表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
オカシナ イセカイ ファンタジア
56/430

3章 プロローグ

前回:――旅して種拾いました。以上――

 いつものように旅を終えて、乗合馬車に乗った俺達は、

「エリナさん、人前でダッコはやめてって言ってるじゃん!」

「えぇ!勉強するときはこの格好って言ったじゃぁん、そしたらここでもそうしないとぉ」

「ほらー、もうそんなケンカしなくてもいいでしょー」

 この5年間、ずっと続いてきた下らないやり取りを、今も続けている。


 幸せっちゃ幸せなんだろうけど、これは俺の望んでいたものじゃないし、このヒト達未だに、俺を恋人候補なんて言って、迫ろうとすることがある。発情はしないけど。

 まして、馬車の中で人目に触れながらなんて、やるもんじゃない。現在12歳。肉体年齢で言えば、並人換算で15歳といったところ。子ども扱いは危ない範囲である。

 実際今も周りからおかしな目で見られているわけだが、エリナさんは気にしていないようだ。気にしよう。


「もういい加減子ども扱いするなって。ギルドでも、奇人としか見られなくなり始めてるだろ?」

「そんなのどぉでもいぃのぉ。教えるのに大事なんだからぁ、今まで通りにしようよぉ」

「既に上位魔法は全部収めて、これからエルフ流術式を極めるのと、精霊術式を極める事と、特殊術式を覚える事、そう言ってたでしょ?それはどっちかって言うと研究のようなものだから、ただ教わるものじゃないでしょ」


 そう、5年の間、覚えがどういう訳か早く、教え方も的確で解りやすかった為、あっという間に上位の魔術師レベルにまで到達した。

 才のある者でも、この倍くらいは時間がかかるだろうと言われるらしいが。エリナさんも同じくらいの期間で習得したらしい。

 化け物の子は化け物になる、という事だろうか?血の繋がりはないけど。


 なお、剣についても随分腕は上がってきた。流石に5年ほぼ毎日振っただけはある。実戦能力でも、剣だけで3等級の剣士と渡り合えるくらいになってきた。格闘アリにすれば、俺が勝つ自信がある。でも自信は過信だから、俺は信じない。油断大敵。


「でもぉ、こうした方が頭回るでしょぉ」

「あったかくされて気持ちよくなると、回らないでしょお」

「あー、やっぱり気持ちいいんだー」

 俺の失言で余計に抱きついてくる。俺はそれを剥がそうとする。繰り返すいつものやり取り。そんな時、かすかに声がした。違和感のある、声。


『み……ず…………』

「あん?」

「どぉしたの、ヴァンくん。なんか変な顔をして」

「ちょっと、おかしな感じがして。ヒトの声なんだけど」


『み……みず……』

 やはり聞こえる。この世界でたまにある怪奇譚もどき、もといレイスの類、ではなさそうだ。

『みず……み、みずぅ……』

「誰かが呼んでる、って事で行ってきます」


 これはきっと俺以外解決できないやつ。だって、俺の耳以外この声拾っていないだろうし、聞こえたとしても確定でスルーされるはずだ。幻聴とかなんとか言って。


 師匠はそれを分かっている事もあり、駆け出す俺を止めもせず、むしろ後からついてくるつもりのようだ。俺が飛び出したところで、リサさんが事情を話して馬車が止まった。


 もう、5年の間にもトラブルになるような音を拾い、人助けだったり、産廃先輩爆散ヒャッハー!だったりを、やり続けている。産廃先輩の先輩は、意味もなくエルフ好きーな豚なので、やっぱり爆散している。向こうから近づいてくるしね。存在がセクハラだからね。他の魔物は、やりすぎない程度に仕事で、やっぱり爆散してきた。

 うん、俺もすっかり、人間兵器だ。それはともかく、


「お、いたいた」

 少し進んだあたり、俺にとって少し懐かしい、森と荒野が隣り合っている境界付近の草むらで、彼ははいつくばって、どこかへ向かおうとしている。


『み、みずぅ……』

 同じ言葉をずっと続けているあたり、それが母国語か、あるいはその土地に居るのだと思っているのだろう。恐らく前者、そしてそれ以外の言語は、習っていてもしゃべれないのが一般的だ。今もあまり変わっていなければ、だが。


 俺はそいつに近づき、そいつの欲しているものをつまんで手に置いてやる。


『はい、ミミズ。なんでこんなん欲しいのか知らんけど、釣り餌ならこれはあまり使えないよ?この辺りの魚はグルメだから、ミミズは嫌いなんだとさ。手づかみは案外いけるらしいよ?』

『………………はひゃあああぁぁぁああああぁぁぁああぁあ?!』


 変な声出して、飛び上がりひっくり返り悶えて……うん、動きが気持ち悪い。見た目男だが、どこか動きが、女性のようなナヨツキ方をしている。しかも腰が引けている。


『悪い、冗談だ。ほら水筒』

 こっちが本命なのは知ってるけど、どう反応するだろう。ちょっと楽しみだ。水筒と言う名の革袋を見て、顔を明るくして飛びつき、一気にその中身を飲み干して、物欲しそうな顔をして水筒を見つめている。足りないか。


『んじゃ、これはどうだろう。それと岩塩。実はここ、良質とは言えないけど、結構岩塩が岩に含まれていてね。黒い奴以外は食っても問題ないらしい。細かい事言うと、岩塩はある程度、健康被害があるらしいけどね』


 空中に水の球をだして浮遊させ、同時に近くにあった岩塩のくずを掴んで手に乗せる。

 勿論()()()で。

『………………え?』


 やっと、俺の存在に、頭の理解力が追いついたらしい。俺の目の前にいる男性。推定年齢15歳前後、黒い短髪。乱れているけどちょっとワックスつけている。顔立ち、並。ピアスは左に1か所開けているが、つけてはいない。少し高いブランドの時計、中学生が買うものじゃないから恐らく親のプレゼント。

