第六十話 始まり
一通り話し終えると、俺の意見にロベルドは賛同した。
「ああ、それで問題ないと思う……イザルデに対抗するには、な」
「でも、これだと――」
「わかっている。セレスに全ての責を負わせるつもりもない」
そこでガドナも頷く。もしイザルデと戦うことになれば、彼らが俺の考えに乗って援護してくれる、というわけだ。
「十日あまりの期間だが、集中してやれば一定の成果も出るだろう……こちらもできる限りのことをやる。セレスもまた、励め」
ロベルドの言葉に俺は頷く――そうして、修行が始まった。
それからの十日間は、穏やかに時が流れた。訓練を毎日やっていたわけだけど、朝から晩までひたすらイザルデを戦うための鍛錬を繰り返し、また近くにはリュハがいて俺のことを見守る。時折一緒に魔力制御の訓練などを行い……それは遺跡で過ごした時のように、とても充実していた。
現在主要な幻魔達を招集しているわけだけど、フェリアが調べたところによればイザルデの妨害などはないとのこと。加えて幻魔モルバーとも話し合いを行い、最終的に彼もまたこちら側に協力することを約束した。
また、ロベルドの他にマシェル、ガドナ……加えてリイドやブロンは俺が使役する形となるため、全員がイザルデとの戦いに備える準備を行う。リイドやブロンは元々イザルデの部下であるため抵抗はある様子だったが……次第に考えも変容していった。
「お前達の陣営について、生き残ることに賭けるしかなくなった、とでも言うべきだな」
そんな言葉がリイドの口からもたらされる。
「まあ、こうなってしまった以上は腹をくくるさ……勝てるように、な。あとはきちんと生き残れるかどうかだ」
「死なせないよう頑張るよ」
「頼むぞ」
そんなやりとりを交わし……リイドもまた鍛錬に勤しむ。といっても十日でやれることはそう多くない。まあどこまで実を結ぶかわからないけれど、やれることはやっておくという雰囲気のようだ。
そうして三日ほど経過した時、フェリアの屋敷を訪れる者が現れた。フェリアが招集した幻魔であり、彼女を始めロベルドなどとも親交がある存在。
一日、また一日と経つごとにそうした面々が現れる……なおかつ彼らが口々に述べるのは「イザルデの暴挙を止めなければならない」ということだった。
暴挙――ここを訪れた幻魔は皆そう口にする。全員がイザルデの動きを不安視し、またどうすべきか思い悩んでいた様子。そこにフェリアとロベルドの存在……二人に結びつくのは当然のことだった。
イザルデに反旗を翻そうにも、勢力が強く手出しができなかった……なおかつ幻魔は個が強いためまとまりもない。しかし今回ロベルドとフェリアが呼び掛け……ついに一堂に会することとなったわけだ。
単純に呼び掛けただけでは集まらなかっただろうと、ロベルトは語る。一番大きな理由は、イザルデを打倒できるだけの力を持つ存在――俺がいたからだ。
「正直、どのような経緯で女神との子を成したのかわからない」
そうロベルドは、鍛錬が終わったある日、告げた。
「女神の存在については不明瞭な点があるな……とはいえ、それを解明するのはこの戦いが終わってから、か」
「正直、俺としては調べられるのかわからないけど」
こちらが述べるとロベルドは笑みを浮かべた。
「女神そのものは実在していたんだ。そう考えれば十分調べる余地はある。セレスを生んだことからも、足跡を辿ることはできるからな」
「そうだね……」
まあ決して急ぐ必要性もない……戦いが終われば時間はいくらもである。
「ともあれそういった未来へ行くためにも……イザルデを倒さないと」
「ああ、そうだね」
ロベルドは同意し――俺達は短い時間の間にやれることを果たす。
日が経つにつれて幻魔は集まり、また反撃の態勢が整っていく。イザルデがこれに気付いていないはずがないと思う……けれど、マシェルやガドナさえも寝返った状況から、攻めるのは不利だと悟ったのか。
あるいは、俺を滅するために準備を進めているのか……そうした考えを抱きながらも俺はひたすら訓練を重ねる。絶対に、この手でイザルデを倒すために――
そして十日が経過し――俺達はいよいよ出陣する。
「よし、と」
旅支度を整えた俺が部屋を出ると、廊下でロベルドとリュハが待っていた。
「セレス、いけるか?」
「ああ、もちろん」
こちらの言葉にロベルドは頷き、
「ならば……行くぞ」
「セレス……」
そこでリュハの言葉。俺は彼女を見返し、
「リュハについては、途中まで一緒に行くってことで了承は得てある」
「屋敷にいるのは……まずいってこと?」
「リュハのことを狙わないとも限らないからね」
その言葉に彼女は俯く……仕方のない反応ではあったが、
「リュハ、迷惑がるようなことではないさ……それに邪神をその身に宿したことは、リュハのせいじゃないし、俺は自分の意思でこうやって戦っているから」
「……うん」
彼女は頷く。それを見てロベルドに視線を送ると、彼は「行こう」と再び告げ、俺達を先導する。
やがて屋敷を出て門を抜けると……そこには多数の幻魔がいた。
「壮観だな」
ロベルドが呟いていると、後方から気配。振り向いて確認すると、フェリアがいた。
「準備はできたようだな……これだけの幻魔がいれば、いかにイザルデとて厄介だと思うことだろう」
告げた後、フェリアは幻魔達へ叫んだ。
「今回の戦いで、イザルデとの戦いに終止符を打つ! そして再び、この大陸に平和を!」
彼女の叫びに呼応し、幻魔達は叫んだ。
……いよいよ、最終決戦が始まる。イザルデ――シャルトと出会ったら……俺の中で思惑はあったが、ひとまず俺はそれを押し殺し、ヤツを倒すことだけを考える。
俺は一度深呼吸をした。次いで前を見据えた直後、騎士ラノンが幻魔達に指示を送り――移動を開始。今まさに、戦いが始まった瞬間だった。




