第五十三話 屋敷への帰還
旅の道中の間に屋敷が襲撃されたら……という懸念を俺は抱いていたが、結果として何もなかった。そして俺達も道中で襲撃などはなく……屋敷へ舞い戻ることができた。
「無事だったか」
ロベルドが出迎える。こちらは小さく頷きながらも、補足を加えた。
「遺跡を訪れた際、イザルデに出会った」
「……何?」
「何らかの方法で、イザルデもまたあの遺跡に目星をつけていたみたいだな……方法はわからないけれど」
俺が転生した件については伝えていないのでそんな説明になってしまったのだが、ロベルドは口元に手をやり、
「そうか……邪神の力を抱えている以上、女神についてアイツも調べている、ということでいいんだろうな」
「たぶん」
頷く俺に対し、ロベルドは「わかった」と告げ、
「ともあれ、こうして無事に帰ってきたことはひとまず追い払ったと考えていいんだな?」
「うん。剣も手に入れた」
遺跡で手に入れた剣を見せる。ロベルドはそれを一目見て感想を漏らした。
「なるほど、強い力を秘めている……が、その力の正体が女神の力であるということは、指摘されなければわからないままだっただろう」
「そうだね。フェリアさんは?」
「屋敷内で仕事をしている。もうしばらく掛かるだろうから、作戦会議はその後だな」
「わかった……それでロベルドさん。イザルデは交戦した際に情報を口にした。俺の女神の力については把握していたみたいだ。そして、幻魔の力も――」
「なるほど、そうなればこちらのことは観察していなくとも、どういう状況かは推測している、というわけだな」
「たぶん」
「ならば、遠慮する必要はないってことか」
ロベルドは現在、イザルデのことを懸念し屋敷から出ていないが……彼が俺の能力を知っている以上、こっちが味方にしていることは当然確信しているはず。ならば逆に表立って動いてもいいだろう。
「その辺りフェリアと話し合うことにしよう。それでセレス、しばし休憩していてくれ」
「わかった。リュハ、行こう」
屋敷奥にある部屋へ。そして自室内で一人になり、改めて息をつく。
「……シャルト」
前世の友人の名前――その相手が邪神の力を持つ敵だとは。
そして、俺が転生したことなどについても理由がある……その内容がこの戦いを進めることによってわかるのだろうか? 疑問は尽きなかったが、イザルデとの戦いについて俺自身決して部外者ではない――というよりむしろ最たる関係者。ならば全力で挑まなければならない。
「この剣が、戦いの切り札になればいいんだけど……」
呟きながら剣を抜く。見た目は何の変哲もない剣。ただ柄を握っていてわかる。手先から伝わってくるその力は、紛れもなく女神のものだ。
「イザルデがこの剣を手に入れた俺に対し、どこまで警戒するのか……そこが問題だな」
ひとまず剣を手に入れて以降、襲撃はない。ただこれは準備をしているという可能性も考えられる。旅の道中襲うような真似をしなかったのは、幻魔との戦いに人間が大きく介入することを防ぐため、という可能性もゼロではないが……。
「あくまで幻魔との戦いに留めたい、ってことかもしれないな」
人間側も幻魔同士の戦いであればあまり干渉したくはないだろうし……イザルデとしても邪神の力を抱えてはいるが、人間側が敵に回ってしまったら至極面倒なことになる、という考えなのかもしれない。
そういう仮定を基にすれば、襲撃するのはフェリアの屋敷周辺で、という可能性は十分ある。剣の検証は早い内にやっておくべきか。
「よし、それじゃあ外に出て――」
部屋を出る。リュハの様子が少し気になったけど、俺は足を止めることはなく屋外へ出た。
剣を試す、といっても屋敷の敷地内で派手にやるようなことはない。まずは剣に魔力を込め、どういう挙動をするのかなどを確認しよう。
屋敷の庭先に立って、俺は剣を握りまずは魔力を込める。すると女神の力が剣に注がれる……のだが、ここまではこれまでの剣とあまり変わらない。
「とりあえず俺の魔力がすんなり入るのは間違いないけど……」
軽く素振りをしてみる。だが変化はほとんどない。
「うーん、目に見えた変化はないな」
例えば魔力を注ぐことで刀身が光るとか、剣に存在する魔力が増幅するとか、そういう挙動があればわかりやすいけど、そういうものはない。
となれば、実戦で試す他ないんだが……と、ふいに背後から気配。振り向けばフェリアが立っていた。
「無事戻ってきて何よりだ」
「仕事は終わったのか?」
「ああ。ひとまずな……そして新たな問題も発生した」
ロベルドから事情は聞いたようだ。
「それと剣の検証をしているようだが、首を傾げていたな」
「目に見えた変化がないから」
「そうか。ただ私達が助言できるようなこともないだろうから、頑張ってくれ」
「他人事みたいだけど、この剣の力を発揮できなければイザルデには勝てないぞ?」
「そう懸念する必要はないだろう。嫌でも敵は目の前に現れる。その時に試せばいい」
無茶苦茶だが……ま、それしかないのか。
「ちなみにだが、俺と剣を打ち合ってみるとかは?」
「却下だ。さすがに女神の力を持つ者が相手では向かい合いたくない」
……ロベルドに尋ねてみようかなあ。そんな風に思った時、遠くから鐘の音が聞こえた。
「……え?」
「敵襲だ」
フェリアが呟く。視線は鋭く、鐘の音が鳴り響く方角を見据えている。
「セレス、帰ってきて早々だが、戦うことになりそうだな」
「イザルデの一派……だよな?」
「おそらくな」
「俺達が戻ってきてから襲撃したのか?」
「その可能性は大いにある。イザルデとしては無闇に人間の領主がいる場所で襲うのではなく、私の領地にいる所を狙う……幻魔同士の争いということで人間が不干渉になるからな。イザルデとしても余計な妨害が少なくなるため、楽なんだろう」
俺が予想した通り……と、ここで騎士ラノンがフェリアへ駆け寄ってきた。
「ご報告が。敵襲……二人です」
「たった二人か?」
「はい。しかしその相手が厄介です」
その言葉と共に、俺は察した。人影が二つ。その数が意味するのは――
「敵はフェリア様と協力関係を結んでいた……幻魔マシェル様と、ガドナ様です――」




