18話 試験3日目 午後
前回:――実は、王女の刺客の狩人……狼?どっちよ、アンタ――
「もう一度、正確に説明すると、王女が、国内のちょっとした嘘から始まった格好付けの貴族の行動で、不正な騎士候が出回ってしまい、それにより王家にも貴族にも、必要以上に不審な目を向ける平民が増えている事を、憂いているんだ。
しかも、それだけで終わればいいんだけど、内乱の芽が少しだが、出てきている。
つまり、これを理由にして、反政治運動をする者が増える理由の、一因になっているんだ。
一応、王族側としても事実確認を怠っていた事を認めて謝罪、一部の騎士候取り消しを決定したものの、だからと言って、獣人の俺に騎士候を……となれば、違う理由でイチャモンをつけられる。
反抗的な貴族を相手取ることになるんだな。政治は敵が多いっていう事は分かるだろ?
それでも、不正に申請してくる者が絶えない。その申請をしているっていう話を聞いて、そいつの家族も、民衆も、不信感を拭えない状態になっている。で、俺の行動に繋がってくる訳だ。
俺がドラゴン討伐専門のようになっている状況は、事実ある。俺を国外に追放した場合、今度はドラゴンによる被害が増える事になる。
エルフを師匠に持っているっていう事もあって、追放は簡単にできない。この国でも、一応12英雄とエルフには逆らうな、と言われているんだろ?異常な力を持つ化け物どもだ、当然かもな。だからって、こっちから吹っ掛ける事はしないけど。
王家からすれば、そんな奴は敵にせず、味方に引き入れてしまう方がいい。できればリードを繋ぎたいんだろうが、俺が獣人であるために、王族も貴族を気にして中々手を出せない。だから、仲良くすることができる第3王女が、関心なんだ。
彼女自身、前は変人奇人と言われていたらしいが、俺と師匠が知り合った事が解ったとたんに、王族の中でも稀有な人として扱われるようにもなったらしい。
フェンリルは12英雄であり、獣人。片や正義であり、片や悪の権化。扱いづらいったら無いが、それを扱うのを、王家はあのヒトに任せた訳だ。
あのヒトは面倒事なんてなんのその、獣人をモフれりゃそれでいいってヒトなんで、大喜びで俺をパーティに招待したくらいだけどな?その後、本気でモフろうとしてきたけど。
それでさっきの、ドラゴン討伐の話が嘘ではないかって噂が、出回り始めた時期からの事に繋がるんだが……
王女はもう、火消しに回るだけで東奔西走。部下をあっちこっちに走らせて問題の終息を謀るものの、何度も同じ事をする馬鹿が増えて、今では憔悴し始めている。
前回のケサランパサラン、つまり獣人好きのパーティではその心労が表に出ていて、師匠と俺に個室で泣きつくほどだったんだ。
信じるかどうかは自由だが、これが今回の俺の行動の理由の原点だ。実際、貴族じゃなくても実力の無いヤツと組む訳にはいかないし、信用できないヤツは組みたくないから、選ぶつもりではあったんだが。
さて、これは一応秘密ではあったんだけど、どう判断するかな?」
食事を終えて、混乱しているヴィンセントさんの希望で、細かい話を聞かせたヴァン。今はフルーツの皮を剥いて、塩水に漬けている。漬ける必要って、あるのかな?
とりあえず、王女様からお願いされた、って事でいいんだよね?その目的も、内乱を含む、政治的な問題の根本解決の1つが目的。
彼の仲間に貴族が居た場合、他の貴族が無暗に彼の功績を奪おうとしにくくなり、問題の件数が大きく減るかもしれない、と考えているって事で、良いと思う。上手くいくかは、分からないけど。
「流石にそれを聞かされて、はいそうですか、って言う訳にはいきません。一介の民間人が、王族と関係を持つという事自体、稀なのに」
「すごいねー。ハルたちも、おーじょさまと会ったことないよ?どうして仲いーのー?」
「ヴァンは師匠と王女が仲良かったから、会えたとか言ってたよ……でもあの人の獣人部隊、怖すぎるんだよな……」
「……然し、敵と成る者は多く居るのも事実。為れば守る為に力を付けようと云うのも、頷ける話ではあるまいか?