 服装。スニーカー。ジーンズ、ダメージ無しの安物。Tシャツ、胸に漢字で「祭り」と書かれている。何の祭りかは知らん。


『お前が祭り好きなのは分かったけど、こんなところに祭りはないよ?せいぜいゴブリンの酒池肉林か、角ウサギの串刺し祭りか、魔牛と追いかけっこか。牛追い祭りに来たんじゃないんだろ?』

『………………』


『おい、聞こえてないのか?日本人』

――理解が遅いねぇ、なんかあったのかなぁ。この森、水源だらけなのに、水欲しがってるっていうのもよく分からないし――


 ああ、これあれだ。先にこっちの世界の住人にあって、面倒ごとを受けたとかそういう系だ。たまにいるっていうから。何があったのかは、知らないが。


『エエエエエエエエエ!犬がしゃべってるうぅ!?』

『グルル……噛みつくぞお前。オオカミな?狼の獣人』

 ニッコリと威嚇。ちょっと顔が青くなったし、少しは効果ありそうだ。


『え、獣人ってケモミミでシッポついた人じゃ……そういうもんでしょ、普通!』

『この世界にそんな奴は、そういない。もっと歪で統一感のない物だよ。現実は、残酷なんだ』

 実際、俺もそう思っていた時がありました、ずっと昔にね。赤ん坊の時に捨てましたが。


『え、でもこんな奴俺見た事』

『嘘は要らないから。教科書とかでアヌビスとかくらい見てるはずだろ。お前小学校すら行ってなかったのか?』


 嘘だと思っていないだけ。アヌビスとかホルスも、言ってみれば獣の人間化したものだ。嘘かホントか知らないけど、狐や狼は日本神道で擬人化されてるっていうし。

 物語でその手が多いのは、ほぼニンゲンであった方が親しみやすいから。二本足で歩く犬なんて親しみにくい異形だ。うるせえ、くそ。

――自爆ぅ。お疲れぇ――

 ……畜生!


『はあ、こんな不躾なやつを助けようなんて馬鹿げていたかな?それじゃ、あとは頑張って』

『ちょっとまって、どこいくの!たすけて!』

 うん、最初っからそう言えばいいのだよ。頼れるものはなんとやら、頼れるうちに頼るのはおかしくはない。頼りすぎて相手も道連れにして、溺れちゃ意味ないが。


「ヴァンくん、ここに居たの?この人は……」

「放浪者。それも俺の前世の国の人だよ。前世の母国語が聞こえてきて、もしかしたらって思ってさ。ミミズがどうとか言ってたけど、水の事かな?って」

「それー、全然言葉違うじゃない?」

 そう思うのも無理はないだろう。この会話が英語だったら、ウォーターとワームの話になるんだから。日本語はそうじゃないけどね。


『え、この人たち、誰?』

 ああ、2人が背が高いからビビっちゃってるよ。まあ、実力面ではビビッていいけど、優しい人なんだからあまりビビってやるなよ、ビビりめ。


『俺の師匠。冒険者で、この大陸で指折りの魔術師と、その懐刀。『金色の雷鳴』と『白金(プラチナ)の大刃』の、エルフ』


 この数年の間に、この2人に加わって、俺の『焔の銀狼』も名を挙げた。挙げなくていいと叫んだ俺の声は空しくかき消され、金・銀・白金のトリオとして定着しつつあるのが今の現状。

 最初の頃の詩に、焔属性とフェンリルの2つ名の銀狼が使われる事があったため、この2つ名なんだそうだ。人によってアレンジが加わって、存在しないものの方が多いらしいが。


 というか、2つ名とかいらないんだけど、誰か消してくれないかな?消すって言っても死ぬのは勘弁だけど。

――活躍してなければ消えるんじゃない?なんだかんだ言って頑張っちゃってるくせにぃ――

 それはともかく。今はこいつの事か。


『とりあえずお前の身柄は、街までは俺らが見る。その後は、街側で判断することになるから……って言っても順当にいけば、言葉を教えられて、飯食わしてもらえる場所を紹介されるだけだけどね』


 言わねばならない事を話し、手を差し伸べる。たまにこういう、異世界からくるモノはいる。この世界のおかしなことの1つ、異世界から人が来るのなんて普通。

 ……普通じゃないだろ。それが普通なら、宇宙人が普通に地球に来て、挨拶して菓子折り置いて帰っても普通だぞ。

――宇宙っていうもの自体、よくわからないんだけど?――

 ……言ってもしょうがないか。


『でも、え、ぼく……たすかった、の?……ぁ、あぁぁあああぁああ!』


 一瞬放心した後、激しく泣き出した彼は、馬車に乗るまで喋れる状態でもなかった。

 体中泥だらけで、ところどころ傷があったが、どういう幸運か、あるいは不幸か。森を3日彷徨って、人に邂逅したのは1度きり、それ以降は魔物も人も出会わなかったそうだ。もしあのまま放置されていれば、数時間後には事耐えてしまってもおかしくないのだが、彼はある意味強運の持ち主なのだろう。


 しかし、運だけではどうにかできないのも事実だ。彼はこれからこの世界で生き、選択次第で明るくも暗くもなる未来があるだけで、帰る事はできないのだから。


――この世界は一方通行。来ることはできても、戻ることはできない世界なのだから。


精霊のボヤキ

――祭りって何よ。頭の中湧いてるの?センス無さ過ぎ――

 今日はいつもより辛辣?

――こいつを見てると背筋に寒気が……――

 背中ってどこですか、光の塊さん?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