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神宿りの剣士  作者: 陽山純樹


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第四十七話 邂逅

 遺跡の前に立っていた人物は……黒衣に身を包む魔法使いといった風体。発する雰囲気は貴族のように高貴であり、また同時にどこか近寄りがたい雰囲気も持ち合わせていた。

 けれど、俺にとって重要なことはそこじゃない……彼の顔つき、それは――


「ここに来るとは思っていた。そのタイミングがいつなのか判然としないところはあったが……情報を手に入れ、向かったのだと悟り準備をした」

「……筒抜け、だったってこと?」


 リュハが口を開く。すると相手は頷き、


「もっとも警戒する相手だ。注視していて当然だろう?」


 リュハは顔が引き締まる。自分のことが悟られているのか――などと思ったが、相手の発言は別方向だった。


「セレスこそ、俺にとって最大の障害だ……その動向を観察するのは、当然だろう」


 ――何も答えることができない。俺は相手を凝視し……やがて、


「……シャルト――」

「そちらは姿が変わっているが、俺はこの通りそのままだよ」


 両手を広げ――前世友人であったシャルトは、転生前と変わらぬ顔立ちで語る。


「もっとも、名は違うが……今の俺の名は、イザルデだ」


 まさか――疑問と困惑が頭の中で渦巻く。状況が理解できず立ち尽くすだけ。


「……さすがに処理仕切れていないか」

「どういう……ことだ……?」

「理由を語る道理はないな。まあここで果てるのであれば、死ぬ間際に解答を渡そうじゃないか」


 刹那、シャルト――イザルデの気配が増した。即座に俺は魔力を高める。頭は混乱していてもこれまでに叩き込まれた技術により自然と戦闘態勢に移行する。


「先に言っておくが、俺は前世のこともはっきり憶えている」


 そうした中でイザルデは告げる。


「そしてなぜ俺がここにいるのか、果てはなぜイザルデという存在になっているのか……その全てを知っているが、さっきも言ったように教える道理はない」

「知りたければ、力でねじ伏せろ……ってことか」

「察しが早くて助かる」


 ――俺は思考を無理矢理戦闘に引き戻す。わからないことばかりだが、目前に脅威が迫っている。迎え撃たなければならない。

 それと同時に魔力精査を開始。次の瞬間、俺はあることに気付いた。


「……分身、か」

「その程度はわかるか。できる限り本物に似せたのだが、魔力精査を持つお前には無駄だったようだな」


 ――彼のセリフにより、俺の技術についてある程度把握しているのはわかる。いや、それは当然か。

 彼は俺の物語を読んでいた。つまりこの世界のことを多少ながら把握している……この遺跡に辿り着いたのも知識として把握していたから。


 無論、疑問もある。いや、俺だけでなく彼がこうして存在している以上、前世のことについてさらに疑問が膨れあがる。あの世界とこの世界の関係は? いや、それ以前にこの世界は俺が描いた物語で片付けていいのか?


「始めようか」


 イザルデが告げる。考えたいことはいくらでもある。しかし戦わなければならないし、何より目の前の存在を倒さなければ、おそらく真実には近づけない。


「……リュハ、下がってくれ」

「うん」

「封印はしっかりと行っているみたいだな。俺が近くにいても影響はない様子」

「当然だろ」


 こちらに言葉にイザルデは肩をすくめ、


「彼女については、正直どうでもいい……邪神を宿す存在であるのは確かだが、さして関心があるわけでもない」

「そんなに邪神の力を漂わせていて……か?」


 こちらの問い掛けにイザルデは含みを持たせた笑みを浮かべる。


「そもそもお前がいなくなれば、いずれ邪神が世界を覆うことになる。関心がないというより、お前を倒し放置しておけばこちらの目的は果たされる」

「そういうことか……なおさら、負けるわけにはいかないな」


 その気配は、リュハが持つ邪神の力と何ら遜色がない。分身でありながらこれほどの……いや、待てよ。


 そういうことか――合点がいった。イザルデの語った内容から、俺のことはおそらくロベルドと戦った時点で気付いていたはず。

 ならばなぜここに現れるまで襲撃しなかったか……それはこの分身を作るためだ。俺のことを察し、俺を倒すために自らの分身を作った――これだけの力を持たせるのに、時間が必要だったということだろう。


 イザルデもまた、俺と同じように物語が始まる前に準備を進めた……そうした中で俺とリュハの存在を見つけ、とうとうここで邂逅した。


「……なぜこの場所を選んだ?」


 質問してみる。返ってくる可能性は低いかと思ったが、


「ここなら逃げ場がないからだ」


 そういう明瞭な答えが。なるほど、こんな場所で戦闘をしても退却できるような所はないし、誰かが助けに来るようなこともない。

 もし俺が敗れれば、その後フェリアやロベルドに狙いを定め攻め込むことになるだろう。先ほどリュハに関心はないと言ったが、実際どうなるかはわからない。


 絶対に負けることはできない……なおかつ、目の前の敵を倒さなければ戦いは終わらない。


「準備は、できたようだな」


 イザルデが語る……まるで俺の心情が落ち着くのを待っていたと言わんばかりの態度。

 こちらは黙って相手をにらむ。訊きたいことは山ほどあったが、本体と相まみえるまで解決することはないだろう。


「……話はいずれ、聞かせてもらうぞ」

「ああ、俺がいる場所まで到達できれば、教えてやろう」


 言葉と同時、イザルデが魔力を発した。この世の全てを取り込もうとでもいうような圧倒的な気配。そして逃れられないと確信させられる、濃密な魔力。

 それに対抗するべく俺もまた神域魔法を発動させ、女神の力を表層に出す。それは邪神の力を持つイザルデの魔力と衝突し、互いが絡まり合いやがて相殺していく。


「力は、互角かもしれないな」


 イザルデが言う。


「だがわかっているだろう? 分身に対し互角では話にならないと」

「ああ、わかっているさ」


 呼吸を整える……遺跡奥にある剣があれば状況も変わってくるのかもしれないが……ここで無理矢理突破するのは不可能。

 ならば、どうすればいいか……頭の中で作戦を組み立てる。神域魔法を活用して応じるにしても、おそらくイザルデは物語を知っているので何か策があっておかしくない。


 とすれば、俺のとるべき行動は……少なくとも裏をかかなければならないはず。


「……やるしか、ないか」


 一つ呟く。それが何を意味するのか――イザルデはそれを読もうとしたか目を細めたが、すぐに止めた。


「終わりにしよう、セレス」

「いいや、お前の敗北で終わりだ……イザルデ!」


 声を発し魔力を解放――リュハ以外の観戦者がいない中で、世界の命運を握る戦いが始まった。


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