其れなら、最初にそうと言ってくれても……否、秘密だったのでは仕方ないのか。話したのはギルドの酒場。多くの者が聞く事ができる場だ」
「しかし、人気のない場所で話すのも問題では?もしかしたら、今も聞き耳を立てている者が居るやもしれません」
それぞれが思う事、知ることを話している。ヴァンはワタシ達には教えてくれたけど、それだって防音の魔法を使って、エルフさんの部屋での内緒話だったし。
「心配には及ばないよ。この辺りの人は既にいない。来た時に音響魔術で確認したけど、閑散としていたし、子供たちと遊んでいる間に周囲を確認してきたけど、隠れている者は居ない。
匂いを全く残さず、息もせず、ほんの少しも動かないなら、見つけられないだろうけどね。それらが気配の元なんだから。高位の幻術と隠蔽を使わない限りは、そんなヤツ居る訳が……
ガーゴイルなら有り得るか?」
否定しようとして、反対の可能性を自分で出しちゃった。何やってるんだろう……街中にガーゴイルは居ないと思うけど?
「それは、どういう意味ですか?絶対に見つけられる自信があると?」
「フム、息もしない、というのであればガーゴイルやスライムであろうが、それを判別する方法というのは理解しがたいかな。如何して解るのかね?」
確かに、どうやっても離れた人の息とか確認できないはず。
「これは眉唾のように感じるんだろうけどさ、ヒトの筋肉って言うのは微量の電気で動くんだよ。で、それをほんの僅かにだけど、感じる事ができるんだ。動物の感知力っていう感じだ。
レイスの存在は分かるよな?あいつらは実際には、微量の電気や塵に魔力が加わって、ヒトの霊が媒介として使っているんじゃないかって、エルフの学者が学説を唱えている。
まだ確実って訳じゃないんだけどさ。電気とマナの塊なんだって事だ。
俺の前世でも、普通は見えない霊を見る人も居たし、動物の目には映っているなんて話もあった。
そして、一時期病院、治療院って感じの場所で、電気系統の機械の誤作動が起きて、間接的に筋肉が突っ張る事があったそうだ。レアなケースだけどな。
こういう現象は実際に起こりうるって言う事だ。つまり、ヒトの体は、少なからず外部の電気現象から影響を受けるんだ。
その感覚が、魔力探知と力流探知、それぞれを持っている俺にとって、大きな意味を持つ。気配をどれだけ消しても、心臓と呼吸は止められないからな。その動きだけで、近づけばだいたい分かる。
小さい頃にはできなかったけどさ、感覚鋭敏化魔術併用なら、可能なんだ。よほど強い隠蔽の魔術でもかけなきゃ、ごまかせないよ」
ちょっと内容が難しいし、出来るのが信じられない……嘘でしょ?……でも、ヴァンは嘘ついたことないしな……
「フム、言わんとする事は分かった。取り敢えず、君はこの辺りでは隠れている者も居ない、との認識でいいのだな?王女と関わる12英雄、それも可笑しな話では無いと考えられよう。
為らば、一度は君を信用しよう」
「ヴィンセント様?!」
彼は受け入れるのかな、さっきの嘘みたいな話?ワタシは、レイスは瘴気と怨念の塊だって聞いて育ってきたけど……そこを信用できなかったら、王女様の話も、信じられないかもしれないのに。
「何にしても、時間は余り無い。そして此の6人で在れば、そうそうの困難に負ける事も無いであろう。君の申し出を受けたいと思う」
「おー、ギンローなかまー!やったー!」
「ハル!ヴィンセント様、お待ちください。ワタクシは少々理解できません。この者が都合のいい事だけ話して、謀っている可能性もまだ捨てきれないのですし……」
「否、其れを言って仕舞えば、他の冒険者全てに言える事でも有る。其れに周りの希望者を謀って断り、我々の元に真っ直ぐ来た事を考えれば、元より目的に沿って行動していたと云うのも、理解出来よう。
