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死後の逢瀬

 『ゲルテナ』に飛び込んだ二人は、正面に続く階段を目の前に呆然としていた。この外はきっと、さっきの黒い水のようなものでいっぱいになっただろう。それは、つまり―

「・・・・・・イヴ。」

 ギャリーが、そのまましゃがみ込む。メアリーも、何も言わず階段の上を見つめている。

「・・・・・・アハハ。ホント、アタシ何してんだか。」

「・・・・・・」

 メアリーは、何も言わず、階段を上り始める。ギャリーは、しばらく、呆然とそれを眺めていた。メアリーが階段の頂上までたどり着くと、そのまま立ち止まった。メアリーが振り返る。

「イヴいたよ!」

 メアリーはそう言うと、ギャリーに早く来てと手を振る。ギャリーは立ち上がり、急いで階段を上る。

 ギャリーが階段を上ると、棺桶のような形の真っ黒のベッドに横たわっている少女がいた。


『最後の舞台』


「イヴ!」

 イヴは、胸に黒い薔薇を抱えて眠っていた。ギャリーが慌てて駆け寄ろうとする。すると、イヴとギャリーの間に人影が割り込んできた。

「メアリー。」

 割り込んできたのは、女性だった。その女性は、明るい金色の髪に、緑のドレスに身をまとっていた。海のように澄んだ青い瞳が、真っ直ぐ二人を見つめていた。

 その顔は、つい先ほど、絵に飛び込む前に見た『死後の逢瀬』の女性の顔そのものだった。

(まさか・・・・・・)

「会いたかった。」

「誰?」

 メアリーは、突然現れたこの女性が誰なのか分かっていないようだった。しかし、二人の姿を見比べることができるギャリーには、この女性が誰なのか、見当がついた。ふと、本棚で見つけた日記を思い出す。


 この世に生まれてくるはずだった、この世に存在しない――。――のために、必ず――


 もし、あれがメアリーのことなら。『この世に生まれてくるはずだった、この世に存在しない女の子』の母親がいるはずだ。だとすると――


 

 この人は、メアリーの母親になるはずだった人だ。



「メアリー、ここでお母さんと一緒に暮らさない?」

「何言っているのか、分からないよ・・・・・」

「ごめんね。今まで寂しかったでしょ?大丈夫、これからは、ずっと一緒にいてあげるから。」

 メアリーは何も言わず、咄嗟にギャリーを見上げる。

「メアリーは渡さないわよ!どうせ、あんたもゲルテナの作品なんでしょ!」

 突然の提案に困惑するメアリーの代わりに、ギャリーが声を上げる。そうに決まっている。こんな不気味な美術館に一緒に居ようなんていうのは、ゲルテナの作品以外にありえない。どうせ、ゲルテナが書いた絵か何かだ。

 『メアリーの母親』が、こんなところにいるはずがない。

「ゲルテナ。懐かしい名前。あの人、元気にしているかしら?」

 女性は笑顔を見せる。それは、単に知っているのではなく、まるで、ゲルテナに会ったことがあるような口調だった。

「あの人の作品で、『精神の具象化』ってあるじゃない。あれ、私好きだったなあ。ねえ、今もそれあるの?」

「・・・・・・」

 女性は思い出を懐かしむように、目を細める。ギャリーは何も言わないまま、メアリーを自分の背中に隠す。

「まあ、いいわ。あの人の話なんかしても、しょうがないもの。それより――」

 すると、女性は深々と頭を下げた。それでも、ギャリーは警戒を緩めない。

「メアリーを預かってくれて、ありがとうございます。色々、ご迷惑をおかけしたことかと思います。」

「だから、メアリーは渡さないわよ!」

「そう。じゃあ代わりに、あの子をもらおうかしら。」

 女性は顔を上げると、イヴの眠っている『最後の舞台』を指差す。すると、バラのイバラが地面から飛び出し、その周りを覆ってしまった。

「!」

「あの子のことが大事なんでしょ。私も、メアリーが大事なの。悩む必要ないじゃない。お互い、大事なものを守ろうとすればいいだけよ。私だって、無闇に何かを傷つけたくないもの。」

 女性は笑顔を浮かべる。その純粋無垢な笑顔も、後ろにいるメアリーにそっくりだった。見れば見るほど、メアリーにそっくりだった。

 

 でもね。アンタが一体誰なのか、本当に『メアリーの母親』なのか、正直、どうでもいいのよ。メアリーと目が合う。

「大丈夫。アタシにまかせて。」

 ギャリーは顔を上げ、真っ直ぐ女性を見ると、口を開く。


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