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第九話 別れと旅路

 家に帰り、俺は試験の一切と、二人が本当の両親でないことがわかっていることを伝えた。当然ながら両者共衝撃を受けたようだが、それでもどこか悟った表情を見せた。


「いつか、こういう日が来ると思っていた。予想よりも早かったけれど」


 父さんが告げる。次いで母さんも、


「そうね……セレス、本当のご両親に会いたい?」


 そう問われ……正直なところ、わからなかった。


「……わからない。けど一つだけ言えるよ。俺にとって二人が、父さんと母さんだ」


 それは偽りの本心だった。孤児だった前世知らなかった家族……その暖かさを教えてくれたのは、紛れもなく目の前の父さんと母さんだ。


 二人は――それで納得したようだった。親子の絆が途切れたわけじゃない。


「……ロベルドさん」


 そして父さんは言う。


「セレスのことを、よろしくお願いします……本当に」

「いいのか?」

「剣を振る姿を見て、この子はこの村に留まるべきではないと思っていました。セレスには目的もある……よろしくお願いします」

「私からも、お願いします」


 二人はロベルドに願う。それで彼も、納得したようだった。


「セレス……準備を始めよう。数日以内に、出発できるはずだ」

「うん」


 承諾する……そうしてどこか悲しくも、絆を確かめた一日が終わりを告げた。






 旅の準備ついてはロベルドが進め、俺はその間村で鍛錬もせず過ごした。彼が言うには「折角だから両親と一緒に過ごせ」と言われ、その言葉に甘えさせてもらった。

 父さんと母さんには、限りないものをもらった……それをいつか返せれば、と思う。もし邪神復活を阻止できたら――


「それでは、行くか」


 出立の日。村では少しばかり見送りがあった。村で過ごしていたロベルドが去る。彼は色々と村のために働いてもいたから、彼の見送りが大半だった。


「セレス、気をつけてね」


 母さんが俺に言う。こちらが頷くと、そっと俺を抱きしめた。


「あなたはあなたのしたいようにしなさい。私達は、無事を祈ってる」

「……ありがとう」


 離れる。母さんは悲しそうな笑みだったけれど……俺を引き留めるようなことはしなかった。

 父さんもまた俺を快く送りだそうとしている。その二人に感謝し、俺は笑顔で二人に別れを告げた。


 村の人達が手を振る中、俺とロベルドは旅立つ。俺――セレスにとってはこうして村を離れることはほとんどなかった。いよいよという気がした。


「相当な長旅となる。覚悟を決めろよ」


 ロベルドが口を開く。俺は「もちろん」と答え、


「砂漠へ直行だよね?」

「そうだ。とはいえ本当に遺跡なんてものがあるのかはわからないが……」

「わかってるよ。もし見つからなかったら……その時どうするか、改めて考えよう」


 無ければ邪神そのものが存在しないことに……いや、どこかに潜んでいる可能性はある。それを見つけるべく、旅を続けるべきだろうか?