貴族相手に顔色を伺うのは、彼の性分では無いのは、今日の間にも見て取れた。不思議な程に、自然体で在ったよ。
其れに私は、一応は貴族を捨てた身だ。必要以上に身構えるのも、不要で在ろう。其れを理解した上で、近づいてきたと言う訳なのであろう?」
「うん、当然だね。でも信用できないってのは、捨てなくていいよ。裏切りもまた、ニンゲンのサガだ」
……ワタシはヴァンは裏切ったりしないと思うけど。でも、勘違いでそう取っちゃう事もあるんだよね。
村を出る時、ジル君はワタシに、裏切り者って言ってたし……ワタシ、一度も結婚するなんて、言ってなかったのにね。
「……正直、ワタクシは信用して良いか、まだ迷います。ですが、ヴィンセント様がそうお決めになるなら、それに従いましょう」
「ええ、そんなに簡単に引き下がっていいの……?ありえねー」
何が有り得ないんだろう?そんな事言ってるユータはヴァンに頭を叩かれている。
「それじゃ、この6人で明日、下水道探索の仕事をする。いいね?……めっちゃ嫌なのは分かるけどさ」
やっぱり、下水道探索は、皆嫌なんだ。全員一気に顔が歪んだ。
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ギルドのエントランスまで戻ってきて、掲示板を見上げる。そこにはワタシ達が申請した時に書いておいた、書類の一部が貼られている。
「これを一纏めにして封筒に入れ、横にあるポストに入れる。取り出すには、時間が経過しないといけない。これを入れたら、少なくとも明日を潜り抜けなければ、チーム変更はできないぞ?
……もっとも、明日が最期になる事にもなり得るがな。覚悟はできているな?」
「嗚呼、我々はどの様な事が有ろうと、退く事は無い。如何なる困難であろうと、乗り越えて見せよう……
――運命を変える為に、我々は来たのだから」
彼は自身の書類を取り、署名と血判を押した。ワタシ達も同じようにして、書類に署名を書き、ヴィンセントさんの書類が、一番上に来るように重ねる。
そして、紐で括ってポストに入れた。
「これで俺たちはチームだ。仕事から逃げられないからな。
さあ、明日の準備だ。それぞれ持っている武器や防具の調整をしておこう。俺はちょっと用事があるから、先に師匠の部屋に行っていてくれ」
好戦的に嗤い、彼はギルドのカウンターの方へと歩いて行った。そして、カウンターの向こう側の部屋へと入っていく。
「じゃあ……部屋に一度行って、お茶を飲んでから準備しようか」
ワタシは微笑みかけて、皆も頷いて部屋に移動した。
もう数日生活しているから、少し慣れていたけど、やっぱり家具や道具とかは、高価なものだったらしくて、ヴィンセントさん達は感心していた。3人が部屋を見ている内に彼は帰ってきて、荷物の整理が始まった。
「じゃあ、エイダさんも空間収納を持っていたんですね」
「はい、全員分の荷物を、引き受けております。支払いなども、ワタクシは請け負っておりますよ」
「あれ、これってどうしてバリバリしてるのー?」
「ああ、この持ち方をしてマナが流れるとスタンロッドになる。これでユウタをバリバリするんだよ」
「はああ?!ちょ、ちょっと待てよ、それってぼくの持ってる奴の上位互換だったのかよ?!」
「えー、バカがもってるのとおなじはヤだよー」
「大丈夫、あいつの持っているのは、ただの棒。これじゃない」
「君達はもう少し静かにできないかね……嗚呼、是も慣れるべきなので在ろうか?」
「だから固いってヴィンセント。あ、障壁できる奴はいるか?下位の魔術だけど、長く使う事になるからできる奴は多い方がいいんだが」
それぞれが喋りながら武器を手入れしていた時に、ヴァンが発した言葉で皆止まった。そういえば、使うとか言っていたけど、何だろう?
