14.3話 少年、成人になる(後編)
(´・ω・`)遅くなりました。
真っ先に槍を振るったのは、前回の儀式を通過できなかった一人ベネルだった。
「ハァッ!」
――ガキィィィン!!
裂帛の気合と共に槍が鱗を貫かんと突き出される。
金属を打ち合わせたような甲高い音と共に、切っ先からは火花が飛び散った。
構えを取り直しながらチラリと背後の竜の置物を盗み見るが、置物はピクリとも動かず何の反応も見せない。
「まだまだぁ!!」
先ほどよりも更に気合の入った怒声を張り上げながら、より激しく槍を乱れ突く。
雨音のように金属がぶつかり合う音が周囲に鳴り響き、水飛沫の如く火花が舞うが一向に置物はピクリとも反応を示さず、ベネルは息もつかせぬ乱舞を続ける。
一方、もう一人の前回からの参加者であるルジールは槍を構えたまま、ジッと精神を集中していた。
構えた槍の刃先すら微動だにせず、外界の情報を完全に遮断して、ただ一点に集中力を研ぎ澄ませ……一閃。
――キンッ!
「……ダメだ」
一息の合間に振り抜いた一閃は、甲高い音と火花を散らすも鱗は全くの無傷であった。
最高の一撃が繰り出せなかったルジールは、再び槍を構えてさらに深い精神統一に入る。
他の参加者も各々のスタイルで鱗に傷を付けようとするが、竜の中でも最上級クラスの天竜の鱗は全く傷付く事はなかった。
一方、ドラグニールに強制参加させられた勇樹はといえば、張り付くように天竜の鱗を観察していた。
「うーん、触っているとゴツゴツとした皮みたいなんだけど、剣で突くと金属みたいな感触なんだよなぁ。傷を付けるのにも何かコツとかあるのかな? 見る限りは薄い傷がチラホラ見えるけど……」
「ユーキ、幾ら一日あるからってそんなにのんびりしていていいのか?」
「特に臭いは無し、見た目は白い岩にしかみえない。剣で突いた限りは簡単に傷付きそうにないか……一応、舐めてみよう」
「なぁ、お前は天竜様の鱗の前で何を……って、おい!? マジで何やってんだ!?」
「うーん、舌で触った限りは大体同じくらいの浅さだけどそれ以外で傷に法則性はないな。斬りつけた角度も長さもてんでばらばら、斬っても突いても深さは同じ、傷の位置も規則性はないから共通点は見られない……となると秘密は別のところなのか?」
慌てているニゲルを余所に、勇樹は指先よりも微細な凹凸を感じ取る事が出来る舌で鱗の傷を調べ、そこに深さ以外の共通項がない事に首を傾げる。
これだけ固い鱗を傷つけるならば、何らかの弱点が存在してそこを上手く突いて条件をクリアーしているのだと予想していたのだが当てが外れてしまった。
「となるとホントに個々の技量で何とかする必要があるのか……? でもそれなら赤爺が僕にこの試練へ参加させた意味が……よし」
「今度は立ち上がってどこへ……おい、諦めちまうのか!?」
フラフラと立ち上がってどこかへ行く勇樹を、他の参加者は横目で盗み見ながら嘲るように口を歪める。
しかし勇樹はそんな周りの様子など気にも留めずに、長老陣と並んで様子を見ているドラグニールに近づいて右腕を真っ直ぐ天へ伸ばした。
「赤爺、質問! この試練は現段階の僕でも条件を満たせば通過できる物ですか!?」
「可か不可かを問われれば、可能じゃな」
「ありがとう!」
それだけ聞いた勇樹は満足したように頷くと、礼を言って元の場所へと戻って行った。
隣で2人の会話を聞いていた長老陣は、笑いを堪えながらドラグニールに話し掛けた。
「赤賢竜様、今の話は幾らなんでも無茶が過ぎるのでは? この儀式を普人の子供が通過するなど……」
「ふぉっふぉっふぉっ、まあ見て居れ。彼奴は見ていて中々に飽きんからのう」
「はぁ……」
愉快そうにドラグニールがそう告げると、長老陣は怪訝な表情を浮かべながら勇樹の方に目を向けた。
一方、そんな会話がなされているとは露ほども考えていない勇樹は、必死に鱗を斬りつけているニゲルの脇で剣を素振りしていた。
始めは無視していたニゲルだったが、流石に気になって手を止めて話し掛ける。
「なぁ、素振りばっかしてても鱗に傷は付かねぇぞ?」
「今、ちょっと剣の具合を確認してるとこなんだよ。こっちに来てからは避ける特訓ばかりで全く剣に触ってなかったから、感覚が抜けちゃっててさ」
「ハッ、そんな調子で成人の儀を通過できるのか? 竜人の間じゃあ『一日槍を忘れた戦士は成人を迎えた若者に劣る』なんて言葉があるんだぞ?」
「あははー、たぶん大丈夫だと思うよ」
複雑そうに唸るニゲルに対して、勇樹は暢気に笑いながら剣を振り回す。
そして勇樹は暫くの間、他の竜人たちが挑んでいる鱗には全く目もくれず、どこからか持って来た丸太に向かってひたすら剣を振るった。
そうして、通過者が一人も出ないまま3時間ほどが過ぎた頃、ニゲルと同じ今年が初挑戦の竜人の若者のドルネルとクドルが不愉快な気持ちを隠しもしない不機嫌な雰囲気を漂わせながら、勇樹に近づいてきた。
