第五十四話 新たな襲撃者
以前の話し合いで聞いた内容によれば、幻魔マシェルは魔女でガドナが戦士。戦士はわかるが魔女というのは――
「周囲が勝手にそう言っているだけで、実際は幻魔の中でも比較的珍しい魔法使いといった解釈でいい」
俺が疑問を呈すと、フェリアはそう答えた。
騎士ラノンの報告を受け、フェリアはすぐさまロベルドなどに情報を伝えるためラノンを屋敷へと向かわせた。俺とフェリアはひとまず待機という形ととなり、こうして話をしているのだが……。
村の人間についてはラノンが既に避難指示を出しているらしく、俺達はそう急いで動く必要のないらしい。
「戦い方についてもガドナ、マシェル双方戦士と魔法使い……字面通りの戦い方という解釈でいいだろう」
「俺はどうすれば?」
「ガドナについてはロベルドに対応できる。屋敷の中で話を聞いたが、イザルデがセレスのことを把握しているのなら、こっちも遠慮無くやらせてもらうさ」
「……仮に今回の襲撃に対処したら、次はどう出てくるかな」
「いや、もう攻められるようなことにはしない」
強い言葉だった。
「セレスが色々と動き回っている間に準備は進めてきた……知古の幻魔に呼び掛け、イザルデと戦う準備は整っている」
「大丈夫なのか? 例えばイザルデの味方だったりしたら――」
「そこは確かめているから問題ないさ……で、今回の相手だが、その目的はおそらくセレスに対する威力偵察だろう」
そうフェリアは語る。
「ラノンによれば所持している力は相当大きい……ロベルドのように操られているばかりでなく、力も与えられている……対処できるのはセレスだけとイザルデは考えているんだろ」
「俺の、か……けれど邪神の力を持つ以上は――」
「そこだ。邪神の力からの解放はセレスにやってもらわなければならないが、そこまでは私とロベルドでやろう」
思わぬ宣言……いや、これはある意味正しい手法か。
イザルデが幻魔二人をここへ寄越してきたのは、間違いなく俺の実力を確かめるため……ひいては剣の力を見定めるためだ。しかしそれを俺としては表に出したくないわけで、そうしないためにはフェリアやロベルドの力が必要になる。
「そもそもここで同胞を救える力すらなければ、イザルデと戦う場合だって足手まといにしかならないだろ?」
「それは……そうかもしれないけど……」
「幻魔は囮でその狙いはリュハ、という可能性も考えられる。今回セレスは彼女の護衛を」
その言葉で俺は頷く……と、屋敷からリュハが駆け寄ってきた。
「セレス、敵襲らしいけど……」
「リュハ、何か感じるか?」
問い掛けに彼女は目を細め、村のある方向を見据える。
「……少しずつ、邪神の力が近づいてくる」
「やっぱり力を与えられているのは確定だな」
「ある意味、これが私達がイザルデへ挑めるかの試金石になる」
そうフェリアは語る……確かに彼女の主張する通り、仮に邪神の力を持った幻魔にすら敵わないとなれば、イザルデとの戦いで出番はなくなる。
いや、より正確に言えばイザルデとの戦いに役に立たないだけで、彼の部下などに対しては対抗できる……とも言いがたいか。やはりここでフェリアやロベルドで邪神の力に対抗できるのか……それを確かめておく必要性はある。
「さて、それでは行こうか……リュハ、そちらは大丈夫か?」
フェリアの問い掛けにリュハはコクリと頷く。
屋敷にいても問題ないとは思うし、リイドやブロンに護衛を任せればいいのだが……不安要素もあるので、ひとまず彼女を近くに置く。屋敷の敷地を出て少し歩むと……真正面から人影が。
「――引導を渡しに来たわ、フェリア」
口を開いたのは黒いローブ、黒髪を肩まで伸ばした女性。色白の美人なのだが、その笑みが邪神の力と相まってひどく不気味に見える。
「やれやれ、まさかマシェル……そちらと戦うことになるとは、な」
「私はなんとなく予感がしていたわ。イザルデと相対してから」
「勝負を仕掛け、負けてこうなると感じたのか?」
「そんなところね。同士討ちさせるのが彼としては楽しいらしいから」
和やかに会話をするマシェルだが……その背には邪神の力が黒い魔力となって漂っているように錯覚させる。
そしてもう一方は戦士ガドナ……こちらもまた黒髪で、腰まで髪を伸ばしている。ただ鋭い目を持った男性であり、フェリアとマシェルの会話に口を挟むことなく、俺やリュハを一瞥し警戒している。
「そして、相変わらずガドナは寡黙なようだな」
ふいにフェリアが話をガドナへ向ける。すると反応したのはマシェル。
「そうなのよ。おかげで道中会話もなく退屈だったわ」
「それは残念だったな……さて、ここへ来た以上、痛い目には遭ってもらう」
「できるのかしら?」
「してみせるさ」
フェリアは応じ剣を抜く。そしてマシェルやガドナも戦闘態勢に……マシェルは両手をフェリアにかざし、一方のガドナは背中にかついだ剣を抜き放った。
始まる――事の推移を見守っていると、今度は後方から気配がした。振り向かずとも相手はわかる。ロベルドだ。
「待たせたな、フェリア」
「別に。戦う準備はできているのか?」
「無論だ」
俺の横を彼は通り過ぎる。既に大剣を抜き放ち、しっかりとした足取りでフェリアの隣へ並び立つ。
「後方にいる二人の出番はないの?」
小首を傾げるマシェル。彼女に俺の情報は伝わっているのか……?
「ああ。残念ながらな。もし戦いたいのであれば、私達を突破するんだな」
「あらそう……では、そうさせてもらおうかしら。ついでに屋敷も壊さないといけないわね」
物騒な会話を行った後、マシェルの両手に黒い魔力が現れた。邪神の力をどこまで御しているのか不明だが……イザルデが施した以上、相当な力を宿していると考えてもおかしくはない。
俺はここまで戦ってきた邪神のことを思い返し、マシェル達の実力を推し量ろうとする。もし厳しいようならば援護も入るけれど……その見極めは難しいな。
「ま、ここはフェリアやロベルドのお手並み拝見ってところか」
そう呟いた矢先、ロベルド達の魔力が周囲に溢れた。いよいよ戦闘開始――そう確信した直後、先んじてロベルドが動き始めた。