「結界だとマイナスになる面があるんだ。何か解るかな?」
「柱状結界ですと、下水道の水面が範囲に入りますよね。魔物の入る隙になります。
膜状結界は、1人1人掛けるなんて難しいですし、維持が大変です。
ですが、球形結界ですと足元を保護できますし、計算が複雑ですが可能では?」
結界の形状は大きく分けて、この3種類があるけど、全部結構難しいし大変な計算が必要になる。でも、球形結界は……
「うーん、曲がり角とかで、形状が変わると、その隙間を埋める為に計算し直さないといけないでしょ?
その度に、術式を書き直ししてると、時間のズレとか、計算のズレで入ってきて攻撃されるからじゃない?」
「アリスが正解。結界は、発動時に張る空間を把握しておかなければいけない。
その為に空間の計算が必要だ。計算を間違えると、障害物とぶつかって形が崩れるからね。そのまま崩壊もありうる。
属性防壁って言う方法もあるけど、安定して使えるのが、障壁なんだ。
あれは指定した場所に簡易的な結界を作る。簡易結界は、壁とぶつかっても壊れにくい。つまり、地下水道では、障壁や簡易結界を使えるかどうかが生命線なんだよ。
ああ、これは他の冒険者に聞いても答えてくれることだよ。何しろ、情報収集を怠った者から死ぬのが、冒険者だからね」
そういえば、ヴィンセントさん達は情報収集を、懸命にやっていたって言っていたよね。情報収集を怠った人からっていうその言葉、聞いた事あった気がする。
「ハル、障壁はちょっと使えるよ。エイダは結界もとくいー」
「私は、魔術があまり得意では無くてね。出来なくはないが、余り形状が維持できないよ」
ヴィンセントさんは得意そうに見えたけど、意外。ハルちゃんは使えるんだ。
「まあ、時間は長いから、維持が無理だと思ったら、ユウタのバックラー使ってくれ。障壁を発生させる機能を付けてある。基礎は2m先に発生させるようにしてあるけど、慣れていれば距離を調節できるだろ」
そういえば、そんな事を話していたっけ。ユータはうまく使えているのかな?あまり使えていそうにない気がするけど。
「何ですの、そのアーティファクトは。彼が障壁なんて、とても使えそうにないと思うのですが……」
エイダさんは、彼の言葉で目の色が変わった。何か気になる事があったのかな。ユータは確かに魔力ないけど。
「魔力どころか、マナコントロールすらダメな奴なんだ。そんな奴が使える仕様。空気中のマナを貯めて使える、ドベでも使える魔力の盾だ。因みに、素材費換算で2ガルだ」
「ちょ?ぼくの時は1ガルって」
「馬鹿、値切りしてやったんだよ。あれで大赤字だったんだ」
「しかし……それなら譲っていただけませんでしょうか。ワタクシもその盾は興味ありますし、ハルの武器の事もあります。併せて2ガルではだめでしょうか」
「ふっ……3ガルだ」
「2ガル10ジル」
「……2ガル95ジル」
「2ガル25ジル」
「2ガル90ジル」
「くっ、2ガル30ジル」
なんか交渉が始まっちゃった。お財布を預かっているって聞いたけど、そういう意味なの?
「2ガル65ジル」
「2ガル50ジル」
「……ふう。トンファを返さなくても、交渉をやめるって言う事もできるんだよ?拘るね。精霊術式だから真似はできないと思うよ?」
「しかし、興味はありますし。研究しなければ分からないじゃないですか?」
「……いいだろう。2ガル50ジル、決定だ」
結局、間を取る感じで決まったみたい。2人はやり切った感じで握手しているけど……必要あったのかな?
精霊のボヤキ
ふう、久しぶりに、良い交渉だった。エイダのヤツ、中々に気迫があって値段を上げられなかったじゃないか。
――いや、スタートの時点で、素材費ギリギリじゃない――
解っていないね、精霊さん。交渉というのは、人が人たる理由の、1つなんだよ。
――その心は?――
…………かけひき?
――理由ないんだね……――