 ともあれ、全ては遺跡を確認してから……ただ、今の俺には不思議と確信があった。遺跡が存在しているという、確信が。


「しかし、不思議なものだな」


 と、ふいにロベルドが言った。


「当該の遺跡があるのかどうか今の俺にはわからん……が、セレスを見ているとありそうな気がしてくるな」


 俺はそこで笑った……この世界は俺が描いた世界観が混ざっている。だからこその根拠なのだが、ロベルドが語ると説得力が増すな。

 さて……十歳という年齢は周囲からすれば早すぎるように思えるだろう。だが俺としては、想定していた年齢だ。


 今から遺跡へ行くことは間違っていないはず……そう心の中で思いながら、ロベルドと共に街道を歩み続ける。

 果たして遺跡は本当に存在するのか。そして俺が望むものと邪神を封じた少女、リュハがいるのか――


「……もしそうなら、遺跡にこもるくらいの覚悟がいるよな」

「セレス? どうした?」


 呟く俺にロベルドが問う。こちらは「なんでもない」と返答。


「ねえ、遺跡には何があると思う?」

「古の武器などだろう。ただ使える物があるかどうかは知らないが」


 そうした中に、驚くべきものが存在しているはずだけれど……それをロベルドが見た時、どういう反応をするのか。

 俺はそれについて口にはせず……ひたすら、足を動かし続けた。






 旅については順調で、一切問題なく砂漠の手前まで到着した。


「何をするのか知らんが、気をつけろよ」


 道中で乗せてもらった馬車の主が呼び掛け、元来た道を引き返す。ちなみに砂漠の手前に大きな町があるのだが、遺跡を探す場合そこが拠点になるだろう。


 砂漠の名はアルジレント砂漠。大陸南西部に広がるここは南の端や西の果てが海ということもあり、ここを通って進むようなメリットもない。基本は迂回であり、この砂漠の中を移動する人間は、自殺志願者かおかしな人ってところだろう。


 その中へ、俺達は突入する――砂漠は砂竜が跋扈している。中型の大きさでも人間を一飲みにできるくらいの大きさを持つため、気を抜くことはできない。

 なおかつ、気温も高くただ歩くだけで体力を奪われていくだろう。さらに夜は寒く環境も敵になる。


「荷物は全て私が持っておく」


 ロベルドが言う。その背にはテントや食料など、一式が詰め込まれたリュックが。いつも背負っている大剣は肩で担ぐようにして持っている。


「セレス、お前はまず冷気の魔法を使い無駄に体力を消耗しないよう歩け。夜は暖を取る魔法を私が使う」

「わかった」


 魔力を体の奥底から引き出し、体を冷やす魔法を使う。

 戦いについては相当な力を手にしているけど、だからといって無策で砂漠を延々と歩くなんてことはできないわけで。ロベルドの助言に従うことにしよう。


 砂漠へ足を踏み入れる。砂に足をとられそうになりながら、ロベルドの隣を歩く。

 ここから、あるかどうかもわからない遺跡探しの始まりだ。ロベルドからしてみれば首を傾げる状況かもしれない。けれど試練を乗り越えた俺と一緒に探してくれる……本当にありがたい。


 日差しの強さは相当なものだが、冷気の魔法を行使しているので暑さは感じず、さして問題なく歩くことができている。

 照りつける太陽も、冷気をまとうことによりある程度防げている。それでも日焼けくらいはするかなと胸中思っていた時、地面にわずかな振動を感じた。


「砂竜だな」


 ロベルドが呟く。


「地上に生物がいれば、砂竜はどういった存在なのかを調べ始める。地中で足音を聞き、その生物がどの程度の大きさなのか、また害はないのか……そういうことを」

「場合によっては襲い掛かってくる?」

「砂竜は一定の縄張りを形成するため、そこを出れば襲っては来ない。とはいえ縄張りの外は別の砂竜の縄張りだ。そういう風にこの砂漠は成り立っている」

「歩くだけでは大丈夫?」

「無用なことをしなければ突っかかってくることはない。元来おとなしい性格だからな。縄張りを速やかに抜けることができれば、地上に出てくることはないはずだ」


 ――そうは言うものの、これから赴く場所は人間が普段立ち入らない場所。そこで何が起こるのかわからない以上、常に警戒はしておくべき。


 俺とロベルドは無言で進んでいく。時折先ほどのような振動を感じるけれど、それ以外には何事もなく砂漠の中を進んでいける。

 冷気の魔法などを駆使して体力を維持しながら、砂竜に注意を払い目的地を求めさまよい歩く……長期戦になりそうだ。


「セレス」


 ロベルドが名を呼びながら立ち止まる。何事かと思っていると、


「先は長い。そう焦らず探そう」

「……焦ってるように見えた?」

「ああ」


 笑みを浮かべるロベルド。俺は頭をかきながら、大きく息を吐く。


 ……確かに、砂漠に入り気負い過ぎていたかもしれない。遺跡を発見したらどうするとか、あるいは見つからなかったらとか……色々胸中渦巻いていたが、ロベルドの言葉で少し心を入れ替える。


「うん、ごめん」

「よし、それでは進むぞ」


 ロベルドが言う。俺はそこで改めて、一緒に旅をする師匠に感謝した。


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