Chapter:162 「何か別の生きものだ――」
テーブルにはアイボリーのカップが準備されていた。ちょっと覗き込むと、中身は淡い紫色の液体。ときどき、ぱちと音をたてている。
「スカフィード、ベッドありがと……わあ、フォルシー、どうして人間になってるの!?」
まずスカフィードに礼を言って、五月の視線と興味はすぐさまベッドの中のフォルシーに向いた。
「五月サン。フォルシーはケガをして休んでいるんですから、あまり話しかけてはダメですよ。お座りなさい」
出流にたしなめられてちょこんと腰かけた五月を見ながら、スカフィードが聞いた。
「どうしてこの人がフォルシーだってわかった? フォルシーとは姿が違うね」
「あのね……フォルシーの羽と同じニオイがした。あと、瞳がフォルシーと同じだった」
ふうん。とうなずいて、スカフィードは五月のもつ【感覚】をあらためて見直した。
「さて、まず【翼人】という者たちの説明からしようか……彼らは【翼持つ者】で、もとの姿はいつも見ている鳥の姿なのだよ」
「鳥だけど、人にもなれる、ってことだね?」
「そう」
寝汗をかきはじめたフォルシーの身体をぬぐいながら、スカフィードはもう少し説明をすることにした。
「彼らの仕事には大まか、二種類ある。各村や町で郵便配達などする者、私たちのような王族とか、執政官のような位の高い者に仕える者。フォルシーと私とは幼い頃からのつきあいだ」
「あぁ、そんならじゃあ、オレンジファイのディルが連れていた――――」
「パピヨンでしたっけ、ツバメのような鋭い翼の。あの方も【翼人】なんですね」
五月がカップを握りしめたまま、興味を示した顔になっていた。中身を飲むのは忘れているらしかった。
「【翼人】のひとって、たくさんいるの?」
「たくさんはいないけれど、そのかわり、【翼人】同士はほとんど顔なじみだ。さっきオレンジファイにパピヨンという【翼人】がいると言ったね?」
「うん、ぼくらが知り合った執政官の息子さんで、その人の連れてた【翼人】さん」
「彼女はフォルシーの昔なじみだよ」
「えっ、そうなの? パピヨン女の人っていうのもびっくりだけど、フォルシーとお友達だったんだ」
「そう。――――デストダも、ね」
そのひとことに、その場の空気が一気に緊張感を含むものになった。【翼人】同士のつながりが深いことはパピヨンとフォルシーが友人ということでわかるが、デストダの名がそこで出てくるものとは想像がつかない。
「……やはりデストダも【翼人】なのですね……それにしては、」
鳥の姿にならないね、出流が同じことを言おうとした瞬間に、五月がつなぐ。
「俺らの前に出てくるとき、いつでもあんな格好だよな、それこそ鳥で虫でカッパっつーか」
言って、博希がカップの中身をぎゅーっと空けた。
「もしあれが本当に、私の知る【デストダ】なら、だ。あれはデストダではない、何か別の生きものだ――」
「あまりにも異形ということですか。それにしても」