バースデイ
「・・・・・・イヴ。」
暗闇の中、聞き覚えのある声がした。ゆっくりと目を開ける。
「誕生日おめでとう、イヴ!ふふ、今日はごちそうよ。」
すると、お母さんが椅子を引き、座るのが見えた。私は辺りを見渡す。見慣れたキッチンに、リビング。紛れもなく、私の家だった。さっきまで、私は誰かと一緒に変な場所にいたような・・・・・・
「ケーキも、ほら!イヴの好きなイチゴが乗っているの。今日は、特別だからね。」
お母さんは、そう言ってケーキを切り分ける。誕生日?今日が、私の?
「おめでとう、イヴ。もう9歳か・・・・・・大きくなったなぁ。この前まで、あんなに小さかったのにね・・・・・・」
お父さんが、しみじみと呟く。私の9歳の誕生日は、もう過ぎたはずだけど・・・・・・。
それより、さっきまでの別の場所にいたような・・・・・・。思い出そうとしても、霧がかかったようにモヤモヤして、思い出せない。
(夢、だったのかな?)
「まだまだ、これからよ。ね?イヴ。」
「そうか。楽しみにしてるよ。」
机の上には、たくさんの料理が並んでいる。そして、お父さんの後ろにある小さなテーブルの上に、プレゼント箱が置いてあるのが見えた。随分、大きな箱だ。
「・・・・・・ん?あぁ、これか。あはは、見つかっちゃったな。じゃあ、ちょっと早いけど・・・・・・」
お父さんは、立ち上がり、机の上にあるプレゼントを持ってきてくれた。
「ほら!お父さんからの誕生日プレゼントだ。いいよ、開けてごらん。」
なんだろう。本当に夢だったのかな。大事なことを忘れているような気がする。お父さんとお母さんは、いつもと変わらない笑顔で私を見ている。何も変わらない、いつもの光景。
私は、プレゼントの包装を破き、箱を開ける。すると、そこには大きなウサギのぬいぐるみが入っていた。
「どうだい?イヴ。こんなに大きいウサギは、なかなかいないだろう?」
そのぬいぐるみは、イヴより少し小さいくらいの大きさだった。イヴは、いくつかウサギのぬいぐるみを持っていたけれど、こんなに大きなぬいぐるみは初めてだった。イヴは、思わずそのぬいぐるみを抱きしめる。
「ちょっと、あなた・・・・・・。ぬいぐるみはやめてって言ったじゃないの。」
「え、そうだっけ?」
「そうよ!イヴの部屋は、もうウサギでいっぱいじゃない。これ以上増やして、どうするの!」
お母さんは、少し語調を強める。お父さんはその剣幕に押され、しどろもどろになる。イヴは、ぬいぐるみをまた抱きしめた。
「い、いやぁ、でも・・・・・・。あ、ホラ!イヴは喜んでくれているよ!」
「もう・・・・・・仕方ないわね・・・・・・。それじゃあ、イヴ、私からもプレゼント。」
お母さんがそう言うと、きれいにラッピングされた小さな箱をくれた。なんだか、頭が、ぼーっとしてきた。箱を開けると、そこには――
「アナタの名前が入ったハンカチ。お店で作ってもらったのよ。」
「レースのハンカチかぁ・・・・・・。イヴには、ちょっと早くないかい?」
「いいのよ。この子、物を大事にしすぎて、なかなか新しい物、買わせてくらないんだもの。それなら、はじめから良い物、持たせたいわ。」
「なるほど・・・・・・」
白のレースのハンカチ。そうだ。これ、誕生日にもらったんだった。それで、たしかこれを――
「・・・・・・あら、イヴ、眠たいの?」
「珍しく、はしゃいでいたからなぁ。疲れたんじゃないか?」
「うふふ。そうかもね。イヴ、ちょっとだけ、寝たらどう?起きてから、パーティの続きをしましょうか。」
そうだ。今は寝よう。やさしいお父さんとお母さんに見守られながら、眠りにつこう。
ねえ。ふたりは、ずっと一緒にいてくれる?
「そうだね。それがいいよ。ゆっくりおやすみ、イヴ。」
「おやすみなさい・・・・・・」




