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神宿りの剣士  作者: 陽山純樹


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第六十八話 世界の真実

「過去、この世界で魔法が生まれた時、人間はそれを用いて様々な実験を行った。また同時に魔力で世界が満ちるようになって、幻魔という種族が生まれた」


 イザルデは語り出す。ロベルドなんかは隙あらば一撃差し込もうという気概を含んでいるように見えるが、踏み込まない。

 彼は理解している――それは通用しないと。


「そうした中で、邪神という存在は生まれた……それは最初自然現象であり、人が魔法を使ったことによる憎悪が膨らんだ不定形の存在だった。しかし人間はそれすらも貪欲に取り込もうとした」

「……人間が干渉したため、こんな結果が生まれたと?」


 俺はイザルデに問い掛ける。それに彼は笑った。


「そうだ。人間は深淵とでも言うべき魔力に魅入られた。様々な実験が行われ、その度に力が増した……魔物に近い性質でありながら、自らの意思で動かないその魔力は、人間のいいようにもてあそばれたわけだ」

「だが、やがて魔力が意思を持つ。だからこそ、お前がいる」


 こちらの言及にイザルデは「そうだ」と応じた。


「邪神本体ではないが、この俺の体はその時のことを克明に記憶している……最初の犠牲者は、また年端もいかない子供だった。研究者の親族なのか、偶然俺が安置されていた場所に迷い込み、魔力に触れてしまった。その直後取り込まれ……始めて、意思を成した」


 そう語った後、イザルデは冷厳な視線を送ってくる。


「肉体を得て、俺はこの世界そのものに憎悪した……いや、憎悪そのものと言っていい俺は、破壊する以外の選択肢など存在しなかった。気付けば研究者達は死に、施設を破壊し、町が壊滅し、国が滅んだ……そうして俺は、邪神としてこの世界に君臨した。だが」


 イザルデの目が、ロベルドやフェリア達へ向けられる。


「この俺の出現は、二つの面倒事をもたらした。一つは幻魔の凶暴化。この俺の魔力の影響を受け、それまでそう多く力を持っていなかった幻魔が脅威の存在となった。そしてもう一つが、女神の誕生だ」

「女神は、邪神に対抗するために生み出された存在だとでも言うのか?」

 問い掛けはロベルドから。それにイザルデは即座に首肯した。

「そうだ……女神もまた人為的に生み出された存在。神話の世界とは無縁の、より血なまぐさい世界が存在しているというわけだ」

「しかし、神話のように邪神は封印された、だろう?」


 ロベルドの言及。それにイザルデは頷く。


「そうだ……そうして邪神を管理する種族が生まれ、現代まで封じられていた……そうした中、邪神の聖域を暴いた存在がいた」

「それが、俺だというのか?」


 こちらの問いに――イザルデは笑う。


「お前はおそらくロベルドにも話していないだろう? 邪神を抱える少女は知っているかもしれないが」


 ……それはおそらく、


「俺のことを言いたいのか?」

「そうだ……この際だ。答えを教えてやろう」

「答え……だと?」


 フェリアが呟く。何を言っているのか理解できていない――これは当然だ。

 ただイザルデは彼女の声を無視して続ける。


「この世界は、一度終わっている……それも、全てが消え去った」


 奇妙な沈黙が、周囲を支配する。何を――と、周囲の面々は思っていることだろう。

 だが、俺は違った。もしかすると、俺は……。


「……邪神が復活し、世界が蹂躙されようとする中で女神もまた現れた」


 そこで口を開く。対するイザルデは沈黙。


「そして戦いを始めたが、邪神がいよいよ世界を破壊し尽くそうとした……そこで女神は、自分の息子に託した……幻魔の王と子を成し、この世界を救うために生まれた子供に力を託し、魔法を使った」

「そうだ。世界が消え去る中で、俺もまた消えようとしていた。だが女神はその寸前に自らの命と引き替えにとある魔法を発動させた。それはこの世界を再生するための魔法。それと共に、新たな世界を創生する魔法」


 そこでイザルデは、笑みを浮かべた。


「新たな世界を作り、そこに息子の魂を送り、この世界が完全に再生されるまで待つことにした……それを知った俺もまた、後を追うようにしてその世界へと入った」

「だからこそ、俺とお前は出会ったと?」

「そうだ……これは偶然ではない。必然の出来事だった。やがて創生された世界は役目を終え……つまりセレス、お前が死んだと同時に創生された世界も消え、戻ってきた……子供の姿となって」

「俺がこの世界を知っているのは……俺自身創生された世界へ送られる時に、託されたものか……結果としてそれが小説という形になった」

「正解だ。それと共にセレスは真実を知らないながら邪神が眠る聖域を訪れた……記憶を完全に保持していなくとも、何をすればいいのかは理解できていた」


 もしかすると小説という媒体で記憶していたからこそ、こうして動けたのかもしれない。もしあらゆる記憶……この世界の滅びの記憶が頭の中にあったのなら、尻込みしていたかもしれない。

 俺達の会話は、傍から聞いても理解できないことも多いはずだ。ただそれでも重要な情報であることはわかるためか、幻魔も騎士も沈黙を守り、奇妙な静寂に包まれる。


「予定外のことがあったため、俺もまた動いた……それだけの話だ。加えてもう一つ、一度崩壊したことによって問題も生じた」

「何?」


 眉をひそめた直後、イザルデはわずかに地面を下に向けた。


「女神がいない……命を賭して作り上げた魔法だ。自らを犠牲にしたことによって、世界は再生したが、今回は同じ手を使えない」

「つまり、ここで俺が倒れれば全てが終わる……と」


 俺は意味深な笑みを浮かべる。


「なるほど、な。よく理解できたよ、イザルデ」

「話はこれで終わりとしようか……さて、状況は理解できたはずだ」


 そう言いながらイザルデは魔力を高める。俺はそこから目を離さないまま、神域魔法を高める。

 俺が最後の砦……それを深く自覚した時、全身が一度震えた。けれどそれを無視するかのようにイザルデは左腕をかざした。


 勝つ……絶対に今度こそ。そんな考えを抱きながら、俺とイザルデはどこまでも魔力を高める。

 それは大気を震わせるほどの規模となる……魔力同士がぶつかり合ってせめぎ合いの様相。俺はそんな相手に負けないと強い決意を抱きながら、神域魔法を発動させた。


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