馬路まんじ参上
闇夜に溶ける黒い影。
これは比喩ではない。奴らは実際に黒くベタベタした粘液が全身から滲み出している。
その見た目は人型をしているが、目、耳、鼻、口がなく、のっぺらぼうの様相ながら、何かを嗅ぐような仕草や、聞き耳を立てているような行動を取った。
そして、半径30m以内に人間を感知すると、即座に追跡。粘液でベチョッベチョッと気味の悪い音を立てながら接近し、人間を捉えると、顔が半分に割れて、蛇のように丸呑みにして捕食してしまう。
2026年。突如として湧き出したそれらの存在を【アンチ】と呼称し、政府は国民の混乱を避けるためにその存在を隠匿。そして対抗策として特殊自衛隊【MMG】を設立した。
だが、アンチはいつどこに現れるかは全く分からない。
MMGは常に後手に回らなければならなかった。
「うわあああああ! 助けてえええ!」
深夜0時。アンチが出現する。
狙われたのは、寝付けずにコンビニへと向かう途中の少年だった。
まるで水浸しの長靴で歩いているような不快な足音に振り返った少年は、黒いのっぺらぼうの姿を目撃した瞬間、固まってしまった。
迫り来るアンチの突進をただ受け入れるしかなかった。
アンチの顔が割れる。その外観よりも暗黒の咥内に誘われる少年。
身体を軽々と持ち上げられて、足先から徐々に丸呑みにされていく──。
喉が引き攣って声も出せない。
おしっこを漏らしたが、すでに下半身はアンチの喉の奥にあった。
「たひゅけ……だ、だれか……」
怯える眼差しが最後に見たのは──。
「う〜ん、やっぱりアンチのお肉は美味しいンゴねえ~♡♡♡」
──アンチの左手をあむあむと頬張る、謎のおっさんだった。
「深夜に散歩してたらお腹すいたンゴよ〜♡」
「アギッアギッアギッ」
アンチは歪な悲鳴をあげた。自分こそ捕食者であるという思い上がりを、いま、一瞬にして砕かれたのである。
「あっ! あっ! あっ!」
少年もまた恐怖に慄いた。
このおっさんが、バケモノに捕まった自分を助けてくれる存在とは、到底思えなかったからだ。
バケモノが増えた。
そうとしか思えなかった。
三名の特殊自衛隊がその場に駆けつけた時、そこにはもう誰もいなかった。
かわりに、ブロック塀に、黒い異臭を放つペンキのようなもので書かれた文字があったので、それを洗い落とす作業に従事した。
『馬路まんじ参上!』




