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神宿りの剣士  作者: 陽山純樹


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第五十九話 勝つための手段

 十日間――これがイザルデとの決戦前における最後の自由時間だと言ってもいい。それを有効に使うためにどうすればいいか……。

 もっとも、この短期間で急速に強くなる、なんてことはできないが……イザルデとの分身と戦ってみて、まだまだ課題が残っているのも事実。それを少しでも改善するべく剣を振る――それしかないか。


 というわけで俺は翌日、剣の鍛錬をするため屋敷を出て、少し離れた訓練場へ足を運んだ。すると、


「あれ……」


 見れば先客が。ロベルドとガドナ……。両者は向かい合っており、今から一戦交えようという感じに見えた。

 距離は一歩で間合いに到達するくらいには近い。俺はじっと両者を見据えていると、先にガドナが踏み込んだ。


 そこから――ロベルドが剣を縦に振り押し潰そうとする。だがガドナはそれを剣で受け流しながら回避。すかさず懐へ潜り込もうとするが、ロベルドがすぐさま剣を引き戻し応戦する。

 ――そして両者の剣戟の応酬が始まる。俺としてもじっくり見ていなければどちらが攻撃でどちらが防御なのかわからないくらいのもの。一歩間違えれば刃がその身に届いて切り伏せられるが……ロベルドはガドナの剣にしっかりと対応し、ガドナもロベルドの剣を見事に防いでいる。


 正直、イザルデの力がなくてもガドナは十分強いな――と感想を抱きながら、俺はなんとなく魔力精査を試みる。するとガドナは自身の魔力を上手く調節し、束ね身体強化の効果を最大限に高めていた。

 言ってみればそれは頑丈な糸を複雑に編み込んで強靱なものに変えているような……彼はどうやら魔力強化能力が高いみたいだな。もしかするとイザルデの力を得たことでその辺りの調整が困難になり、本来の持ち味が生かせなかった、という可能性もある。


 ここでロベルドがガドナの剣を大きく弾き、両者は距離を置いた。しばらくにらみ合いが続いていたが、やがてロベルドが構えを解き、


「ここまでにしておくか……セレス、そちらも鍛錬か?」

「ああ、うん」


 俺は頷き二人へ近寄る。


「そういう二人も?」

「鍛錬というよりは、体が鈍らないよう動かしている、といった程度だ」


 ……正直、死闘をやっているようにしか見えなかったのだが、あれで結構加減していたのか。


「ふむ、セレス……その目はどうやら悩んでいるみたいだな」


 ロベルドが言及。幼い頃からの付き合いだから、さすがにわかるか。


「……俺自身、イザルデの分身と戦ってまだ足りないと痛切に感じているんだ」

「気持ちはわかるが、十日で一気に強くなる、というのは難しいぞ」

「わかってる……でも、できる限りのことをしたいから、今こうして悩んでいるんだけど……で、とりあえず剣を振ろうかと思って」

「なるほど、ならば私とやるか?」


 ロベルドとの訓練は久しぶりだな……俺が頷くと、ガドナは身を退き今度は俺とロベルドが対峙する。

 さて、訓練とはいえ下限なんかすればたちまち吹き飛ばされるだろう。ならば――俺は手に力を込めてから、一気に駆け出す。


 ガドナは俺達の戦いを観戦する構えであり、それを認めた瞬間、俺とロベルドは激突した。


「――神域魔法は撃たないのか?」


 鍔迫り合いとなった状況でロベルドが問う。こちらは苦笑し、


「さすがに訓練では、ね」


 彼としては神域魔法を駆使した俺に挑みたいという考えなのかもしれないが……俺はあくまで身体強化でロベルドを押し返した。

 一度距離をとるか、それとも追撃するか……俺は後者を選択した。一気に攻め立てる……そういう意図を持って、俺はロベルドへ剣を放つ。


 途端、俺の刃がロベルドへ殺到する……が、相手も冷静に対処。その全てが弾き落とされ、回避されてしまう。


「……ふむ」


 ふいにロベルドが呟く。何事かと考える間に俺はさらに剣を見舞った。


 それに対しロベルドはまたも真正面から防ぐが……何かを考えているような顔が少しばかり気になった。俺と斬り結ぶことで何か考えついたのだろうか?

 そんな疑問を感じながらも俺はさらに一閃。けれどその全てを撃ち落とされ……徒労感がわずかながら生まれた。


 しかしここで油断していると足下をすくわれる……よって俺は最大限の警戒をしながらロベルドと戦う。わずかでも気を抜けば一気に差し込まれる。それだけは避けたいところ。

 そうして幾度かやりとりを行った後、ロベルドは突如後退した。俺が追撃しようか迷ったが、ロベルドの動きは素早く俺がどうにかするより前に間合いを離れていた。


「セレス、一つ忠告しておこう。もっとも、それを聞いてどうするかはセレス次第だが」


 そう前置きをして、ロベルドは語り始めた。


「イザルデとの戦い……それに対しセレスは悩んでいるわけだが、その切り札は間違いなく、神域魔法を用いた技術だろう。それを剣で当てるのか、それとも他の魔法のように扱いのか……こちらとしては剣ではなく魔法として使った方がいいのでは、と思っている」

「どうして?」

「こうして剣を打ち合ったらすぐにわかるが、セレスは確実に強くなった。とはいえまだまだセレスは経験が足りない。それに対しイザルデは戦歴もある。ここを埋めるのは容易ではない」

「戦歴から、イザルデには剣技などに対応できる手段がある……剣術で挑みかかるのはまずいってこと?」

「そうだ……この十日間で技術を鍛え上げるという手法も存在する。だが、それでイザルデに傷を負わせることができるのかは、不透明だ。もしやるなら、もっと確実な方法を選ぶべきだな」

「確実な方法?」


 こちらの疑問にロベルドは笑い、


「神域魔法の強化……十日間でどれほど向上できるかは不明だが、剣術よりも魔法を優先させた方が効率はいいと思うぞ」


 加え、神域魔法強化により剣術の威力なども上がる……か。


「ま、神域魔法についてこちらが把握していることはほんの一部であるため、何か事情があって修行をしていないのならば申し訳ないが――」

「いや、助言ありがとう、ロベルドさん」


 こちらの言葉にロベルドは視線を重ね、


「その様子だと、一つ察したようだな」

「うん……おぼろげながら、十日間で何をするべきなのか、見つかった気がする」


 俺は述べてから――ロベルドにその内容を伝えた。


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