の文字を理解シテ、術式を解読。それを紐解イテ自分のマナと術式ヲ結合させ空間ヲ圧縮変換して重力を受けナイ空間を作る。それをマナで包ンデ閉じ、複合魔術で縫合シた後……」
「ちょっと待って、何言ってるのかわからないんだけど」
何言ってたんだ、こいつ。日本語だよな?カタコトだけど。
「これダッテ、めちゃくちゃ簡単に説明してルンだぞ?一度でキルようになるには、そのシステムを解読でキナきゃいけないんだよ。
お前の頭にアるイメージはRPGのアイテムボックスとか呼ばれるような奴だロウガ、俺が使ったこれは、大体のファンタジー作品と違う。
作品では世界ナリ神様ナリが作ってくレタ道具とシて登場する状態だ。俺のは、『俺自身がプログラムして組み立てテ自分で作った道具』なんダヨ。
つまり、作品の登場キャラクターはホボ全て『ただのユーザー』デ、俺は『チートを作るプログラマー』ナンだ。
プログラムできる人がイナいと、魔術とイウ道具は使えナイ。そのグリモワールは、プログラマー育成の手引きでしかナイんだ」
……何言ってるのかさっぱりわからない。
「わけわかんないよ。チートは普通、神様がくれるものだろ?」
「ネトゲとか知ランのか。チートは騙すトカの意味だったハズだ。荒らしの権化じゃナイか。ゲームなんかにアル、始めから強くてニューゲームとかだよ。俺は転生だカラある意味、データ引継ぎしてニューゲームなんだガ。
ソウいうプログラムを作る人が居なきゃ、ゲームはできないだロ」
「そうだけどでも……」
「ああ、モウ。わかんないかなあ。お前は貰ってるだけ側のイメージだろうケド、この世界じゃ自分で全部ツクらなきゃ、チートなんてデキないって言ってんの。天性の才能でもあれば別だろうけど」
「それならぼくはあるよ、間違いなくぼくは」
「ナイ」
「え?」
「お前ノ体格からしてみテモまともに激シい運動を続けた体じゃナイだろう。筋肉が太いって程でもなく、柔軟性とかも難がありソウだ。
それに、体カラ魔力やマナがホボ感じられない。恐らく魔法の才能はないだろうよ。生活魔法ができレバ万歳クラスだ」
気に食わないことを言いやがった、この犬。そのあと、ずっと言い合ったけど、結局こいつも僕の才能を理解できないのかもしれない。それにチートとかって普通にあるんじゃないの?作るとか、意味が解らないんだけど。何言ってるんだろう?本を開けてみたけど、全然読めない。これを読めるようにならなきゃいけないのかよ。
「マズは文字を覚エロ。それは教会で教えてもらエル。15歳越えていタラよほどの問題がない限り仕事を紹介シテもらえるカラ、全てを始めるのはそこカラでイイんだよ」
英語だってめんどくさいのに、なんで新しい言葉を覚えなきゃいけないんだよ。それに、こいつが居ればしゃべる必要ないじゃないか。意味が解らないんだけど。何言ってるんだ、こいつ。バカだろ。
話している間に、門の中に入っていった。石畳で作られている綺麗な街並みの中央に、城のような建物がある。あんな場所があるって事は、ここが首都に違いない。やっぱファンタジーは違うなー。……でもさっき、西の都って言ってたよな?首都が西にあるって事かな?まあ、日本だって首都は東なんだし、そんなおかしな話じゃないんじゃないかな。
これから僕のカッコいい冒険が始まるんだ。どんな物語になるんだろう。まあ、作品じゃないんだから誰かが見るってことも無いんだろうけどさ。
「あ、ソウソウ、さっきの本還してナ。あれ1冊だけで、50ヶ月は生活がデキるものだけど、勝手に持ち帰っタラ窃盗で突き出すから。そシタラ俺は本が戻っテきた上に金貨3枚、3ヶ月は活きられる状態になるカラ」
この犬ガメツイ……それよりこの本そんな高かったんだ。そんなもの、どうしたらいいっていうんだよ。売れるのかな?……言葉喋れるのがこの犬しかいないから黙って今は従っておこう。
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『ラクサー、エンヴィニュートローゲンサウジ。アブラハムカムクウヤツイルカナーゲルジオス。
……ププピル?』
何言ってるんだ、この三毛猫。孤児院と併設してるっていう放浪者の施設に結局放り込まれちゃったけど、なんか人懐っこい三毛猫の獣人が話しかけてきた。
……ププピルって何?
「いや、意味わからないから。ぼくにどうしろっていうんだよ」
『スートローゲン、ブリュンゲンナークイルデカナ。ボクオイシイカナ、タベルシヨウ』
「は?なんて言った、今?おいしくないから、僕はおいしくない!食べるとかありえないだろ!」
いやな声が聞こえたから離れたら、顔つきが変わった。何を言いたいんだ?まさか本当はぼくの言葉が分かっていて、本当に食べようと?
『チャゲンアスカイ?ププピル?』
一歩近づいてきた。……食べる気だ!
「だからププピル?ってなんだよぉおぉおおおおぉおぉ!」
――そのまま、ぼくはその建物を駆け出した。こんな訳の分からないところにいられるはずもない。夜の街を走って、あいつのいる場所を探し続けた。
精霊のぼやき
――街に入るとき、こいつ顔立ちはキリッ!としてるのに、内股で膝が震えて右手の指咥えながら左手がアンタ掴んでたけど、あれどういう事――
不安は分かるけど、それ以外は理解不能。