「おい、そこの鱗ナシ。やる気がないのならさっさと儀式を降りろ。先ほどから見ていれば挑戦もせずに丸太に打ち込んでばかり、遊んでいるなら他者の邪魔だ。さっさと去ね!」
「そうだ。この成人の儀は我らにとって神聖な物、如何に赤賢竜様から頼まれた事と言えども真剣に挑まぬ者に、この試練を受ける資格などない!」
「おいおい……自分たちが上手くいかないからってコイツに当たんなよ」
突然やって来て好き勝手に言う2人の物言いに、何を言わんとしているのか理解したニゲルが肩を竦めると、2人の顔が瞬間に激昂に染まる。
そして、2人はニゲルに向かって槍を突き出した。
「ニゲル、何だその言い草は!」
「まるで我らがこの普人に難癖をつけているようではないか!」
「まるで、じゃなくて事実だろうが。コイツが目について鬱陶しいなら反対側にでも回ればいいだろ? 実際、他の奴はそうしてるワケだし」
「な、何故、我らがソレから逃げるような真似をしなければならないのだ! そもそもこの成人の儀は竜人族の為の物だ! それを鱗も無い者にやらせるなど……」
「よーし、やっぱそういう事か!」
ニゲル達が口論をしていると勇樹が突然声を上げた。
3人が何事かと振り向くと、剣が突き刺さった岩の前で納得したように何度も頷いている。
その様子を疑問に思ったニゲルは、勇樹に声を掛けた。
「なあ、一体どうしたんだ?」
「まあ、見ててよ! 今から面白い物を見せてあげるからさ!」
勇樹は自信満々に胸を張ると、岩に刺さった剣を引き抜いて天竜の鱗の前に立つ。
それを見たドルネルたちは嘲笑う声を上げた。
「なんだ? まさか、普人がその鱗に挑戦するというのか!? 止めておけ、竜人の戦士ですら傷を付けるのが精一杯……」
「セイヤー!!」
嘲笑う声など耳に入らない勇樹は顔の真横に剣を構えると、掛け声と共に真っ直ぐに剣を突き出した。
その瞬間、勇樹の中で何かが繋がって行くのを感じ取る。
バラバラな星を紡いで星座を描き出すように、ステータス、スキル、称号が一本のルートで繋がって勇樹の中で何かがカチリとはまり込む。
そして、内から湧いてきた言葉をそのまま口にした。
「【刺突】!」
何かに身体が突き動かされているかのような感覚に身を任せ、導かれるままに足、胴、腕へと連動して剣を前へと突き出す。
ボンヤリと光を放つ刀身は熱したナイフをバターに突き刺すように、僅かな抵抗の後に刀身の半分が鱗へと沈み込んで行った。
直後、背後に置いてあった竜の置物から光の玉が吐き出されて勇樹の頭の上で輝いて弾けた。
キラキラと魔力光が降り注ぐ中で、勇樹は両腕を天へと突き上げ飛び跳ねた。
「やったー! 実証成功! やっぱりそういう事だったのか。つまりこの成人の儀って……」
周囲が嫌に静かな事に気付いた勇樹は周囲を見回した。
すると、周囲にいた竜人たちは勇樹の方を見ながら口をあんぐりと開けて呆然とし、ドラグニールだけがしたり顔で勇樹を見ていた。
すると、顔を引き攣らせたニゲルが勇樹に話し掛けてきた。
「な、なあ、今のは一体どうやって……」
「今の? ああ、それはね!」
ニゲルの問いに勇樹が答えようとしたところで、脇からドラグニールの手が伸びて勇樹の口を塞いだ。
ドラグニールは立てた指を口に当てて静かにする仕草をすると、勇樹の頭に手を置いた。
「ユーキ、その辺にしなさい。その答えはお前さんが自力で導いた物じゃが、それを他者に与えてしまってはこの試練の意味が無くなるからのう」
「はーい、でも何でこんな簡単な事を試練にしてるの? この世界の住人なら寧ろすぐに気が付きそうな気がするけど」
「足元の石は、躓くまで気が付かんものじゃよ」
そんな物かと勇樹は首を傾げた。
勇樹がやった事、それは自分が修得したスキルや称号を意識的に攻撃に乗せただけである。
この世界ではスキルや称号は持っているだけでステータスなどに補正が掛かる。
それだけでも十分に効果はあるが、それを意識的に繋げる事で効果を相乗させる事が出来る。
勇樹がやった事はスキルを連動させて技のように放っただけ。
つまり、竜人の成人の儀とは今まで培った技術の集大成として技スキルを発現させる為の儀式である。
それに気付いた先人が槍を突き立てたりしていていないのは、あくまでもこの儀式は自分たちが培ってきた“武”を天竜に示す儀式だと理解しているからであった。
ちなみにそれ以前に最速の通過者が出ていなかったのは、万が一にも攻略法が若者に漏れないように通過が確定しそうな者には事情を話して時間をズラして始めさせていたからである。
前回からの参加者である2人も日が落ちてから本腰を入れる予定だった。
何はともあれ、こうして勇樹は過去最速で成人の儀式を通過した。
これによって勇樹に対する里の若者たちの反応は軟化するが、里全体としては溝を大きくしてより面倒臭い事になっているに勇樹は気付いていなかった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




