第六十七話 応酬
「……先ほどのセリフからすると、こうして幻魔や人間を集めたのは予定通りだと言いたいようだな」
フェリアが呟く。その視線の先には、イザルデが。
「この戦いで完全に決着をつけようという魂胆か?」
「ああ、その通りだ」
イザルデはあっさりと肯定。それに対し幻魔達が気配を発し圧力を加える。
「正直なところ、まともな思考とは思えないな」
「かもしれないな」
フェリアの追及にイザルデはあくまで冷静に応じる。
……見た目状、大勢は決しイザルデにもはや手がないように見える。彼の側近すら潰え、残っているのはおそらく少数の魔物くらいだろう。
だが……刃をイザルデに向ける幻魔達も理解できているだろう。目の前の敵……それがこの戦況をものともしないほどの力を有し、またこれだけの戦力差など意味がないのではないか、と。
「この俺を倒せる存在は、ただ一人」
そう言った後、イザルデは俺に視線を向けた。
「それを潰せば全てが終わる。そして邪神が復活し、世界が終わりを迎える」
「させないさ」
俺が前に出る。剣を抜き臨戦態勢に入ると、イザルデはわずかに笑みを浮かべた。
「そしてセレス。そちらはたった一人で俺に挑むよりも、こうして仲間がいた方がいいだろう?」
「……ああ、なるほどな」
もし仲間を巻き込むとしたら、俺は反射的に仲間をかばおうとするだろう。つまり、周囲の仲間達は俺にとって足かせ……イザルデはそう認識し、ここを決戦の場とした。
「さすがに、それは見くびられたものだな」
ロベルドが言う。次いで大剣を構え、
「決定打を生み出すには足りないかもしれないが、貴様の進撃を止めるくらいの力は持っているぞ?」
「ならば、やってみるがいい」
挑発的な言動。それに応じるようにロベルドが動き――同時、他の幻魔もまた動き始めた。
それと共に俺も神域魔法を発動させる。一気に魔力を高めた結果、周囲の空気を振るわせるほどの力となり、突っ込んでいくロベルド達の間を縫って魔法が――放たれた。
イザルデはロベルド達が放つ剣戟をまず迎え撃つ。彼らの刃が触れようとした瞬間に結界を構築し、その全てを防いでみせた。
なおかつ、俺の魔法もそれで防ぐつもりだった……ようだが、俺の魔法は結界を容易く破壊し、イザルデに一撃加えることに成功する――!!
直後、閃光と轟音が真正面に生じた。気配で幻魔達が後退していくのがわかる。そして当のイザルデは――
「――見事だ」
声がはっきりと聞こえた。そして光が消えると、彼はまだ健在。
「並の幻魔ならば今の一撃で勝負はついたはずだ」
「だがお前は違うと言いたいのか?」
「そうだ。俺だからこそ、この魔法に耐えられ反撃ができる」
次の瞬間、イザルデの周囲に黒い塊が地面から生じた。それはロベルド達を警戒させるに十分過ぎるもの。同時、闇がまるで洪水のようにうねりを上げ、仲間の幻魔達を狙ってくる。
果たして――俺がさらなる魔法で対抗しようとした瞬間、いち早くロベルドが闇に触れた。途端彼の体を包み込もうとする魔力。包囲されれば魔法によりズタズタにされる……が、ロベルドは持ち前の剣戟によって防ぐことができた。
続いてフェリアにも近づくが、それにマシェルがカバーに入った。魔法を連射することにより闇そのものの威力と勢いを殺し、もし当たっても大してダメージが入らないよう処置をした。
他の幻魔達にも襲い掛かったが、幸い連携がとれていたためか闇に飲み込まれるような幻魔はいなかった。そこで俺は再度神域魔法を発動。光が駆け抜け、またもイザルデの体を貫く。
生じる爆発と閃光。俺は見えないながら気配を探ると、ダメージを受けたにしろ超然としていると思われるイザルデの気配が。
「……そう簡単には終わってくれないか」
俺は呟きながら一歩後退。そこでイザルデが姿を現した。
「連携はきちんととれているのか……さすがだな。以前このように手を組んでおけば全てが消えずに済んだものを」
――何?
こちらが眉根を寄せると、イザルデは俺へと大げさに肩をすくめた。
「その話でもしようか? それとも、興味はないか?}
「……まるで、そちらは何もかも知っているという風じゃないか」
「その通りだ。俺はこの世界の真実を一つを知っている」
明言。それについて多少気にはなったが、俺は手をかざし次の魔法発動を準備する。
なおかつ他の幻魔達は士気が高いままイザルデへ武器を向けていた。一方人間の騎士団はやや離れた位置。モルバーを始めとした後詰めの幻魔は、ひとまず待機し様子を窺っている。
状況は変わっていない。いや、こちらはイザルデの攻撃を防いだことからも、次はさらに大胆な戦法で仕掛けることができるはず。攻撃の幅が広がった以上、上手くいけばイザルデの攻撃を封殺しながらこちらが攻撃し続けることもできるか――
「――この世界において、邪神という存在がどういう意味を持つか知っているか?」
イザルデからのふいの質問。しかし誰も答えない……いや、答えられないとでも言うべきか。全員が唐突な内容に、イザルデを注視している。
「邪神という存在はこの世界においてなぜ生まれたのか……人為的なものなのか、それとも自然発生したのか。まあ自然発生とは考えにくいだろう。実際その通りで、邪神は生まれるべくして生まれた、人為的な存在だ」
「……ずいぶんとまあ、お喋りだね」
フェリアが問い掛ける。それにイザルデは笑みを浮かべ、
「知りたいと思っている存在もいるからな」
文脈からして、間違いなく俺に対する言葉だな。するとフェリアは、
「その説明に何の意味がある?」
「この戦いがなぜ起こったのか、邪神の意味……なぜ俺がこんなことを教えるのは、実のところ大して意味はないさ。ただまあ、共に生活をしていたのだ。少しくらいはサービスしてやるのも一興だ」
――これもまた、俺のことに対して言及しているのか。
「命を賭した戦いが始まる前に、少しばかり聞いておくといい……この世界の成り立ちについてを、な」




