悪役令嬢、死刑になる
今書いている作品の息抜きに書きました。時々ぶっ飛んでいるキャラクターが出てきますがご了承ください。世界観を壊さない程度にヤバい奴ら登場していきます。
誤字脱字は教えてくれると嬉しいです。
―――何で。
薄暗い空間。私を囲むように数十人の裁判官が私を見下ろすように座っている。私はというとボロボロの服に身を包み、手を重々しい手錠で繋がれ正面に座っている偉そうな男を睨むように見上げた。
「被告。エル・ウルスラグナ・ノーゼンフィールド。国家への重大な反逆行為を企て、実行しようとした罪でノーゼンフィールドの制を剥奪。全ての記録から削除した上でギロチンでの処刑とする」
―――ふざけんな。
「しかし、此度の件は彼女一人が引き起こした事であり、ノーゼンフィールド家は巧妙に隠匿されたことによりその一切の計画の詳細を知らなかった。だが、貴族であるノーゼンフィールド家から反逆者が出たのは事実。故に情状酌量の余地ありとして当主。ジョン・エルシャーラウィ・ノーゼンフィールド公爵を伯爵へと降格処分。資産の四分の一、並びに領地の四分の一を没収。以下を此度の伯爵への罰とする。これは、アースノ―王の寛大な処置である。ノーゼンフィールド郷。異存はないな?」
私の後ろ。仕切りの向こう側にいる家族。母と父、それと妹。母と妹は今にも泣きだしそうな表情で私から顔を背ける。父は苦虫を潰したかのような顔で俯いたままただ一言、私に聞こえる声で「すまない」と言った。
「異議なしと受け取る。ではこれにて裁判を終了する。大罪人は地下牢へ」
カンカンと木槌ガベルの叩く音がこだまする。私の判決の決まった音だ。
「お姉さま!」
「よせ!」
連れていかれる私の手に何かを握らせる妹。それを静止する父。裁判が終わった今。貴族でもなければ家族でもない。唯の大罪人だ。そんな私を姉と呼べば、反逆に共謀していたとして同じ罪に掛けられる。
それなのに連れていかれないのは一重に妹の人望のなせる業だろう。
私は家族に小さく微笑むと、視線を家族の奥の方に移した。
そこには男女が私を見ていた。一人は私の元婚約者。この国。アースノー王国の王子であり、王位継承権第二位。私に冤罪を掛けた男。アダム・ガルグリット・アースノー。金髪の髪を揺らし、やってやったと言いたそうな憎たらしい表情で私を見ている。
もう一人はと言うと。私がここに居る原因を作った張本人。学園の同級生にして学び舎内の王子を含む上級貴族、その御曹司を何人も手籠めにする女。下級貴族、その令嬢である。アリア・ノス・アルテだ。
そいつはまるで自分が被害者かのような様相で目頭に涙を貯め、アダムの胸へと顔を寄せている。
―――ふざけんな。
私の歩幅を気にすることなく衛兵は手錠に繋がっている縄を乱雑に引きながら牢獄へと足を進める。この場所で抵抗する気はない。相手も薄々気付いているにも関わらず強引に、強力に、さながら物を移動するように私の腕を引くのだ。
「すまない。エル。許してくれ」
連れていかれる直前。また、父の声が聞こえてきた。父には何も罪もない。生まれて今まで、一時として両親から愛を感じないと思った事はなかった。人並み以上に愛され、また、私も人並み以上に家族を愛した。
そう、だから父。いいや家族は悪くはないのだ。唯の一遍すら家族には罪はない。
誰が悪いと定義するならば、当然、私を追い詰めた人。そして、対人関係を疎かにした私なのだから。
暗闇に向かいながら何が悪かったのか考えた。
元々、私の家。ノーゼンフィールドは父が戦場で功績を上げた末での貴族の称号。出世貴族の男爵であり、小さな領地を下賜され暮らしていた。
貴族では珍しく恋愛の末に結婚した父、ジョンは母、アリスを愛し。結果として、私と妹、シャルロッテがこの世に生を受けたのだ。
そして、時を進んで私が話せるようになった頃の事。
元々、平民出だった私の父は領地の運営が上手くなく。人を雇おうにも最低限、貴族として体裁を保つ為に雇わなければならない使用人数人の給料を払うのに一杯一杯だった家にそんなお金は存在せず。母の家の力を借りながら下手ながらも必死に運営を行っていた。
そんな姿を見ながら育った私は、小さいながら何か出来ないかと父が居ない時に書斎に忍び込み。本棚にあった本を読んだ。
その時、私は驚愕した。
一冊の本を読み終わる頃にはその全てを理解出来ていたのだ。ピースとピースが綺麗に嵌るように、何の知識的壁もなく、何の困難もなく。まるで、乾いた布に水が染み込むようにどんどん覚えていった。そして、その夜。夕食を食べている時に父に言った。
