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報酬は世界の半分  作者: 麦ちよこ
中山の本気編(改稿前)
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37.部長何やらかしてんですか

 何やら部長はやらかしてくれたらしい。その軽い口調に見合う軽い案件であることを祈るのみである。私はそっと情報端末である金属板に手を触れ、悟君1号のログを遡ることにしました。


 促進部は発展途上の世界に神様的介入をする演劇集団です。多くの構成員は役を演じることができたり、人の機微に聡かったり、文章を書くことに優れていたり、知識の広さに定評があったり、何かと騒動が起きる発展途上の国に劇的刺激を与えられる者たちが多くいたりします。その促進部長は、ある意味会社の部長であったり、劇団長であったりもするのですが、元々その集団の中では役者でありました。

 団長まで上り詰める役者、その評価はある意味信頼と言っていいものです。何を言いたいかといいますと、その部長がこんな大舞台で何かやらかしたりしないという過信があったりしたのです。


「ログ見ましたけど、これって。やらかしたって笑えるレベルじゃないじゃないですか」


「やっちゃったぜ」


 件の部長は悪びれる様子もありません。私はどうしようもなく頭が痛い。頭痛が痛いのレベルで痛い。がっつり計画変更レベルのミスを犯してくれています。


「たしかにおちょくるだけの役と言いました。言いましたけどこうもいいましたよね?一番優先するのは神子が鬼人を関知しないように撹乱することだって」


「おちょくるのがつい楽しすぎて忘れてた」


「おちょくるのはついでです。本来の役目完璧放り投げましたね。何しに世界におりてたんすか」


 部長の役割はただ一つでした。神子が冥界の動きを関知してしまうのは仕方がないとして、準備が整うまで鬼人に気付かないように神子をちょろちょろおちょくりにいくことです。部長のおちょくり具合はある意味冥界では評判がいいものでした。元デー管部長の暴挙により、世界データが足りなくなり、新世界生誕が滅亡する世界の数に追いつかなくなったため、あちらこちらほぼ全ての業務が四苦八苦することになっています。みんな腹に据えかねていたのでしょう。部長が神子をいじくり倒すたびにログの閲覧数は増え、ある意味みんなの希望の星、ちょっと調子に乗るくらいなら予想の範囲でありました。しかしこんなに主目的を放り投げて、おちょくる材料としてついぽろっと神子に「鬼人の存在」を自ら知らせてしまうとか。


「あなた馬鹿ですか」


「お前よりキャリアはあるんだがな。最近中山えらそうだぞ」


「でかいポカかましてきといてあなたの態度のほうが疑問を持ちますよ。ていうかこれでキャリアなんてズタボロですよ」


「だから報告にはきた」


「報告だけですか……」


 話ていても埒が明かない。問題なのはまだパート2の段階であると言うことである。大して魔法も使えず、大して分業化も進んでいない。ましてやオールラウンダーなんてものもいない。この状態の鬼人が神子と直接対決とかこちらが幾ら梃入れしてもバッドエンドです。せめて妖怪と人間が考えたり成長する時間を確保しないとめでたしめでたしにはならないのです。


「中山君、これはもうパート3同時進行がいいのではないかい?悟が新しい技術や魔法を教える。悟ブーストで時間短縮して技術火力そのへんは不自然だが整えてしまおうよ。神子も立場があるだろうからいきなり瞬間移動してきて焼き払ったりはしないだろうさ。守護巫女隊と1号がいるのもしってるだろうからゲリラ的にはなかなかこないと思う。都から奴らが来るまでの残り時間、許す限り人間側に鬼里を襲わせて本来のシナリオ、間に合わなかった里は襲撃シナリオなしで悟説得で隠れ家集合。これで無理やりパート2と3同時進行ではだめかい?」


 デューイさんは無理やり台本どおり進めるべきだといいます。確かにあらかた役者は守れますけれども、感情が追いつかなかったり疑念が多かったりでまとまるものもまとまらない気がして不安です。こういう集団ってなるべく脆さを出さないようにきちっきちっと固めなければいけない気がするのです。


「私は反対ですね。温度差が生まれますよ。先ほど話していた恋愛感情なんてその典型だと思いますよ。早すぎる流れについていけないものと縋るものがあって不動のもの、内分裂しませんかね?」


「ないとはいいきれないね。しかしながら人身掌握より時の運が大事になっていると思うよ」


 エバンスさんは反対。デューイさんは神子の方を警戒。


「中山」


「なんですか部長」


 元凶の部長も何か意見があるらしい。


「これはいつもの手でいくべきだと思う」


「いつもの手ってなんでしょうか」


「中山の得意なシナリオ書き直しだ」


 有り得ない。本作戦自体、基のシナリオ(魔法少女)から考えたらやり直し(悪の軍団)のやり直し(捕獲作戦)なのだ。一体幾つ台本を書いた?これ以上書きませんよ。書きたくありませんし。


「別にエンディング自体変えろって言ってるんじゃない。中身の不都合を幾つか都合が良くなるように書き直すだけだ。見張ってたらデー管の馬鹿がいつ来るか位予想がつくだろう。到着予想から逆算していらんもん削れ」


 ちゃんとした不都合のないエンディングのために練りに練ったのが今回のシナリオなのですが。いらないものなんてないのですよ。全部必要事項でした。そして部長のせいで全部狂いそうです。


「あなたの責任ですよね」


「今作戦の最高責任者はおまえだろうが。お前のミスはお前のミス。俺のミスもお前のミス」


 ものすごく腹が立ちますが言い返せません。彼を信用して任命したのも私です。元上司ですけどもこれはちょっとないんじゃないでしょうか。なんだかめらめら、いらいら、なんともいえない感情が蘇ってきます。そもそも、全て悪いのは元データ管理部でしょうに。というより責任云々の話ではありませんね。言い出したのは私でしたが。腹は立ちますが、今は時間が惜しい。一旦世界の時間を止めるべきかもしれません。


「中山君、部長を擁護するわけではないけれど、付け焼刃であーだこーだいうより本筋守るためにもその方がいいのでは?」


「そうですね。何より彼は勘だけはいい」


 遠慮がちに悟の中身、2号と3号が台本書き直しを進めてきます。


「いいでしょう。ちょっと本部に顔を出して通達を出してもらいます。今回のミスにより台本修正をする。そのために一時世界の時を止める場合もあると。簡略化すればいいのですね?他にも要望があれば個人でメモ送ってきてください。しばらく缶詰します」


 本部までワープして退室するとき、かすかに部長の声で「すまんな、時間がない」と聞こえた気がしました。それは少し私を冷静に戻してくれて、同時に、何か私の知らない事情でしたことであって部長はそこまでばかではなかったなと思い出させるものでした。

 何か知らない事情がまた私の台本に関わってきている。それに対して私ができるのは、また、台本を書くことだけしかないのでした。

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