第四十八話 激突
最初に仕掛けたのは、俺――神域魔法をイザルデへ向け一片の容赦もなく放つ。
それに対しイザルデは、避けようともしなかった。直後に光が彼の体を駆け抜けて奥に存在する女神の遺跡の中にまで到達する。直後、轟音が響き……それでもなお、イザルデは超然としていた。
「終わりか?」
「いや、まだだ」
決然と告げる俺はさらに魔法を行使する。今度はもっと……さらに強力な一撃を。
先ほどよりも輝く光がイザルデへ向け放たれる――しかしそれが直撃してなお、相手は平然としている――
「どれだけ短期間に……それこそ、物語が始まる前より力を得たとしても、無意味だ」
イザルデは告げる。それに俺はさらに魔法を高めて応じる。
「お前が生まれるよりも早く……俺は幻魔として絶対的な力を所持していた。その差は、どうあがいても埋まらないさ」
「――物語として認識しているのなら、なぜ俺が小さい頃に仕掛けなかった?」
その問いに、イザルデは肩をすくめた。
「まさか、本当に……お前がいるとは考えられなかったからな。それに、もしわかっていたとしても動くことはできなかったかもしれん」
「他の幻魔に動きを抑えられて……か」
「そうだ。邪神の力を得て、ようやく俺は全てを圧倒し自由に動ける状況になった」
――俺のことを把握している以上、やはり裏をかくようなやり方でなければ通用しないだろう。
なら、どうすればいいか……手はあるし実際にそれを遂行しているが、イザルデに気付かれたらまずいことになる。
さらに言えば、その策も賭けには違いない。
「ここにいる以上、少なくとも彼女の中に存在する邪神を封じ込めるだけの力は得たのだろう」
イザルデはそう語り……俺の後方にいるリュハを見据える。
「邪神本体と対等に戦える力を所持しているのは驚きだが、支配できない少女の器では邪神と言えど扱える力には限りがある。反面、この俺は違う。邪神の力を余すところなく活用し、この分身に注ぎ込んだ」
「だから俺は勝てない、と?」
「そうだ。この物語は始まる前に全てが終わる」
「させないさ、そんなことは」
告げながら俺はさらに力を高める――リュハの中に眠る邪神と戦った時を思い出せ。
さらに放たれる神域魔法。だがイザルデはそれを避けることも、防ぐこともせずただ受けるだけ。
「……絶望的な力の差、だろう?」
「そうやって立っているだけなのは、こちらに圧倒的な武威を示すためか?」
「そうだ」
返事をしながらイザルデは……両手を左右に広げた。
「終わりにしよう」
闇が、こちらへ差し向けられる。
俺はそれを両手を正面にかざして防いだ……が、圧倒的な魔力を前にして歯を食いしばる。
「くうっ……!」
凄まじい物量――リュハの体に眠る邪神と戦った際も、おそらくこれと同程度の力と向き合っていただろう。だがそれと異なるのはイザルデが魔法に卓越し、完璧な制御を行っている点。技術を身につけた邪神を前にして、発展途上の俺は窮地に立たされる。
「あっさりと勝負がつきそうだな」
「セレス……!」
リュハの声。そこで俺は両手に力を入れ、奮起する――彼女を一人にするわけにはいかない!
「おおおっ!」
気合いと共に俺は邪神の魔法を受け流す。力の流れを大きく逸らし、闇が――俺とリュハを避けるように右にある森へと流れていく。
そして木々に当たった直後――爆散した。途端に木々が灰のように変じ、一切合切が塵となって消え失せていく。
「なるほど、受けるのではなく流す、か」
イザルデの淡々とした言葉。それと共に、第二波の準備をしている。
「だがそれがいつまでもつ? 言っておくが、分身とはいえ十分な魔力を保有している。長期戦でも構わないぞ?」
彼の質問には答えないまま俺は剣を地面に突き立てた。それと同時に魔力を流し、地面を介し俺の魔力を広げていく。
「何をする気だ?」
問うイザルデは一瞬俺のことを警戒したが、
「いや……問い掛けの必要はないな。このまま押し通すまで」
さらに力を高める。受け流すことすらできないほどの力……それが目の前で放たれようとしている。
「セレス……」
再度リュハの呼び掛け。それに対し俺は、
「心配するな、リュハ」
笑って応じた。
「俺は死なない。そしてリュハも死なせない」
「残念だが、ここで終わりだよ」
挑発的な言葉と共に――イザルデの渾身の魔法が、撃ち出された。
それを俺は再び真正面から受ける――が、凄まじい圧力を前に踏ん張ることだけで精一杯な状況に陥る。
「こうやってせめぎ合いになること自体、お前が相当な使い手であることの証明だ」
イザルデが語る――その声は悠然としている。
「だが邪神を手にする俺の前では、耐えられるだけで反撃する余裕などはまったくないだろう?」
「――どう、かな」
その言葉にイザルデは笑みを浮かべた。嘲笑の意味を大いに含んだそれは、俺の言及が負け犬の遠吠えのように感じたのかもしれない。
さらに圧力が高まる。迫る闇は今にも俺を飲み込もうとする。
これに耐えきれず魔法を食らえば、おそらく俺は死ぬだろう――ただ死の恐怖はない。心の中にあるのは、俺自身の謎とリュハのことだけ。
いや、この際謎についてもどうでもいい――ただリュハのことだけが心配だった。災厄を背負う彼女を俺は、救いたかったし、また一人にさせるわけにはいかないと思った。
「今度こそ終わりだな、セレス」
イザルデの宣告。徐々にではあるが闇が高まっていく。少しでも集中を切ったら、たちまち俺は闇に消されるだろう。
「――いや、終わりじゃないさ」
体の内から魔力を吸い上げる。負けるわけには、いかない……!
そう心の中で叫んだ直後、俺の両手からさらなる魔力が溢れた。それにより圧力が大きく減っていく。
「しぶといな」
だがイザルデも黙っていない。さらに力を加えて俺を押し潰すべく闇の力を高めていく。
力の勝負で押し通るのは難しいか……いや、いける――!!
根拠のない確信ではあったが、それが俺を奮い立たせさらに内側から魔力を吸い上げていく。女神の血を継ぐとはいえ、これほど俺の体に力が眠っていたのか――そう思ってしまうほどだった。
そして、戦いは――大きく状況が変える。闇の力に対し、俺はさらに魔力を高めることで、相手を上回り――光が、目の前に炸裂した。
それは闇を一気にはがし、イザルデに向かっていく――
「無駄だ」
だがイザルデはそれを受け流す。
「こちらに抵抗したが……無意味だったな」
「いや、そういうわけでもないさ」
体に疲労感が生まれ始めたが、まだ戦いは終わっていない……!
「反撃、開始だ」
言葉の直後、イザルデの後方から気配が生まれた。