「私も領地の運営をしたい」と
最初は子供ながら気を使っているのかと微笑みながら私の頭を撫でた。しかし、私は今日、学んだ事を話し始めた。三分の一を言い終わる頃には両親の顔からは笑顔が消えていた。
それからは、とんとん拍子で進んだ。
残りの本を読み、時には外から教師を呼び私は学んだ。それと並行して、両親の手伝いをし始めた。
シャルロッテが話せるようになった時には、領地の収入だけで数倍になり、他貴族、商会への投資、特産品の開発、領地の開拓や道路整備......。私は領地の運営のみならず、ノーゼンフィールド家の一切の事を行っていた。
結果、今までにない以上領地が潤い、辺境に属しているにも関わらず、国内外問わず、多くの人が父の領地に足を運んだ。
その後、領地を見た他の貴族は私の知恵を借りたいと私の元へと訪れた。父の領地が安定した今、時間を持て余し気味だった私は二つ返事で了解し、領地の詳細な書類を見ながら問題を洗い出し、適格な改善案を出した。最初は、騎士爵の小さな領地。一年経った頃には公爵、辺境伯までもが私の助言を求めてやってきた。
両親が喜んでくれる顔が見たい。そう思いながら、求められた回答を求められた品質で答えた。
それに、応じて父の爵位が男爵から伯爵、侯爵。果ては私の王子との婚約に伴い公爵へと異例の速さで駆け上っていった。
当然。妬む貴族は大勢いた。しかし、それと同じかそれ以上に父には貴族達が付いていたのだ。争い事から嫌がらせじみた事まで、その全てを適任な味方貴族に頼み、潰した。
そんな様子を見た誰かが言うのだ。
『どんな人だろうと思った事は言い、辛辣な言動を平気な顔で吐き捨てる事からまるで悪役貴族、その令嬢のようだ』
そして、何時しか人は私の事を『悪役令嬢』呼び始めた。
そんな、不本意なあだ名と性格、言動が相まって私には友人と呼べる人は少なく、片手で足りる程。
どんな困難も潰してきた私でもどうしようもなくものはある。
それは権力。
ある日、いつも通り、学園に向かい講義を受けていた。そして、昼になる食事をとっている時の事。王子の食事に毒を盛られたと学園内が大騒ぎになった。
すぐさま兵士達が学園に現れ、生徒は勿論、講師までもが、持ち物が検査された。
迂闊だった。
他のクラスは兵士達が荷物を改める中で何故か私のクラスだけが、王子の信頼があると言う理由でアリアが検査を行ったのだ。そして、私の荷物の中から見知らぬ小瓶が出てきた。
それからは、光の速さだった。まるで、示し合わせたかの様に証人が現れ、現在に至る。
時刻は夜。鉄格子の嵌められた窓から月明かりが入り込み、冷たい牢内をわずかに照らす。
ここは、罪を犯した罪人が入る場所。自分には一生縁がないと思っていた場所に今、私は居る。そこは、人ひとりが過ごすには狭く。いつ壊れるか分からない程古いベッドとトイレ用なのか壺がおいてあるだけ。牢内は埃っぽく、何やら生き物が床を這っているのが音で分かった。
そんな場所に長年おかれたベッドには寝る気にはなれず、床を軽く手で払い綺麗にすると、そこに腰を下ろした。
「あのクソ女っ! .......」
今まで、口にした事がないような言葉が自然と出てくる。
幾ら、有力貴族を味方に付けようが、王族が敵になれば勝ち目はない。唯一私に理解があり、味方だった第一王子は外交の為、今国を留守にしている。おそらく、その隙を狙ったのだろう。でも、一体何のために?
「今となっては無駄ですわね......」
暗闇の中、手の中にあるシャルロッテに渡されたモノを見る。
「これって」
金で出来た懐中時計。私がシャルロッテの誕生日に何を渡したら良いか分からず。プレゼントしたモノだ。
何故これを私に渡したのか。そう思いながら色々な角度から懐中時計を見る。すると、時計本体の裏側に不思議な模様が刻まれていた。
数字でも、文字でもなく、......そう、それはまるで魔法陣のようなそんな複雑な模様。最初は妹が何かの宗教に入っていたのかと思ったが、そんな子じゃないと直ぐにその考えは霧散する。
胸のそこでグツグツと煮えたぎる思いを抑えながら手に持った懐中電灯を胸に抱き、夜空に浮かぶ月を見上げ、はぁ、と小さく息を吐いた。
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