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忘れられた肖像

 こんにちは。大藪鴻大です。

 

 今回、再び『Ib』の二次創作を書く事にしました。前作から、一年以上経つのですが、いまだにkouri様の『Ib』の魅力に捕らわれております。そのせいか、前作の終了後、しばしば「続編を作りたいな」と思っておりました。

 

 今作は、前作よりもオリジナル要素が多いかもしれません。ですので、『Ib』を愛する方々から、「ここはこうじゃない。」、「それはおかしい」と思われるかもしれません。その点に関しては、あくまで私個人の解釈であるということをご理解していただけると幸いです。


 それでは、『Ib ~深海の美術館~』をよろしくお願いします。

 どこまでも伸びる暗い道。クレヨンで描かれた不思議な廊下を、赤いスカートを履いた少女と青年が走っていた。何かに追われているのか、何度も後ろを振り返る。二人の息も荒くなっている。

 やがて、二人は走るのをやめる。後ろを振り返っても、誰かが追いかけてくる気配もない。少女は、ホッと安堵の息をつく。青年の方を見る。すると、青年は苦しそうに胸を抑え、倒れ込みそうになっていた。

「・・・・・・イヴ・・・・・・あのさ・・・・・・。悪いんだけど、先に行っててくれない?アタシちょっと・・・・・・。ゴメン。なんと言ったらいいのか・・・・・・。」

 青年は、そのままその場に膝をつく。少女は青年の顔を覗き込むためにしゃがみこんだ。

「嘘なんてつきたくないけど、本当のことも、言いたくない・・・・・・。」

 イヴと呼ばれた少女は、首を横に振る。すると、青年はイヴの頭に優しく手を置いた。

「動けるようになったら・・・・・・追いかけるから・・・・・・先に行ってて。」

 青年は、力なく笑う。イヴは頷くと、青年に背を向けまた走り出した。ふと振り返ると、青年は壁に寄りかかって座り込むところだった。少女は走り出す。

 

 イヴが先に進むと、クレヨンで描かれた黄色いバラが並ぶ階段が見えてきた。イヴはその階段を上る。

「すき・・・・・・きらい・・・・・・すき・・・・・・きらい・・・・・・」

 階段を上っていくと、声が聞こえてきた。イヴは、階段の陰から部屋の中を覗き込む。

「・・・・・・すき・・・・・・きらい・・・・・・!」

 金髪の少女の足元には、青いバラの花びらがいくつも散っていた。その青いバラは、青年が持っていたバラ。そのバラの花びらが全て散るとき、そのバラの持ち主の命は――。

「・・・・・・すきっ!」

 少女は、バラの茎を投げ捨てるとそう叫んだ。

「あはっ!やったぁ!これで、わたし・・・・・・。」

 少女はそう言うと、駆け足で部屋から出ていった。イヴは階段の陰から姿を出すと、青いバラの花びらが散っている部屋の中心に走る。少女が投げ捨てたバラの茎には、花びらは一枚も残っていなかった。

―花瓶。花瓶があれば、きっと―

 イヴはあたりを見渡す。すると、イバラに塞がれた通路が目に入った。奥には階段が見える。

―あの奥にあるかも―

 通路を塞いでいるイバラは、ライターで燃やせるかもしれない。そう思ったイヴは、急いで青年の元に走っていった。


 イヴは走る。走っているとき、何度も転びそうになった。それでも、イヴは走り続けた。

―早く!早くしないと―

 やがて、壁に寄りかかっている青年の姿が見えてきた。青年は、眠っているようだった。手には、ライターが握られている。

「・・・・・・ギャリー?」

 返事はない。イヴはしゃがみ込み、軽く青年の身体を揺すってみるが、やはり反応がない。

「起きてよ、ギャリー・・・・・・」

 やはり、返事はない。青年は眠ったまま、目を覚まさない。手には、ライターが握られていた。


―どうして―


 イヴの目から涙がこぼれそうになる。イヴは必死に涙をこらえると、自分のポケットを探る。ポケットから取り出したのは、青年―ギャリーからもらった黄色いキャンディだった。イヴはそれを口に含むと、ギャリーの手に握られていたライターを手にし、ポケットに入れる。


 イヴは青いバラの花びらが散っている部屋に戻ると、ライターでイバラを燃やし、奥の階段を上っていった。階段を上ると、部屋の奥に額縁が飾られているのが目に映った。

「イヴ!?なにしているの!?」

 イヴが振り返ると、そこには部屋を出ていったはずの金髪の少女が立っていた。

「なんで・・・・・・どうやって、この部屋に入ったの?」

 金髪の少女が一歩歩みだす。イヴは思わず一歩後ろに下がる。

「ここはダメ・・・・・・ダメよ!お願い、早く出てって・・・・・・。はやく・・・・・・はやく!ハヤク!!早く!!!」

 少女の表情がだんだん険しくなる。イヴはその少女のただならぬ様子に圧倒され、さらに部屋の奥に後ずさりしてしまった。

「出ていけえぇぇええぇぇええ!!」

 金髪の少女はパレットナイフを取り出すと、まっすぐイヴに向かって走ってくる。イヴは、部屋の奥に逃げる。逃げた先にあるのは、額縁だけの絵。その下に書いてあるタイトルを読む。


『メアリー』


 後ろを振り返ると、金髪の少女はすぐ目の前に迫ってきていた。少女は、パレットナイフを振りかざす。イヴは、咄嗟にライターの火を点けようとする。何度か火花が散ったあと、額縁だけの絵に火が点いた。

「イヴっ!お願い!やめてぇ!」

 少女の悲痛な叫びが部屋に響く。絵が燃え出す。すると、金髪の少女にも火が点き、燃え出した。

「あ・・・・・・!やだ・・・・・・」

 少女の悲鳴が部屋に響き渡る。火の中の少女は涙を流していた。イヴに向かって手を伸ばすと、そのまま燃え尽きてしまった。


―どうして。どうしてなの―


 気が付くと、イヴは明るくなった美術館に立っていた。イヴの目に映ったのは、紫の髪にボロボロのコートを着た安らかな寝顔をした青年の肖像画。イヴは、その肖像画のタイトルを見る。


『忘れられた肖像』


―どうして、みんないなくなっちゃったの―

 

 イヴの頬に一筋の涙が伝った。イヴは、その涙を拭うことなく、ただただ目の前の肖像画を見ていた。どこからかお母さんの声が聞こえてきた。


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